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官民一体でAIに賭ける中国
2030年に世界一を目指す

2018年4月27日

2017年5月、中国社会に衝撃が走った。米グーグル傘下の人工知能(AI)開発会社が開発した囲碁のAI「アルファ碁」が、世界最強の棋士とされる中国の柯潔(カ・ケツ)九段との三番勝負で全勝し、圧倒的な強さを見せつけた。つい最近まで囲碁はルールや手法が複雑であるため、AIがトップ棋士に勝つのは10年先だと言われてきた。「アルファ碁」はとてつもない可能性を秘めるAIの未来の姿を示唆する。官民一体となり2030年にAIで世界一を目指す中国について考察する。

産業界に影響を与えるAI

2017年1月のスイス・ダボスで開催された世界経済フォーラムで、人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)などを軸とする第4次産業革命が本格的に議論された。AIは従来、機械学習を活用した統計分析が中心だったが、人間の脳にある神経回路網(ニューラルネットワーク)を模した深層学習(ディープラーニング)が発明されると、画像や音声を認識する精度が飛躍的に高まった。言語処理や顔認証、無人運転、コネクテッドカー、ロボットなどで広く応用されるようになり、AIはいまや中国の産業界に影響を与えている。

家電業界はテレビや冷蔵庫などにAIを搭載し、スマートホーム市場に切り込む。家電大手の海爾集団(ハイアール)は2017年11月、スマートホームを実現するための方針案を業界として初めて打ち出した。AI 、IoT、OS(オペレーティング・システム)、ビッグデータ、クラウドプラットフォームなどを活用し、家庭内の電化製品からデータの採集・計算を行い、居住者の生活習慣に合わせたスマートライフの実現を目指す。同社は2014年から、スマートライフとIoTのプラットフォームを構築し、スマートホームの業界基準作りを主導してきた。スマートホームの推進・応用を拡大させるため、提携パートナーのほか、AIやビッグデータなどの開発業者にも自社のスマートデバイスのプラットフォームを開放する。

自動車業界は、電気自動車(EV)などの新エネルギー車の開発ともにIT企業と共同でコネクテッドカーの開発を加速させる(写真1)。自動車大手の上海汽車、東風汽車は、それぞれアリババ集団、華為技術と提携し、従来の車作りのみならずモバイルサービスのプラットフォームの構築まで手がける。


コネクテッドカーを展示する中国企業(ジェトロ撮影)

AIによる産業の変化は、ソフトウエアとハードウエアの統合も促進させる。科学技術部は2017年11月、国家次世代AIイノベーションプラットフォームのリストを公布した。デバイスを製造するハードに強い国有企業ではなく、情報サービスを提供するソフトの民営企業を支援する方針で、自動運転に関するプラットフォームの主導役には検索エンジン大手の百度が指名された。その他、スマートシティーに関するプラットフォームにはクラウドサービス大手のアリババ・クラウドが、医療映像にはソーシャルネットワーキングサービス大手のテンセントが、スマート音声にはベンチャー企業の科大訊飛(ライフライテック)が選出された。プラットフォームが立ち上がり、企業の関与が増えデータも蓄積されれば、AIの技術は一気に上がることが予想される。

中国政府は支援に本腰、2030年に世界一を目指す

国務院は2017年7月、「次世代人工知能発展計画」を発布した(図1)。AIを経済発展の新たなけん引役とし、AI技術とアプリケーションが先進国に後れをとらないように努め、2020年までにAIの基幹産業の規模1,500億元(約2兆5,500億円、1円=約17円)、関連産業の規模1兆元の実現を目指す。2025年までには、AIを中国の産業構造転換の主要な推進力として、スマート社会づくりの進展を図る。2030年までには理論や技術、応用などで世界一となり、AIの基幹産業の規模、関連産業の規模をそれぞれ1兆元、10兆元に拡大することを目指す。開発に力を入れる重点分野としては、AI、ソフトウエア、ハードウエア、知能ロボット、無人運転、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、スマート端末、IoTコア部品などが挙げられた。

