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ルーマニアの治安、過度の不安は無用
女性駐在員が生活実態を交え分析

2018年5月31日

ルーマニアを訪れる日本人がまず口にするのが、治安への不安だ。インターネットで「ルーマニア」や首都の「ブカレスト」という単語と一緒に検索されている関連キーワードは、「事件」「治安」など、安全面に関する単語が上位となっている。またネット上には、ルーマニア関連として、「ぼったくりタクシー」や「野犬」といったネガティブな情報が氾濫している。こうした一部は事実だが、中には誇張や古い情報も多い。本稿では、ルーマニアにおける最近の治安状況と安全対策について、ブカレストの情報を中心に、筆者(女性)の実感を交えて分析する。

犯罪認知件数は6年連続減少

オーストラリアのシンクタンクである経済平和研究所(IEP)の2017年の世界平和度指数によれば、ルーマニアは全163カ国・地域中25位だった(表1参照)。日本の10位に比べると順位(注1)は劣るが、周辺国のハンガリー15位、スロバキア26位、ブルガリア28位、ポーランド33位と比べ、特段低い順位ではない。

表1:2017年世界平和度指数ランキング

1 アイスランド
2 ニュージーランド
3 ポルトガル
4 オーストリア
5 デンマーク
6 チェコ
7 スロベニア
8 カナダ
9 スイス
10 アイルランド
10 日本
12 オーストラリア
13 ブータン
14 ノルウェー
15 ハンガリー
16 ドイツ
17 フィンランド
18 スウェーデン
19 ベルギー
19 オランダ
21 シンガポール
22 モーリシャス
23 スペイン
24 チリ
25 ルーマニア
26 スロバキア
27 ボツワナ
28 ブルガリア
29 マレーシア
30 カタール
31 クロアチア
32 ラトビア
33 ポーランド
34 コスタリカ
35 ウルグアイ
36 エストニア
37 リトアニア
38 イタリア
39 シレラレオネ
40 台湾
41 英国
41 ザンビア
43 ガーナ
44 マダガスカル
45 ラオス
46 モンゴル
47 韓国
48 マラウイ
49 パナマ
50 ナミビア
出所:
経済平和研究所(IEP)資料を基にジェトロ作成

ルーマニア警察の発表によれば、2017年の犯罪認知件数は約55万件と、6年連続で減少しており、直近のピークだった2011年比で25.8%減少している。路上犯罪も同様に2012年比35.5%減少しており、犯罪情勢は好転傾向にあると言える。なお、日本の外務省の海外安全ホームページには、2018年5月9日現在、ルーマニアに対しレベル1から4の危険情報は出されていない。

日本人が被害に遭う犯罪としては、空港や駅に到着した旅行客を狙った強盗傷害事件やスリ、置引が発生している。ブカレストのアンリ・コアンダ国際空港においては、旅行客を狙った犯罪を防ぐことを目的として、登録業者のタクシーのみを呼び出せるタッチパネル式機械が設置され、現在では白タク(無許可のタクシー)の乗り入れはできないようになっている。在ルーマニア日本大使館によれば、2017年中の邦人犯罪被害件数は3件(スリ、置引)だった。

安全対策として、危険地域に近づかないことは不可欠だ。特にブカレスト市第5地区にあるフェレンターリ地区は、都市開発から取り残された貧困層が多く、治安当局は市内で最も危険な地域としている。ブカレストの主要駅であるノルド駅は、以前のように麻薬常習者やストリートチルドレンが多数いるような状況ではないものの、依然として注意は必要だ。また、日本と比べると街灯が少ないため、都市部であっても表通りを一歩外れると夜道が暗く、女性の夜間の一人歩きは避けるべきだ。


アンリ・コアンダ空港に設置されたタクシー呼び出し機(ジェトロ撮影)

野犬被害はここ数年で劇的に改善

ブカレスト市内においても、5~6年前までは野犬被害が深刻な問題だった。しかし、2013年に4歳の男の子が野犬にかまれ死亡した事件を受け、野犬問題が大きな社会問題に発展。その後、野犬の安楽死を可能とする法案が成立したことで状況は劇的に改善した(2013年10月15日記事参照)。当時のブカレスト市には6万4,000匹の野犬が確認されており、犬(飼い犬を含む)にかまれる被害は年間1万6,000件以上に上っていた。報道によれば、この法案成立を機に、2013年10月から2015年にかけ、約5万1,000匹の野犬が捕らえられた。2014年の犬によるかみ付き被害は約8,000件と、2012年に比べ半減した。

現在、ブカレスト市内中心部では、空き地や裏道で野犬を見かけることはあるものの、以前言われていたように群れをなした野犬が襲ってくるようなことはまずなく、過度に恐れる必要はない。また、耳に狂犬病の予防接種済みを示すタグを付けている野犬も多い。一方で、市内中心部から少し離れたアンリ・コアンダ国際空港付近では、いまだ野犬の群れの目撃情報があるほか、特に地方都市では、餌付けした野犬と共生しているコミュニティーも多く、注意が必要だ。


左耳に狂犬病接種済みを示すタグを付けた野犬(ジェトロ撮影)

