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経済の基盤強化を目指すキルギス

2018年4月27日

中央アジアにある高原の国・キルギス。2017年11月24日にジェエンベコフ新大統領が誕生した。新大統領は外交面ではアタムバエフ前政権の政策を継承し、ロシアとユーラシア経済連合(EEU)諸国、中国との経済関係強化を進める。内政面では2014年以降の安定した経済成長を発展させるため、行政手続きの電子化や投資窓口の変更をはじめ、新たな投資誘致、産業振興を目指す経済政策を進める。日本企業にも今後キルギスでのビジネスの可能性がわずかに見え始めた。

就任直後から精力的な外交活動

就任演説でジェエンベコフ大統領は、外交面ではロシアとの戦略的なパートナーシップを継続・発展させる意向を示す一方、中国との関係では経済的にパートナーシップを強化し、さらなる経済発展を目指すとした。さらにEEUを軸にした連携も含め、周辺地域での各国間協力に積極的参加し続けて行く意向を示している。

有言実行の姿勢を示すかのように、ジェエンベコフ大統領は就任5日後の11月29日にロシアを訪問。プーチン大統領、メドベージェフ首相らとの間で、政治、貿易、経済、軍事から人道援助まで、協力関係強化に関する幅広い議論を行った。翌30日はベラルーシを訪問し、ミンスクで開催された集団安全保障会議(CSTO)に出席。カザフスタンのナザルバエフ大統領と会談し、懸案となっていた両国間での食品検疫問題(注1)につき解決に道筋をつけている。

国家行政の電子化にまい進

内政面では汚職の一掃をはじめとして改革に取り組むことを力強く宣言した。キルギスは人口約600万人と市場規模が小さく、資源も乏しい。同国の国内総生産(GDP)成長率は、2013年に10.9%を記録して以降、2014年4.0%、2015年3.9%、2016年3.8%、2017年の成長率も3.5%(国際通貨基金(IMF)予測値)と、プラス成長を維持するものの、伸び悩みを見せている。

同国のさらなる経済成長のため、経済政策の司令塔であるイサコフ首相は新たな経済政策を打ち出している(注2)。経済、社会政策、教育・科学、エネルギー、環境対策など多岐にわたる政府の発展戦略目標となる「政府プログラム 未来への40ステップ」(以下「40ステップ」)だ。最終的に2018年から2023年の間でGDPや所得の倍増、国連開発計画(UNDP)の人間開発指数、世界競争力指数と腐敗認識指数(CPI)で世界上位80カ国を目指す。40ステップの中で最優先とされるものは、行政手続きや公共サービスの提供を電子化する「タザーコーム」である。電子化・デジタル化によって人的要因による非効率、すなわちヒューマンエラーや汚職を根絶するのが目的。国家活動の透明性向上と事務手続きの正確さと簡素化により、ビジネス環境を改善し、海外からの投資を呼び込むのが狙いだ。

投資誘致窓口を刷新

新政権は2017年11月、政府の外国対内投資窓口を一新した。それまで経済省傘下の投資輸出促進庁が投資窓口となっていたが、新たに投資促進保護庁に名称を変更した上で、経済省から首相府へと移管した。長官にはイサコフ首相の元アドバイザーであったエセンクル・モムンクロフ氏が就任し、首相府直轄で投資誘致と産業振興を進める。同庁の役割には投資誘致に加え、輸出促進、官民パートナーシップ(PPP)案件の推進、自由経済区(FEZ)の運営が含まれる。FEZは1990年代に国内5カ所(表参照)で設置されたが、ビシケクFEZ以外の4カ所FEZ(マイマク、ナルィン、カラコル、レイレック)は、首都ビシケクまでのアクセスが悪いこと、そして鉄道輸送のアクセスも悪いため、企業誘致は政府の計画通りに進んでいない。この4カ所のFEZに外国企業を誘致し、農産物、食品、繊維などの生産と輸出を拡大することが投資促進保護庁に期待される役割だ。

表:キルギスの自由経済区(FEZ)5ヵ所の概要
FEZ名称 特徴
(1)ビシケク 1995年7月に設立。国内最大のFEZ。政治経済中心の首都ビシケクに位置。約300社が進出しており、9割以上が外資。3,000人以上の労働者雇用。キルギスにおけるFEZの総投資額の76%以上。
(優遇措置)
  • 関税、付加価値税(VAT)12%、 法人税10%、所得税10%の減免。土地税、資産税の免除。
  • 事業者登録の簡素化。外国人雇用者に対する入退出手続きおよび通関手続きの簡素化。
(2)マイマク 1997年設立。カザフスタンとキルギスの国境にあり、国際輸送十字路として便利な位置。ビシケクから陸路で、3,000~4,000メートル級の峠を車で2つ超える。
(3) ナルィン 1991年設立。中国との国境から186Kmの位置。観光や鉱業発展のポテンシャルがある。ビシケクからナルィンまで陸路で約4時間半。
(4)カラコル 1994年設立。イシククル湖の海岸の天山山脈のふもとに位置。ビシケクから陸路で5~6時間。
(5)レイレック キルギスの西南で、タジキスタン国境沿いの位置。キルギス第二の都市オシュから陸路で約10時間。
出所:
各種資料を基にジェトロ作成

