製造業のインド進出における新たな潮流
アンドラ・プラデシュ州、グジャラート州へ日系企業進出が進む

2018年7月30日

日系企業の進出先として、南東部のアンドラ・プラデシュ(AP)州や西部グジャラート(GJ)州が注目を集めている。土地代が安く、基礎インフラが整備されていることなどを理由に、両州に進出する企業はここ数年で増加している。投資増の背景には、日系企業が市場の大きさや産業集積だけでなく、州政府の対応や誘致姿勢をより重視していることがある。

製造業の拠点の約8割が4地域に集中

在インド日本大使館とジェトロが発表した「インド進出日系企業リスト」によると、インドに進出する日系企業は毎年増加しており、2017年10月時点で1,369社進出し、4,838拠点(注)を構えている(図1参照)。

図1:インド進出日系企業数の推移
2006年は267社、2007年は362社、2008年は550社、2009年は627社、2010年は725社、2011年は812社、2012年は926社、2013年は1038社、2014年は1156社、2015年は1229社、2016年は1305社、2017年は1369社。ただし、2006年は1月、2007年は2月、その他は各年10月時点。2014年と2013年の企業数は2015年調査時の修正値。
注1:
2006年は1月、2007年は2月、その他は各年10月時点。
注2:
2014年と2013年の企業数は2015年調査時の修正値。
出所:
「インド進出日系企業リスト2017」(在インド日本大使館、ジェトロ)

業種別では683社が製造業で、企業数全体の約50%を占める。生産拠点数は838に達するが、そのうち約8割が首都圏を中心とする北西部(デリー準州、ハリヤナ州、ウッタル・プラデシュ州、ラジャスタン州)、ムンバイ(マハーラーシュトラ州)、ベンガルール(カルナータカ州)、チェンナイ(タミル・ナドゥ州)の主要州に集中している。これは、自動車を中心とする日系製造業の多くが、大都市(顧客)へのアクセスやインフラの整備状況、サプライヤーの集積などを重視して、進出してきたことが背景にあると考えられる。

一方で、AP州およびGJ州への進出企業数は増加傾向にあり、現在AP州には16社130拠点、GJ州には33社321拠点あり、生産拠点数はAP州が25拠点、GJ州が60拠点である(図2参照)。AP州では、南部のスリシティ工業団地に三井化学と東レが工場を建設中。またGJ州では、二輪車大手のホンダが2016年2月にスクーター工場を、四輪車生産を手掛けるスズキの100%子会社であるスズキ・モーター・グジャラート(SMG)が2017年2月に四輪車工場を稼働させた。SMGは2019年初めの稼働を目指して第2工場を建設中で、さらに第3工場建設も計画している。

図2:インドにおける日系企業の進出状況
デリー準州には162社331拠点、主な進出企業は日立、ソニー、シャープ、ヤクルト、銀行、商社など。ハリヤナ州には369社592拠点、主な進出企業はスズキ(二輪、四輪)、ホンダ(二輪)、自動車部品、各種メーカー輸入販社など。ラジャスタン州には48社185拠点、主な進出企業はホンダ(二輪、四輪)、自動車部品、ダイキン、ユニチャーム、大塚化学など。グジャラート州には33社321拠点、主な進出企業はホンダ(二輪)、スズキ、日立エアコン、ヤザキ、TOTO、三菱重工など。マハーラーシュトラ州には220社759拠点、主な進出企業はムンバイに良品計画、旭化成、銀行、生保、証券、海運など、プネに、三菱電機、山崎マザック、カワサキ、自動車部品など。ウッタル・プラデシュ州には45社313拠点、主な進出企業はホンダ(四輪)、ヤマハ、自動車部品など。西ベンガル州には15社197拠点、主な進出企業は新日鉄住金、日立建機、野村総研、エアー・ウォーター、商社など。テランガナ州には27社138拠点、主な進出企業は東芝プラントシステム、不二製油、巴川製作所など。アンドラ・プラデシュ州には16社130拠点、主な進出企業はエーザイ、いすゞ、コベルコ、ユニチャームなど。カルナータカ州には2015社509拠点、主な進出企業はトヨタ、ホンダ(二輪)、ファナック、日清食品、TMEIC、富士通、自動車部品など。タミル・ナドゥ州には197社582拠点、主な進出企業は日産、東芝、コマツ、ヤマハ、パナソニック、自動車部品など。
注:
2017年10月時点。
出所:
在インド日本大使館・ジェトロ公表資料より作成。

