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日中関係改善で企業連携に期待高まる
広州で米中貿易摩擦などに関するセミナー開催

2018年11月28日

ジェトロ広州事務所は11月1日、広東省広州市で広州日本商工会と、米中貿易摩擦の中国経済への影響や今後の見通しなどに関するセミナーを共催した。本セミナーではキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の瀬口清之氏が「トランプ政権と新時代の日中関係」と題し、米中貿易摩擦の中国経済への影響や今後の見通し、日中両国企業による連携の可能性などについて講演を行った。講演要旨を紹介する。


セミナーで講演する瀬口氏(広州日本商工会提供)

中国経済は2020年まで安定を持続

中国政府は、2016年から2020年まで5年間のGDPの平均成長率目標を6.5%としている。中国のGDP成長率は2017年に6.9%となり、2018年は6.6%に達する見通しのため、5年間の成長率目標達成はほぼ間違いない上、経済状況も2020年まで安定を維持するとほぼ確実にいえる。

こうした中、固定資産投資の伸び率は緩やかに低下している。金融リスク防止策の一環により、シャドーバンキングからの借り入れやP2P金融による資金調達が抑制されたことで、不動産や地方でのインフラ投資が減速し、国有企業による投資が抑制されたためだ。

不動産投資の抑制を受け、不動産市場の需給バランスは、2級、さらには3級都市でも均衡している。過剰な設備や在庫の削減も進んだ結果、2017年以降は製造業の設備稼働率が上昇し、2018年には企業収益率が2011年並みの高い水準に達した。

消費については、2018年に入り自動車と白物家電の伸びが鈍化した。前出のとおり貸し出しが抑制されたことで、民間企業は自社株を担保にお金を借りる傾向にある。金融リスク防止のためのデレバレッジ政策や米中貿易摩擦を受けて株価が下落したため、株式担保金融が行き詰まり、富裕層の購買意欲が低下している。他方、食品など生活に関連した消費は依然好調であり、消費全体では今後も堅調が続くと予測される。

貿易摩擦長期化なら経済成長を抑制

中国の輸出は、世界経済の回復を受け、増加基調にある。米中貿易摩擦の影響が懸念されるが、関税率の10%程度の引き上げは元安で相殺され得る。現在、駆け込みで対米輸出が増加しており、影響が明確に表れるのは、2019年の第1四半期以降だろう。ただ、両国間の貿易摩擦が現在の状態で長引けば、同年の中国のGDP成長率は当初の予測より0.5ポイント程度低下する可能性がある。

現在、米国では減税策や金融面でのテコ入れもあって好況が続いている。しかし、2019年後半以降は景気が減速し、中国の対米輸出にも影響が生じると予測される。

中国経済は2020年代半ばに高度成長期から安定成長期へ移行するだろう。2020年代後半以降は、(1)産業競争力の低下に伴う双子の赤字拡大、(2)少子高齢化の加速による財政負担増大、(3)不動産価格の大幅下落とこれに伴う不良債権増大、(4)金融機関の業績悪化などによる景気停滞の長期化が懸念される。

2017年の中央経済工作会議では、習近平国家主席が(1)貧困からの脱却、(2)環境改善に加え、(3)金融リスクの防止を政策課題に掲げた。(3)により、地方政府の財政再建、シャドーバンキングなど違法貸し出しの抑制などが行われており、景気に悪影響が出ている。それでも当面は、3つの重要改革を推進するとともに、イノベーションの促進により産業を振興することで、マクロ経済の安定維持を図って行くとみられる。

米国企業は貿易摩擦を静観

米中貿易摩擦の背景としては、(1)11月の中間選挙向けプロパガンダ、(2)トランプ大統領の周辺の人々が技術移転による中国の競争力強化を懸念している点が挙げられる。米国が中国を脅威と感じている理由は、中国の持続的な経済発展の結果、経済・軍事の両面で中国が米国に近づき始めているためだ。

米国政府内の対中感情は、尖閣諸島の領有権問題が発生した2012年以後の日本国内と同じ程度に悪化していると思われる。中でも、対中強硬派のライトハイザー通商代表やナバロ国家通商会議委員長は、中国の経済成長を抑制するため、中国製造2025や「一帯一路」の中止、中国国内の外資系メーカーの国外移転等を主張している。

他方、在上海の米国商工会議所が最近実施したアンケートによれば、中国からの生産拠点の移転に関し、会員の65%が「現状維持」、19%が「東南アジア諸国との間で若干の調整を実施」と回答し、「米国への移転を予定」との回答は6%にとどまったという。米国系企業は米中の外交関係に左右されず、中国市場の優位性を冷静に分析している。

補完関係になり得る日中企業

2018年5月の李克強首相の訪日により、日中関係は正常化した。安倍晋三首相は同年10月に訪中した際、日中両国は「競争から協力へ」と強調した。両国関係改善の要因としては、(1)2017年10月の第19回党大会で習近平政権の政治基盤が強固になったこと、(2)米中貿易摩擦の激化、(3)「中国製造2025」が進展しない中、中国側で日本企業による技術協力への期待が高まっている点が挙げられる。

技術流出の懸念や、中国企業によるクーカ(KUKA)やダイムラーなどドイツを代表する企業の買収を受け、欧米企業が対中ビジネスに慎重になる中、日本企業は日中関係の改善などを受け、2016年秋以降、対中ビジネスを積極化させている。

日本企業は、中国への技術流出には長年対応してきた。また、日本の得意分野である自動車、ロボット・工作機械、素材などでは統合型技術の盗用が難しい。中国企業は、情報通信技術(ICT)分野で既に日本企業を追い越したが、その他の製造業分野では基礎技術の開発力が弱い。中国企業が新製品を開発し、市場を独占するのは困難だ。日本企業は中国をポジティブにみている。

中国企業が欧米で脅威とみなされるのは、中国企業に欧米でのビジネスの経験が少なく、現地の文化にも無知であるため、容易に人々の感情を傷つけてしまうことに起因する。

日本はアジアで最も西欧社会の思想・哲学、政治経済や社会制度になじみが深く、文化への理解度も高い。日本企業は今後、第三国市場協力の一環として、中国企業による欧州でのビジネスに対し出資、助言などの協力が可能ではないかと考える。

中国企業は、一般的にチームワークを構築し中長期的な視点で技術開発に取り組むのが苦手だ。生産管理の水準も企業間で格差が大きく、日本企業とは対照的である。

他方、日本企業では、ほとんどの役員が中国ビジネスを理解していないとの声もある。多様かつ急速に変化する中国市場のニーズを把握できず、製品開発、デザイン設計、価格設定、販路開拓などで的確な判断を下せない結果、損失を出しているケースもある。マーケティングを優秀な中国人リーダーに委ねるほか、日中双方の企業が協力を深化させることで、双方は中国市場でウィンウィンの関係を構築できるのではないかと思う。

執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所 次長
粕谷 修司(かすや しゅうじ)
1998年、ジェトロ入構。中国・北アジアチーム(1998~2000年)、ジェトロ青森(2000~2002年)、ジェトロ・香港事務所(2002~2008年)、知的財産課(2008~2011年)、生活文化産業企画課(2011~2014年)を経て、現職。

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