交通事故、ぼったくりタクシーに注意

治安に加え、注意が必要なのが交通事情だ。ルーマニアでは、他の欧州の都市同様、路上駐車が一般的だ。特にブカレストでは、公共交通網の整備の遅れもあり、自動車保有台数が急増傾向にある。2017年末時点で、人口約210万人に対し自動車保有台数は130万台を突破している。しかし、石造りの古い建物が多い街中においては、駐車場の整備が追い付かず、歩道が駐車された車でふさがり、車道を歩かざるを得ないことも多い。加えて、反対車線を使った追い越しや、路面電車の線路を走行するといった運転マナーの悪さや、道路の陥没が散見される。冬場においては路面の凍結や、午後4時半ごろには暗くなる日の短さも、日本人にとっては慣れるまで時間を要するかもしれない。ルーマニア警察の発表によれば、2017年の交通事故死亡者数は1,946人だった。人口100万人当たりでみると、日本の29人に対し、ルーマニアは98人と、およそ3.4倍だ(注2)。


冬場は路面の凍結に注意が必要(ジェトロ撮影)

また、外国人が被害に遭いやすいのが、タクシーのぼったくりだ。公共交通機関が未発達のルーマニアでは、タクシーが市内移動の足として重要な役割を持つが、タクシーでの不当請求被害は枚挙にいとまがない。手口としては、メーターを回さない、メーターが超高速回転する、メーターが壊れたと言い張る、目的地と全く違う方向に迂回する、などさまざまだ。例えば、空港から市内間では平均料金が30~40レイ(約840~1,120円、1レイ=約28円、レイは通貨単位レウの複数形)なのに対し、1.5~2倍の50~80レイ(約1,400~2,240円)を要求してくるケースが多い。特に、流しや道路で客待ちをしているタクシーは危険だ。向こうから料金を提示してくるタクシーは、まずぼったくりと思った方が良い。

そこで都市部で広く利用されているのが、ウーバーなどのタクシー配車アプリだ。利用者は、運転手の名前や利用客の評価、料金の目安を確認した上で配車を依頼できるため安心感がある。さらに、「小銭がない」と主張し、おつりを渡さない運転手も散見されるため、タクシーを利用する際、乗客は小額紙幣(1、5、10レイ札)を用意しておくこと。おつりのトラブルを避けるには、事前登録が必要ではあるが、クレジットカード決済が可能な配車アプリを使うことも有効だ。

その他、交通事情で注意を要するのが渋滞だ。オランダの大手カーナビ会社トムトム(TomTom)が2017年に発表した調査(日本は含まず)によれば、ブカレストはメキシコ市、バンコク、ジャカルタ、重慶市に次ぐ世界第5位の渋滞都市だ。特に夕方のラッシュアワー(午後4~8時)にかけては、移動に通常の2、3倍近く時間がかかることも少なくない。この時間帯はタクシーもなかなかつかまらない。


路上の客待ちタクシーの利用は極力避けるべき(ジェトロ撮影)

政治上のリスクに注意、対日感情は良い

テロの発生リスクは高くない。IEPの「世界テロ指数」によれば、ルーマニアは130位で最下位だ(順位が高いほどテロのリスクが高く、日本は58位)。一方で、政治情勢に起因する治安への影響には注意が必要だ。2017年2月には、司法改革をめぐり、1989年の革命以来最大規模となる約50万人が参加した抗議デモが発生し、その後も小規模な反政府デモは頻発している。暴徒化や治安当局との衝突はめったに見られないものの、デモ発生地周辺には近づかない方が賢明だ。

加えて、1年の間に2度首相が交代するなど短命政権が続いており(2018年2月20日記事参照)、安定した長期政権の展望が見えづらい点や、根深い汚職や賄賂など、政治的リスクには注意が必要だ。2018年4月には、首相が在イスラエル大使館のテルアビブからエルサレムへの移転可能性について言及し、野党出身の大統領はこれに激しく反発している。

対日感情としては、近年はアニメや漫画人気を受け日本語を勉強している学生も多く、一般的には親日家が多い。世論調査会社INSCOPが2016年に実施した調査によれば、ルーマニア人の日本に対する感情は77%が「ポジティブ」との回答だった。しかし、アジア人の珍しさからか、街中で視線を感じることはブカレストでも頻繁にある。

筆者は、欧州の他の主要都市と比べ、ブカレストの治安が特別悪いと感じたことはない。もちろん、持ち物に注意を払う、治安の悪い地域には近寄らない、といった基本的な留意事項を守る必要はあるが、ネット上のネガティブな情報には誇張が多いと感じる。若者を中心に英語に堪能な人が多いため、ルーマニア語ができなくても生活に困ることが少ない点も、駐在員にとっては安心材料だ。


注1:
経済平和研究所(IEP)が23の項目にわたり163カ国を対象に、各国の社会的安全およびセキュリティー、国内および国際紛争、軍事化、の3つの領域から分析したもの。
注2:
日本の警察庁発表資料によれば、2017年の交通事故死者数は3,694人。
執筆者紹介
ジェトロ・ブカレスト事務所
藤川 ともみ(ふじかわ ともみ)
2015年、ジェトロ入構。海外調査部・海外調査計画課(2015~2017年)を経て現職。

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