中国のEVシフトに立ちはだかるコバルト供給問題
貿易統計などを基に分析

2018年9月28日

中国政府は新エネルギー車(NEV)の普及に力を入れている。2012年に「省エネ・新エネルギー車産業発展規画(2012~2020年)」、2017年に「自動車産業中長期発展規画」を発表し、電気自動車(EV)およびプラグインハイブリッド車(PHEV)などNEVの累計生産・販売台数を2020年までに200万台に、2025年までに700万台以上にする方針を打ち出した。その後も、中央政府や地方政府などからさまざまな補助政策が打ち出され、NEVが徐々に普及し始めているのに伴い、EVのリチウムイオン電池に使用される金属の需要も高まっている。

本レポートでは、EVのバッテリーに使用される代表的な鉱物のコバルトについて、貿易統計などを用いて分析する。

埋蔵量、生産量ともにコンゴ民主共和国が1位

コバルトはレアメタル(注)の一種で、元素番号27、元素記号はCo。主な用途は携帯電話やEVにも使用されるリチウムイオン電池(LIB)の正極材だ。経済産業省資源エネルギー庁は「EVのリチウムイオン電池に必須の資源」としている。

米国地質調査所(USGS)によると、世界のコバルト埋蔵量は約710万トンで、その半分近い350万トンがコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)に埋蔵されている(図1参照)。生産量をみると、2016年の全世界でのコバルト生産量は約11万1,000トンで、その半分超の6万4,000トンがコンゴで生産されているという(図2参照)。なお、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)などによると、コンゴのコバルト鉱山は主に南部のザンビアとの国境地帯に多く存在する。

図1:世界のコバルト埋蔵量(単位:トン)
米国地質調査所(USGS)によると、世界のコバルト埋蔵量は約710万トンで、その半分近くの350万トンがコンゴ民主共和国に埋蔵されている。
出所:
USGS
図2:2016年の世界のコバルト生産量(単位:トン)
米国地質調査所(USGS)によると、2016年の全世界でのコバルト生産量は約11万1,000トンで、その半分以上の6万4,000トンがコンゴで生産されているとしている。
出所:
USGS

また、世界各国の貿易統計でコバルトの取引量を輸入ベースでみると、2017年の全世界のコバルト取引量は14万9,042トンで、その97.5%に当たる14万5,287トンがコンゴから輸入されていた(図3参照)。現在、世界的にコバルトはコンゴに依存しているといえる。

中国の貿易統計をみると、2017年の中国のコバルト輸入量は10万862トン、そのうちコンゴからの輸入は9万9,998トンで、中国のコバルト輸入量全体の99.1%をコンゴに依存している(図4参照)。また、中国のコンゴからのコバルト輸入量は、世界のコンゴからの輸入量の68.8%、世界のコバルト取引量の67.1%を占めており、世界のコバルト取引の中で中国は大きな存在感を示している。


中国は貿易だけでなく、生産面でも存在感を高めている。資源エネルギー庁によると、中国は2016年、コバルトの世界生産量の権益の約3分の1を保有しており、製錬所ベースでは50%以上所有している(図5、6参照)。

図5:2016年のコバルト鉱石生産シェア
経済産業省資源エネルギー庁によると、中国は2016年、コバルトの世界生産量の権益の約3分の1を保有している。
注:
枠線があるものは実質中国資本。
出所:
経済産業省資源エネルギー庁「海外からの資源獲得及び国内資源開発に向けた取組」
図6:2016年のコバルト製錬の国別シェア
経済産業省資源エネルギー庁によると、中国は2016年、世界のコバルト製錬の半分以上のシェアを占めている。
出所:
経済産業省資源エネルギー庁「海外からの資源獲得及び国内資源開発に向けた取組」


同庁によると、この背景には、中国が「一帯一路」戦略の一環として経済協力や安全保障も含めた資源確保を推進しており、中国企業は中国政府の支援の下、コンゴへの投資を加速させていることが挙げられるという。実際、中国企業によるコバルトに関連する投資は、コンゴを中心に活発に行われている(表1参照)。

