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拡大する世界の医療機器貿易

2017年10月16日

世界的に高齢化が進む中、ヘルスケア関連産業は成長期待が高い分野である。医療機器産業もその一つ。先進国では高度医療の充実、新興・途上国では医療体制の整備や生活水準向上に伴う医療ニーズの変化などにより、さまざまな医療機器の需要が高まるとみられている。こうした成長を取り込むべく、日本政府もヘルスケア分野の国際展開を支援、グローバル市場獲得を目指している。その手段の一つが医療機器の輸出拡大だ。いま、世界の医療機器貿易において、日本はどのような状況にあるのか。ここ10年の医療機器貿易の変化を追う。

カテーテルなど医療用消耗品がこの10年で倍増

医療機器の世界貿易を把握するうえで、まずは医療機器に含まれる範囲を決める必要がある。一般に医療機器とされる品目は、注射器やメスなどの医療現場で使用される消耗品から磁気共鳴画像診断装置(MRI)や手術支援ロボットなどの大型機器まで多岐にわたる。国によっても医療機器とされる品目は異なり、日本の場合は医薬品医療機器等法で定める範囲を指すケースが多い。本稿では、各国共通に適用できる指標としてBMI リサーチによる医療機器の定義を利用する(注1)。この定義に基づき94カ国・地域の貿易統計から医療機器貿易を集計したところ、2016年の世界の医療機器貿易(輸出ベース)は2,153億ドルとなった(図1)。これは、ほぼ携帯電話の世界貿易額(2,342億ドル、2016年)に匹敵する規模である(注2)。近年の医療機器貿易は増加基調にあり、2006年の1,238億ドルから2016年は1.7倍に拡大した。

図1:世界の医療機器貿易額
2006年と2016年の医療機器貿易額を部門ごとに示す。部門は以下の6つに分かれる。医療用消耗品、画像診断関連製品、患者補助用製品、整形外科用製品、歯科用機器・製品、その他医療機器。 2006年の医療機器貿易額は1,238億ドル。医療用消耗品243億ドル、画像診断関連製品304億ドル、患者補助用品206億ドル、整形外科用製品106億ドル、歯科用機器・製品67億ドル、その他医療機器313億ドル。 2016年の医療機器貿易額は2,153億ドル。医療用消耗品480億ドル、画像診断関連製品404億ドル、患者補助用製品315億ドル、整形外科用製品268億ドル、歯科用機器・製品114億ドル、その他医療機器571億ドル。
注:
1.「医療機器」の定義(分類含む)はBMI リサーチ社に基づく。
2. 世界は94カ国・地域の合計とする。輸出ベース。
資料:
各国貿易統計からジェトロ作成。

医療機器を用途に応じて6部門に分けてみると、2016年に最も大きなシェアを占めたのが医療用消耗品(480億ドル、シェア 22.3%)であった。2006年も2割弱のシェアを有していたが、この10年で輸出規模は倍増した。主な品目の筆頭はカテーテル・、カニューレ類(医療用チューブ、管など)の271億ドルで、個別品目としては医療機器全体の中で最大であった。医療用消耗品では、カテーテル・、カニューレ類に次いで、注射器(51億ドル)、外科用縫合材(43億ドル)が続いている。

10年前に最大であったMRIやCTなど画像診断関連製品は404億ドル(同18.8%)であった。品目別では、医療用エックス線機器(CT、歯科用除く)が46億ドル、MRIが44億ドル、走査型超音波診断装置が43億ドルとなっている。技術進歩により高機能な新製品も次々と生まれているが、画像診断関連製品は頻繁に買い替え需要が発生する製品ではなく、また高額な機械機器類が主流であることから景気変動の影響も受けやすい。さらに主要市場の一つである中国は医療機器の国産化を推進しており、MRIやCTなど画像診断装置の国産化が進んでいる。こうしたことから画像診断関連製品の貿易はここ数年横ばいが続き2013年以降は医療用消耗品を下回る規模にとどまっている。

次いで補聴器やペースメーカーなどの患者補助用製品(315億ドル、同14.6%)、人工関節や骨折用補助器具などの整形外科用製品(268億ドル、12.5%)、歯科用椅子やセメントなど歯科医療に特化した歯科用機器・製品(114億ドル、5.3%)が続いた。いずれの部門もここ10年は増加が続いており、輸出規模はそれぞれ2006年の約1.5~2.5倍に拡大と好調が続いている。

医療機器の範囲は幅広く上記5部門に分類されない品目も多い。例えば車いすや血圧計、眼科用機器、医療用減菌器などは合わせて「その他の医療機器」とされ、輸出額は571億ドルと、医療機器輸出の約3割弱を占めた。