FEZで活動する企業は、製品・サービスの売上総額の70%以上を輸出する条件で税制上を含む優遇措置が受けられる。ビシケクFEZでは現在約300社が活動しており、3,000人以上が働く。そのうち外国進出企業は9割以上で、ロシア、カザフスタン、中国、韓国、アフガニスタン、イラン、トルコ、インド、サウジアラビアなどから進出している。

日本企業も徐々に進出

2017年6月に澤田ホールディングス(本社:東京都新宿区)がキルギスコメルツ銀行の株式を取得し、連結子会社とした。取得価額は約8億円。進出の背景には、キルギスは外国為替管理の自由化が進み投資・配当などの外貨送金がスムーズであること、大統領は再選不可と憲法で規定する(実際に2017年の大統領交代は全く混乱なく行われた)など、民主化が進んでいることなどを同社関係者は挙げている。また国際金融機関の同国の金融分野への高い評価があったことも、キルギス進出の契機となった。現在キルギスコメルツ銀行はキルギス唯一の有料信用調査機関と提携して与信管理の強化に努めており、新たに進出する日本企業へ現地の優良企業を紹介するサービスを展開している。将来、頼もしい日系銀行に成長することを期待したい。


キルギスコメルツ銀行本店(ジェトロ撮影)

他の進出日本企業の例としては、防災製品製造の東京製綱(本社:東京都中央区)、中古車販売のエスビーティー(本社:神奈川県横浜市)などがある。東京製綱は2016年カザフスタンに防災製品の製造、販売会社設立。新たな販路拡大のためキルギスへ進出した。日本より100%出資し、ビシケクに事務所開設。防災製品をカザフスタンより輸入し、現地で販売と工事設置を行う。エスビーティーは、キルギスをハブにロシアCIS圏にビジネスを行うユニークな例だ。横浜に本社をもち、中古車販売を世界的に展開。日本からキルギスへの中古車輸出台数が伸びていたため、商機と判断して、2012年にビシケクに日本語と露語対応のコールセンターを設立。しかし、キルギスでは2015年4月に右ハンドル車の輸入規制が導入され、日本からキルギスへの中古車輸出は全面ストップとなった。そのため同社は、2016年以降原油価格の回復を背景に景気が上向くロシア向けの輸出を強化した。今ではコールセンターはロシアからの発注が主となっているという。キルギスではロシア語が通じることが旧ソ連圏でのビジネスを行う上での利点となっている。

キルギスから日本への輸入例でも成功例がある。食品小売り大手の成城石井(神奈川県横浜市)ではキルギス産はちみつが販売されている。ジェトロの支援でアジア最大の食品見本市「FOODEX」に出展したことが日本への輸出のきっかけとなった。

キルギスの地場企業も徐々に日本企業と直接取引できる実力をつけてきている。キルギス最大の薬局チェーン、ネマン・ファム社(以下、N社)はキルギス全国で200カ所以上の店舗を展開し、従業員1,400人、2017年売上高は約7,000万ドル。医薬品関連の他、日用雑貨なども取り扱う。現在N社はロシア経由で日本製家庭用血圧器などを輸入販売しているが、日本との直接貿易を希望している。現在のところ直接取引に応じる日本企業はない。N社のアルクバエフ社長は「輸入代金の外貨送金については、1~2万ドルであれば、前金も可能。10万ドルの金額なら、船積み後5万ドル送金、残り5万ドルは貨物がキルギス到着確認後送金できる」と語る。

キルギスコメルツ銀行の会長であるアルマズ・アイバラエフ氏も、日本の建設機械等に関しキルギスの需要が高く、現在トルコ経由の取引からキルギスへ直接輸出に切り替えれば、中央アジアの販売拠点として、周辺諸国まで拡販が期待できるとの見方を示す。

日本とキルギス間のビジネスは少しずつ芽生えてきている。ユーラシア経済連合の深化が進み、ロシアを含む同連合加盟国の1.8億人市場も見えてくる。キルギスにとって「タザーコーム」に代表される行政手続きの透明性、腐敗の根絶など、外国企業からユーラシア連合のなかで「選ばれる」投資環境の整備こそが、経済発展を継続する唯一の条件と言えるだろう。


注1:
カザフスタンは2017年10月上旬、キルギス側の衛生植物検疫がユーラシア経済連合の基準に適合していないとして、キルギスからのトラックの貨物検査を厳格化。酪農加工品を中心とするキルギス製品がロシア向け等に出荷できない状況となり、両国の関係が悪化していた。
注2:
本稿は2018年3月に執筆。2018年4月19日、イサコフ首相は国会の不信任決議を受け解任されている。新首相の経済改革姿勢を慎重に見極める必要がある。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課 アドバイザー(執筆当時)
重松 和英(しげまつ かずひで)

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