表1:中国企業のコバルト投資の動き
企業 国・地域 詳細
金川集団国際資源 2013年 アフリカ 金川集団国際資源は金瑞鉱業の100%の権益を買収した。購入金額は12億9,000万ドル。金瑞鉱業はアフリカで銅やコバルトの鉱業権を保有していた。
華剛鉱業 2015年 コンゴ 中国とコンゴとの合弁会社である華剛鉱業は、保有している銅・コバルト鉱山が正式に生産を開始したことを発表した。埋蔵されている金属量は868万トン。生産ラインがフル稼動すれば、年間鉱石処理量は455万トンに上り、年間12万5,000トンの銅地金を生産できるという。
洛陽栾川モリブデン業集団 2017年 コンゴ 洛陽栾川モリブデン業集団はテンケ鉱業の権益に対する取引を完了した。これにより、洛陽モリブデン集団は80%の権益を保有することになる。同鉱山は世界最大の埋蔵量を誇る銅・コバルト鉱山であり、品位(鉱石の金属含有率)も最も高いという。
銀禧科学技術 2018年 コンゴ 銀禧科学技術はコンゴで1億ドルを投資し、コバルト事業を拡張する。子会社である銀禧科技(香港)がルアバラ州で子会社の銀禧科技(コンゴ)コバルト業を設立した。銀禧科技(コンゴ)コバルト業は、2018年5月に銅・コバルトの採掘権を獲得している。
鵬欣資源 2018年 コンゴ 鵬欣資源は、コンゴで子会社を設立し、現地のVicent Miningと製品に関する独占販売契約を締結した。Vicent Miningは15年間、SMCOに銅・コバルト精鉱を提供する。銅およびコバルトの年間提供量(金属量)はそれぞれ5,000トン以上、1,500トン以上。
中国有色鉱業集団 2018年 コンゴ 中国有色鉱業集団は、コンゴ鉱業と合弁でDeziwasasを設立し、カタンガ地域の銅・コバルト鉱床を開発する。当該プロジェクトに係るインフラ設備の建設は2020年に完了予定。権益の比率は、中国有色鉱業集団が51%、コンゴ鉱業が49%。
中融新大集団
江西銅業集団
2018年 ペルー 中融新大集団と江西銅業集団は「ペルー共和国パンパ金銅コバルト多金属プロジェクトにおける戦略的協力枠組協議」を締結した。両社は合弁会社を設立し、パンパ金銅コバルト多金属プロジェクトを開発、運営する。投資総額は26億9,200万ドル。
中国有色金属 2018年 ザンビア 2018年8月、中国有色金属の傘下にある中色アフリカ鉱業のチャンビシ東南鉱体に対する探査・開発協同プロジェクトの試運転が開始された。投資総額は8億3,000万ドル。年間鉱石処理量は330万トンで、年間銅精鉱6万3,000トン、コバルト1,000トン(金属量)の生産を計画している。
盛屯鉱業集団 2018年 コンゴ 盛屯鉱業集団は、金川集団国際資源の傘下企業である金川ルアシとムソノイ・ディララ鉱床に関する協定を締結した。契約額は1,000万ドル。これにより、盛屯鉱業集団は同鉱床の独占販売権を保有することになる。
出所:
JOGMEC金属資源情報などより抜粋

今後、「一帯一路」戦略などの対外投資戦略により、中国の対外投資が加速すれば、中国によるコバルトの寡占が進む可能性も考えられる。

コンゴのカントリーリスクと価格上昇が喫緊の課題

そうした中、コバルトの安定供給に懸念の声が広がっている。主な要因は、世界の大半のコバルトを埋蔵、産出しているコンゴの抱えるさまざまなリスクである。

コンゴの政情は安定しているとは言えない。1998年に政府と反政府勢力との間で内戦が起こり、周辺諸国が介入する事態となった。紛争は終結したものの、反政府武装勢力はコンゴ各地で活動を続けている。加えて、コンゴのカビラ大統領は2016年末に大統領の任期が満了したが、次期大統領選を実施しない限り大統領の職務を継続できる。選挙は行われていない。アムネスティなどによれば、選挙を求めるデモ隊が治安部隊と衝突して死者が出たり、デモへの参加を呼び掛けていた活動家が拘束されたりする事件も発生した。カビラ大統領は2018年8月、同年12月に行われる大統領選挙の後継候補にシャダリ氏を指名した。カビラ大統領は選挙に出馬しない意向を示しているが、今後政情が安定するかどうかは不透明だ。

治安も良好なわけではなく、日本の外務省の海外安全ホームページによると、コンゴ南部のカサイ3州や北東部などで退避勧告が、北部の一部で渡航中止勧告が出されており、これら以外の地域でも不要不急の渡航はやめるよう警告されている。

また、コバルト採掘の際の児童労働も問題となっており、ロンドン金属取引所(LME)は2018年4月に、人権問題のあるコバルトを供給した場合は業者との取引を停止すると表明した(日本経済新聞8月18日付)。これにより、コバルトの生産が抑制される可能性が懸念されている。