製品により事情は異なるが、医療機器貿易の増加は、総じて需要の増加に伴う数量の増大、高機能機器の登場による高価格化など数量、価格と両方の要因が効いているようだ。例えば金額が最大となったカテーテル・、カニューレ類は、2016年のメキシコ、アイルランド、ドイツなど主要輸出国で数量、単価ともに10年前を上回っており、MRIなどの画像診断装置も同様の状況がみられた。

画像診断関連製品への集中度が高い日本の医療機器輸出

医療機器の輸出国をみると、欧米を中心とした先進国が上位を占める(表1)。2016年のトップは米国(441億ドル)で、ドイツ(267億ドル)、オランダ(191億ドル)が続いている。2006年から10年間、この3カ国の順位に変動はなく、不動の上位陣となっている。この10年で変化が目立ったのは中国(143億ドル)だ。中国は2016年に米、独、蘭に続く4位につけ、2006年の10位から躍進した。また、メキシコ(91億ドル)が11位から8位に上昇するなど、医療機器貿易においても新興国の台頭がみられた。医療機器の輸出拡大を目指す日本はというと、2016年の輸出額は68億ドル、全体の10位に位置しているものの、2006年の8位から後退した(注3)。新興国の勢いに押された面もあるが、ここ10年の医療機器輸出額の年平均成長率をみても、主要輸出国である米国4.9%、ドイツ4.5%、オランダ6.7%に対して日本は2.1%と勢いに欠ける。

表1:2016年の主要国・地域の医療機器貿易 △はマイナス値
国名 輸出 輸入
金額(100万ドル) 構成比(%) 年平均伸び率(%) 金額(100万ドル) 構成比(%) 年平均伸び率(%)
世界 215,270 100.0 5.7 210,473 100.0 5.5
米国 44,108 20.5 4.9 43,326 20.6 5.9
日本 6,803 3.2 2.1 11,664 5.5 4.4
ドイツ 26,659 12.4 4.5 18,096 8.6 5.4
オランダ 19,139 8.9 6.7 14,613 6.9 4.9
ベルギー 12,684 5.9 11.0 10,625 5.0 9.9
アイルランド 11,519 5.4 7.5 2,015 1.0 0.8
フランス 7,640 3.5 0.5 10,741 5.1 3.0
英国 5,797 2.7 △ 0.8 8,166 3.9 1.6
イタリア 3,878 1.8 2.9 5,888 2.8 1.2
スイス 10,695 5.0 4.8 4,532 2.2 6.4
中国 14,267 6.6 13.0 13,628 6.5 16.3
韓国 2,630 1.2 10.5 3,405 1.6 5.5
香港 1,867 0.9 5.6 2,062 1.0 5.5
台湾 853 0.4 4.7 1,546 0.7 6.1
シンガポール 5,933 2.8 10.6 3,645 1.7 8.8
マレーシア 2,066 1.0 12.1 1,162 0.6 8.7
タイ 900 0.4 7.4 1,100 0.5 10.0
フィリピン 284 0.1 22.1 407 0.2 13.6
インドネシア 172 0.1 1.0 806 0.4 17.8
インド 1,119 0.5 8.7 2,667 1.3 9.6
メキシコ 9,093 4.2 8.6 4,146 2.0 7.0
ブラジル 435 0.2 2.2 2,234 1.1 7.6
ロシア 133 0.1 3.3 2,982 1.4 3.7
トルコ 374 0.2 12.7 1,973 0.9 3.8
エジプト 77 0.0 36.8 568 0.3 16.0
南アフリカ 178 0.1 6.4 1,038 0.5 2.2
注:
1.「医療機器」の定義(分類含む)はBMI リサーチ社に基づく。
2.世界は94カ国・地域の合計。
3.年平均伸び率は2006年~2016年平均。
資料:
各国貿易統計からジェトロ作成。

この要因の一つは日本の医療機器の輸出構造にある。輸出額1、2位の米国、ドイツ、新興国の中国、メキシコと比較すると、米国、ドイツ、中国は医療用消耗品や画像診断関連製品、その他医療機器など輸出が各部門に分散しているのに対し、メキシコと日本は特定部門への集中度が高い状況がみられる(図2)。特に日本は、画像診断関連製品のシェアがほぼ半分と際立って大きい。これは、例えばオリンパスが消化器内視鏡で世界シェア7割超を有するなど、画像診断の分野で日本が強みを持つことの表れでもある。ただ前述の通り、画像診断関連製品はここ数年伸び悩みが見られており、同分野への依存度の高さが日本の医療機器輸出の伸びの弱さにもつながっている。

