発足から1年が経過した中国(湖北)自由貿易試験区

2018年5月29日

中国(湖北)自由貿易試験区は、内陸部で初となる自由貿易試験区の1つとして2017年4月に発足した。中国政府が掲げる「中部崛起」や「長江経済ベルト」のモデルケースとなるべく、行政管理サービスの改革や各種産業政策、企業優遇政策などが打ち出された。発足から1年が経過し、こうした取り組みは一定の成果を収め、今後はさらに効率的で開かれたビジネス環境が整備されることが期待されている。

内陸部における自貿区の発展モデルを目指す

2016年10月31日、湖北省商務庁から「中国(湖北)自由貿易試験区全体方案」が商務部に提出され、中国共産党中央委員会および国務院の決定により、2017年4月1日に湖北(中国)自由貿易試験区外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (以下、湖北自貿区)が発足した。湖北自貿区の総面積は119.96平方キロで、最大面積を持つ武漢エリア(70平方キロ)を中心に、襄陽エリア(21.99平方キロ)、宜昌エリア(27.97平方キロ)の3つのエリアからなる。湖北自貿区は、同時期に発足した中国(重慶)自由貿易試験区、中国(四川)自由貿易試験区、中国(河南)自由貿易試験区と共に内陸部で初の自由貿易試験区となった。

国務院は、湖北自貿区を「中部地域における産業移転のモデル区、戦略的新興産業およびハイテク技術産業の集積地、全面的な改革開放に向けた試験地、内陸部におけるハイレベルな対外開放地」と位置付けており、中部地域における工業化の推進と交通インフラの整備をめざす「中部崛起」や長江沿岸都市で産業の活性化や高度化を目指す「長江経済ベルト」の発展に向けたモデルケースとなることを求めている。その実現に向けて、湖北自貿区の中心となる武漢エリアでは、行政管理サービスの改革をはじめとする課題の改善に取り組む(表参照)。

表:中国(湖北)自由貿易試験区武漢エリアにおける課題と取り組み
課題 具体的な取り組み
1.行政管理サービスの改革を推進し、政府の機能転換を加速させる
  • 市場参入についてネガティブリスト制度の導入を検討するとともに、「双告知、双承諾(注)」制度を導入する
  • 行政審査・承認制度にかかる改革を加速させ、各種手続きが「すぐにできる、オンライン上でできる、一度でできる」行政サービスを導入する
2.イノベーションが主導する発展を推進し、産業の転換およびアップデートを加速させる
  • 知的財産権の保護や利用、イノベーションに向けた国際的な協力体制を構築する
  • 科学技術研究の成果を応用した創業支援を行い、国内外の産業技術研究所との交流・連携を強化する
  • 海外の有名大学や外国機関、中国教育機関と協力し、自貿区内に人材育成機関を設立する
3.金融分野の開放と革新を深め、科学技術金融を積極的に発展させる
  • 国境を越えた貿易、投資、資金決済を容易にするため、適切な人民元・外貨口座の管理システム構築を探る
4.対外開放を拡大し、開放型経済体制の構築を加速させる
  • 貿易のための総合サービスプラットフォームをつくり、中小企業向けの通関、資金調達、税還付などのサービスを提供する
  • 貿易や越境ECを行う企業のインキュベーター建設を加速し、自貿区の国際貿易コミュニティを発展させる
  • 内陸部の国際水運物流サービス機能を強化し、「一帯一路」および「長江経済ベルト」戦略に呼応する「海外進出」「外資誘致」および「地域間連携」の3方面で対外開放を全面的に推進する
注:
工商登記の完了後に、関連の行政審査部門などへの告知を行い、後続の審査許可手続きを行う。また、許可なしに経営活動を行ってはならず、経営上の信用喪失や違法行為を働いた場合、管理と処罰を受けることを承諾するもの。
出所:
中国(湖北)自由貿易試験区制度匯編

優遇政策を通じた外国企業誘致の強化

湖北自貿区の武漢エリアは、市内中心部の南東に位置する武漢東湖新技術開発区内に設定されている。同開発区は、光電子産業やハイテク産業、生物・バイオ産業などが主要産業となっており、武漢エリアとしても同様の産業を戦略産業として位置付けている。また、武漢エリアでは、中国企業のみならず外国企業にも業種や投資規模、研究開発費、輸出額などに応じた優遇政策が適用される。例えば、外国企業を対象とした優遇政策として、新規設立企業の払込資本金が500万ドルに達する場合は、2,000万元(約3億4,000万円、1元=約17円)を上限として一括払いの奨励金として払込資本金の3~5%が給付される。生産・製造を行う外国企業の固定資産投資額が500万ドルに達する場合は、3,500万元を上限として投資金額の6~10%が給付される。外国企業が事務室あるいは工場の建物を購入する場合は、500万元を上限として購入金額の10%が給付され、事務室あるいは工場建物をリースする場合は、100万元を上限としてリース料の25%が給付される。また、武漢エリアの関係者は、「一事一議(意味:ケース・バイ・ケース)」、つまり企業ごとに相談に応じ柔軟な優遇政策をとる構えであると話す。武漢エリアではこうした優遇政策の強化を通じ、高度な技術を持つ外国企業を取り込むことで、国際的なハイテク技術産業の集積地、また内陸部におけるイノベーションの拠点となることを目指している。

行政管理システムの部門統合が課題

湖北自貿区の発足後、2017年末までに新たに設立された企業数は、中国企業が9,969社、外資企業(香港、マカオ、台湾を含む)が89社となった。武漢エリアでは、投資規模100億元以上のプロジェクトが4件、50~99億元のプロジェクトが5件、その他有名企業による関連プロジェクトはおよそ20件が実行された。また、湖北自貿区の2017年4月~2018年1月の貿易額は、輸出が525億1,200万元、輸入が279億1,600万元となり、同省の貿易額の29.6%を占めた。現地紙は、「行政管理システムの改革が地域のビジネス環境改善や産業発展につながり、一定の成果があった」としながらも、「(武漢エリアで)これまでに行われた改革は断片的なものが多く、行政管理システムの統合レベルが高くないため、企業が得られるメリットはまだ多くない。今後は政府機関の部門統合や部門間の連携をさらに強化していくことが重要な課題」と指摘する。

また、武漢エリアに進出している日系企業(製造業)へのヒアリング調査では、「進出時に開発区だったところがいつの間にか自貿区になっていたが、それによる自社ビジネスへの影響はほとんどない」といった声を多く聞く。湖北自貿区に既に進出した企業の多くは中国企業であるが、今後は外国企業もメリットを得られる効率的で開かれたビジネス環境が整備されていくことが期待される。

執筆者紹介
ジェトロ・武漢事務所
片小田 廣大(かたおだ こうだい)
2014年、ジェトロ入構。進出企業支援・知的財産部進出企業支援課(2014~2015年)、ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課(2015~2016年)を経て現職。