さらに、コンゴ政府は鉱業法を改正し、2018年6月から、コバルトを含めた鉱石への増税政策を実施した。これにより、コバルトのロイヤルティーが2%から10%に引き上げられ、さらに事前調査段階での想定価格を25%以上上回った場合、超過利潤税が新たに50%課せられるようになった。この資源ナショナリズム的な動きは、今後も続いていく可能性がある。

コンゴ以外でもコバルトは採掘できるが、埋蔵量や生産量の規模はコンゴほど大きくなく、同国のカントリーリスクがコバルトの安定供給に大きな影響を与えている。

最大のコバルト産出国コンゴのリスクに加えて、コバルトの単価が上昇傾向にあることも懸念される。次のように、中国以外にもEVを推進している国は欧州などにも多くある。

表2:欧州各国のEV施策
施策
ドイツ 2020年までに100万台のEVを普及させる。
ポーランド 2025年までに、国内に100万台のEVを走行させる。
オランダ 2025年までに、全ての化石燃料者の販売を禁止。
ノルウェー 2025年以降、EVとハイブリッド車のみ販売を許可する。
チェコ 2030年までに代替燃料車の割合を10%に引き上げる。
2030年までに、25万台のEVを普及させる。
フランス 2040年までに化石燃料車(ガソリン車やディーゼル車)の販売を禁止。
出所:
チェコインベスト資料

EVバッテリーに使用されるコバルトの需要は拡大しており、それに伴いコバルトの価格も上昇傾向にある。

コバルトの単価(輸入額を輸入量で割ったもの)は、2016年末は1トン当たり2,000ドル前後で推移していたが、2017年5月に4,000ドルを超えて以来、4,000ドル前後で推移している。

「コバルト問題」に対応する動きも

コンゴの供給リスクやコバルトの価格上昇を受け、コバルトの調達先を見直す動きが広がっている。コバルトはカナダやオーストラリアにも埋蔵されているが、EV需要の高まりなどを受け活発に採掘が行われるようになったという。JOGMECによると、オーストラリアでは、コバルトはこれまでニッケルの副産物として採掘されていたが、近年になってコバルト採掘をメインとしたプロジェクトが幾つも立ち上がっている。

また、EVに使用されるリチウムイオン電池のコバルト使用量を減らす動きもある。富士通研究所は、コバルトではなく鉄を用いたリチウムイオン電池の正極材の開発に成功した(日経産業新聞8月29日付)。また、パナソニックの社内カンパニーであるオートモーティブ&インダストリアルシステムズは、コバルト使用量を半減させた円筒型リチウムイオン電池について、2~3年以内の量産化を視野に入れており、同時に、コバルト使用量をゼロにしていきたいともしている(ロイター通信7月12日付)。このような動きが世界中で起こり、コバルトの需要過熱が落ち着けば、価格が下がることはもちろん、供給問題の解決、EVのさらなる普及につながる可能性がある。

中国ではNEV販売台数が伸びている。2017年は前年比53.3%増の77万7,000台で、内訳はEVが82.1%増の46万8,000台、PHEVが39.4%増の11万1,000台と堅調に伸びた。2017年4月に中国政府は「自動車産業中長期発展規画」を発表し、2025年のNEV販売台数目標を700万台としている。さらに、2018 年には「中国乗用車企業平均燃料消費量(CAFC)と新エネルギークレジット(NEV)並行管理弁法」が公布され、燃費改善と新エネ車の普及を同時に行うことが決定された。地方政府もさまざまな補助政策を打ち出しており、今後もEVを含めたNEVは中国で普及していくと思われる。

中国は、世界で最もEVシフトを推進している国の1つである。その成否は、コバルトの安定供給問題の解決や、コバルトを使用しないバッテリーの開発の成功などにかかっているといえそうだ。


注:
経済産業省鉱業審議会は、「地球上の存在量がまれであるか、技術的・経済的な理由で抽出困難な金属」のうち、工業需要が現に存在する(今後見込まれる)ため、安定供給の確保が政策的に重要であるものと定義している。現在、コバルトを含めた31種類がレアメタルの対象となっている。

変更履歴
表2に誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。(2018年10月5日)
ポーランドの施策
(誤)2025年までに、国内に100台のEVを走行させる。
(正)2025年までに、国内に100万台のEVを走行させる。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課
楢橋 広基(ならはし ひろき)
2017年4月、ジェトロ入構。同月より現職。