図2:主要医療機器輸出国の輸出構造(2016年)
米国、ドイツ、中国、メキシコ、日本の2016年の医療機器輸出の部門別構成比。 米国、医療用消耗品21%、画像診断観戦製品21%、患者補助用製品9%、整形外科用製品14%、歯科用機器・製品3%、その他医療機器32%。 ドイツ、医療用消耗品15%、画像診断観戦製品26%、患者補助用製品13%、整形外科用製品10%、歯科用機器・製品9%、その他医療機器27%。 中国、医療用消耗品26%、画像診断観戦製品24%、患者補助用製23%、整形外科用製品4%、歯科用機器・製品4%、その他医療機器19%。 メキシコ、医療用消耗品33%、画像診断観戦製品8%、患者補助用製9%、整形外科用製品6%、歯科用機器・製品2%、その他医療機器41%。 日本、医療用消耗品18%、画像診断観戦製品50%、患者補助用製3%、整形外科用製品0%、歯科用機器・製品7%、その他医療機器22%。

〔注〕、〔資料〕図1と同じ。

新興国では国ごとに異なるニーズ

医療機器の供給面(輸出)では新興国の台頭がみられたが、需要面(輸入)はどうか。輸入を国別にみると、輸出同様に上位を米国、ドイツ、オランダが占め、中国が4位につける。中国は2006年に11位だったので、輸入国としてもプレゼンスが高まった形だ。需要の拡大速度という側面からみると、他の新興国の勢いも目覚ましい。2016年に10億ドル以上の医療機器の輸入規模がある国のうち、この10年間の年平均成長率が高い国をみると、中国(16.3%)、タイ(10.0%)、インド(9.6%)など、上位10カ国中7カ国を新興国が占めた。輸入規模は劣るがフィリピンやインドネシア、エジプトなども2桁の伸びとなり、注目市場となっている。

これら成長市場の主要輸入品目をみると、いずれもカテーテル・カニューレ類の輸入額が大きいが、タイでは人工機器(義手、義足など)、医療用エックス線機器、歯科用ユニットなど、インドでは眼科用機器、人工関節、MRI、シンガポールでは呼吸治療用機器、外科用縫合材、補聴器などと変化に富む(表2)(注4)。

カテーテル・カニューレ類のように、どの市場でも需要が大きい品目もあれば、国ごとに製品ニーズに差がある品目など、求められる医療機器は幅広い。こうした市場ごとの特性をヒントとすれば、日本の医療機器輸出の裾野が広がる足がかりとなろう。

表2:伸長著しい新興国等の医療機器輸入
国名 主要輸入品目(2016年)
中国 カテーテル・カニューレ類、走査型超音波診断装置、 医療用エックス線機器(CT、歯科用除く)
タイ カテーテル・カニューレ類、人工機器(義歯、人工関節除く)、 医療用エックス線機器(CT、歯科用除く)
インド カテーテル・カニューレ類、眼科用機器、人工関節
シンガポール カテーテル・カニューレ類、呼吸治療用機器、外科用縫合材
マレーシア カテーテル・カニューレ類、機械療法用・マッサージ用機器、 人工機器(義歯、人工関節除く)
ブラジル カテーテル・カニューレ類、人工機器(義歯、人工関節除く)、 整形外科用機器・骨折治療具
メキシコ カテーテル・カニューレ類、注射針・縫合用針、 整形外科用機器・骨折治療具
注 :
1. 2016年の輸入規模が10億ドル以上の新興国のうち、年平均成長率(2006~2016年)の高い7カ国。
2. 品目の特定が難しい「その他の医療用機器」、「その他の診断用電気機器」などは主要輸入品目から除く。
資料:
各国貿易統計からジェトロ作成。

注1:
BMI リサーチは英調査会社。同社は6桁レベルのHSコード、45品目を医療機器と定義し、各品目を医療用消耗品、画像診断関連製品、患者補助用製品、整形外科用製品、歯科用機器・製品、その他医療機器の6カテゴリに分類(出所:"The Worldwide Medical Markets Factbook2015", BMI Research, Nov 2015)。
注2:
「世界の商品別輸出入(2016年)」(出所:「2017年版世界貿易投資報告」、ジェトロ)
注3:
本稿では貿易統計(財務省)をもとに日本の医療機器輸出額を集計している。同種のデータとしては「薬事工業生産動態統計調査」(厚生労働省)による医療機器輸出額がある。同調査では、調査対象企業の最終製品の直接輸出分を集計し、医療機器輸出額としている(国内で商社などの輸出業者に販売の上、輸出業者から海外に出荷した場合は輸出額に含まれていない)。
注4:
品目の特定が難しい「その他の医療用機器」、「その他の診断用電気機器」などは主要輸入品目から除く。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 国際経済課
中村 江里子(なかむら えりこ)
ジェトロ(海外調査部、経済情報部)、(財)国際開発センター(開発エコノミストコース修了)、(財)国際貿易投資研究所(主任研究員)等を経て2010年より現職。

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