コストに加え、州政府の対応や誘致姿勢も重視

両州が日系企業から人気を集める理由として、第1に、土地代が安く、基礎インフラが整備されていることが挙げられる。AP州やGJ州の主要な工業団地の土地代は、先述した主要州の工業団地と比べ2分の1から10分の1ほどの価格になることもある。また、AP州南部の工業団地ではASEAN各地との連結性が良いタミル・ナドゥ州チェンナイ近郊の港湾を、GJ州の工業団地では国内最大の民間港ムンドラ港などを利用することができる。両州は道路整備や電力事情の改善にも力を入れている。

第2に、州政府の対応を重視する日系企業が増えていることが挙げられる。インドでは、進出先を決定して土地を購入したものの、州政府の対応の遅さによって必要な許認可が下りず、着工が遅れ、操業開始までに時間がかかるといったケースも散見される。また、州政府が約束した補助金が実際に支払われていないとして、州政府との間でトラブルになった事例もある。こうした状況を踏まえ、日系企業は進出先州政府の対応の早さや透明性の高さを一層重視するようになった。実際に、AP州やGJ州で操業する日系企業からは「問題点を伝えれば、対応してもらえる」「州が開発する工業団地の土地収用やインフラ整備に関し、協力的である」といった声が聞かれる。

第3に、各州政府の投資誘致に対する積極的な取り組みの中で、AP州とGJ州が特に先進的な動きをしていることが挙げられる。AP州は他州に先駆けて、法人設立に必要な24の許認可を21営業日以内に処理する「Single Desk Portal」を立ち上げた。GJ州は、モディ首相が州首相時代に進めた政策により、インドで最もインフラが整備された州の1つとして知られる。また、インド商工省産業政策促進局(DIPP)が世界銀行の協力の下で実施した「州別ビジネス環境改革評価2017」(29州と7の連邦直轄領が対象)では、AP州が1位を、GJ州は5位を獲得し、ビジネス環境整備に向けた取り組みが高く評価されている。


アンドラ・プラデシュ州で投資誘致サミット「CIIパートナーシップ・サミット2018」に
登壇するナイドゥ州首相(ジェトロ撮影)

以上のように、日系企業が投資コストやインフラの整備状況に加え、州政府の対応や誘致姿勢をより精査するようになったことが、AP州とGJ州への日系企業進出の増加につながったといえよう。今後、大手の日系企業が新たに製造拠点を設ければ、サプライヤー企業などの集積が加速することも考えられる。加えて、AP州は新州都アマラバティの開発、GJ州はムンバイ~アーメダバード間の高速鉄道建設といった巨大インフラプロジェクトも進行する。大きなビジネスチャンスを求めて、両州への日系企業進出が増加する傾向はしばらく続きそうだ。


注:
当該州に本社を構える企業の数を「社」で表し、営業所や工場も含んだ数字を「拠点」としている。
執筆者紹介
ジェトロ福島(元ジェトロ・チェンナイ事務所)
森 史行(もり ふみゆき)
2015年、ジェトロ入構。対日投資部、チェンナイ事務所を経て、2018年5月より現職。
執筆者紹介
ジェトロ・チェンナイ事務所
坂根 良平(さかね りょうへい)
2010年、財務省入省。近畿財務局、財務省、証券取引等監視委員会事務局、金融庁を経て、2017年6月からジェトロ・チェンナイ事務所勤務。