現在の中国AI市場の規模は明らかになっていないが、工業情報化部傘下のシンクタンク賽迪研究院によると、2016年のAI関連産業の規模は3,000億元に満たない。2030年の目標値は2016年の30倍以上という計算になり、AI産業の今後の急成長が期待される。

図1:中国のAI産業発展目標
中国のAI産業の発展目標を2020年、2025年、2030年の3段階で表す図である。基幹産業規模と関連産業規模はそれぞれ2020年に1,500億元と1兆元、2025年に4,000億元と5兆元、2030年に1兆元と10兆元を目指す。
出所:
国務院が発表した「次世代AI発展計画」を基にジェトロ作成

AIによるイノベーション推進の旗振り役である工業情報化部は2017年末、目標達成へのアプローチの第1段階として、「次世代人工知能発展三カ年行動計画」(2018~2020年)」を打ち出した(表1)。2020年までにAI製品やコア技術、製造業のスマート化、支援システムなどにおける行動目標をそれぞれ定めた。

表1:「次世代人工智能(AI)発展三カ年行動計画」
分野 目標
製品の育成 AIコネクテッドカーやAIサービスロボット、AI無人飛行機の応用拡大、医療映像補助診断システムの臨床活用、動画・映像認識やAI音声、AI翻訳など国際水準の到達、AI家電製品の応用拡大
中核技術の開発 AIセンサーの設計・ファウンドリ・テスト技術の向上、ニューラルネットワークチップの量産、オープン型フラットフォームの整備
製造業への応用 複雑環境の識別や人と機械の協調システムなどコア技術設備での応用加速、インテリジェント生産、受注生産、予知保全など新生産モデルでの応用レベルの向上
支援体系の構築 データベースの完備・開放、AIの標準システム・安全保障システムのフレームワーク作り、スマートネットワークのインフラ体系整備
出所:
工業情報化部の発表を基にジェトロ作成

また科学技術部は2017年11月、次世代AIの発展計画および重大プロジェクトの推進と実施を担う「AI発展計画推進弁公室」(弁公室)を発足させた。科学技術部をはじめ、工業情報化部、国家発展改革委員会などの政府部門、協会、研究機関の計15機構により構成され、イノベーションを中心にAI産業に関する計画を推進する。2017年11月に上海市で開催された中国最大級の工業総合見本市「第19回中国国際工業博覧会」(工博会)では、弁公室はAIの展示エリアを初めて設けた。全12ホールのうち産業ロボット(RS)、工業オートメーション(IAS)、情報・通信技術応用(ICTS)、CNC工作機械(MWCS)、新エネ車・コネクテッドカー(NEAS)などのスマートマニュファクチャリング関連を展示するホールが約半数を占めた。

地方都市では政府の政策を具体化し、企業や大学・研究機関への支援措置を強化している。上海市は2017年末、AIに関するイノベーションプロジェクトに対し、投資額の30%まで最高2,000万元の補助金を出す政策を打ち出した。さらに、重大プロジェクトと認定されれば30%の上限を上回ることも可能だという。

また、中国にある大学・短大などの高等教育機関2,500校の多くも、産学連携での特許や技術の事業化に力を入れている。中でも、総合研究と自然科学の最高研究機関である中国科学院は、AIプロセッサ分野で世界初のユニコーン企業となった寒武紀科技とともにAIチップ(注)を開発し、華為技術の最新プロセッサ「Kirin970」に納入している。また、工博会では科学・技術革新(STIS)ホールに大学エリアが設置され、地元名門の上海交通大学をはじめとする68校の研究結果や事業化プロジェクトなどが展示された(写真2)。


工博会に出展した大学が記された掲示板(ジェトロ撮影)

AI分野における中国の強み

AIの発展は巨大な市場、豊富な人材、大量の資金等が鍵だと言われている。中国はとりわけ巨大な市場という強みを持つ。中国におけるインターネット利用者は、2017年6月末時点で7億5,100万人に達し、世界の約2割を占め最多だ。ビッグデータの収集に適した巨大な市場は、企業にとってイノベーションに有利となる。

世界知的所有権機関(WIPO)によると、2016年の特許協力条約(PCT)に基づく特許の国際出願件数は、1位が米国、2位が日本、3位が中国だった(図2)。中国は2002年以来2桁台の成長を記録しており、この傾向が続けば2年以内に米国を抜き1位になる(図2)。企業別出願件数ランキングでは、1位が通信機器大手の中興通訊(ZTE)、2位が華為技術と、いずれも中国企業が占めた。

図2:国際出願件数の上位3カ国の推移
図2は、特許の国際出願件数上位3カ国である米国、日本、中国における、2002.年から2016年まで国際出願件数の推移をプロットしたものである。2002年から2016年にかけ、緩やかに増加する日本、低迷する米国に対し、中国は右肩上がりで急増している。
出所:
世界知的所有権機関(WIPO)の発表を基にジェトロ作成

また、中国のAIに関する論文の発表数や発明特許の登録数はいずれも2位となり、米マサチューセッツ工科大(MIT)刊行の専門誌が2017年6月に発表した「世界で最も賢い会社トップ50社」には、9社の中国企業が選ばれた。6位の科大訊飛(ライフライテック)、11位の昿視科技はそれぞれAIを駆使した音声認識技術、顔認証技術で世界を先導する新興企業だ。アリババ集団や百度、テンセント、商業ドローン最大手のDJIも選出されており、さまざまな形でAIを活用している。

一方で、中国は世界各国・地域の研究者との連携において後れを取っている。科学技術・学術政策研究所(NISTEP)によると、中国は2013~2015年に国際学術誌で発表された論文の年間平均数で、米国に次ぐ約22万本と10年前(2003~2005年の年間平均数)の4倍以上になったが、異なる国・地域を拠点とする複数の研究者による国際共著率では上位5カ国で最低の24.4%にとどまった(表2)。あらゆる産業がAIを活用し、技術者や研究者の人材の奪い合いが激しさを増す中、中国は今後、世界各国・地域の研究者との連携も強めていく必要がある。

表2:年間論文発表数と国際共著率

2003~2005年
国・地域 平均値 (本) 国際共著論文の割合 (%)
米国 221,367 27.5%
中国 51,930 22.5%
ドイツ 52,315 44.9%
英国 50,862 43.7%
日本 67,888 22.0%
2013~15年
国・地域 平均値 (本) 国際共著論文の割合 (%) 10年前(2003~2005年平均)比 (ポイント)
米国 272,233 39.4% 11.9
中国 219,608 24.4% 1.9
ドイツ 64,747 56.0% 11.1
英国 59,097 61.6% 17.8
日本 64,013 30.1% 8.0
出所:
出所:科学技術・学術政策研究所の発表を基にジェトロ作成

18世紀後半の英国の蒸気機関の発明による第1次産業革命から、19世紀後半に米国が主導した第2次産業革命、そして20世紀後半に日本がリードしたエレクトロニクス産業が象徴的な第3次産業革命に至るまで、中国はいずれも先進技術の開発で後れを取ってきた。急速な経済発展を遂げ、第4次産業革命でようやく先進国と同じスタートラインに立った中国は今、政府、産業界、大学・研究機関などが一体となり、AIで世界一を目指し突き進む。


注:
AIチップは、人工知能(AI)の演算処理などを高速化する半導体チップのことで、特に深層学習や推論などに特化し、機械学習による画像認識や音声認識をメインとした演算処理を得意としている
執筆者紹介
ジェトロ・上海事務所
劉 元森(りゅう げんしん)
2003年、ジェトロ・上海事務所入所、現在に至る。

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