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スウェーデン・フィンランド ‐ 産業デジタル化に取り組む

2017年8月15日

北欧は、新しい産業革命への対応を迫られている。各国とも、ドイツの「インダストリー4.0」に倣った政策を政府主導で打ち出した。スウェーデンは、製造業のコストカットや高付加価値化の実現に向けデジタル化の研究開発を促進。フィンランドはデジタル化による通信量増大に備え、インターネット環境の整備を進めている。

ドイツに端を発した製造業のデジタル化。北欧各国では、それへの対応が進みつつある。中でもスウェーデンとフィンランドでは、官民を挙げてのプロジェクトが進行中だ。デンマークのITコンサルタントのイリスが2015年12月に発表した報告書「北欧の製造業のデジタル化と自動化」によると、13 年の北欧4カ国で製造業に従事する労働者は、1991年に比べ約50万人、6%減少している。しかし、製造業は依然として北欧経済を支えている。01年から13年にかけての経済成長が年率で0.1~1.5%だったのに対し、製造業の成長率は2.5~4.5%とこれを大きく上回る。

イノベーション庁が積極関与

スウェーデンの製造業は、GDPの約20%、輸出の77%を占める。約100万人が製造業および関連産業に従事している。世界銀行の「ビジネス環境調査」(16年10月発表)によると、同国はビジネスのしやすさでは世界190カ国・地域中第9位。世界経済フォーラムが16年9月に公表した「世界競争力報告書 2016-2017」でも世界競争力で第6位、技術成熟度では第4位であり、良好なビジネス環境にあることが分かる。

しかしEU統計局によると、同国で製造業のデジタル化・自動化が「進んでいる」とされる企業の割合は15年が11%、ドイツの25%やEU28カ国平均の17%には及ばない。そこでスウェーデン政府は16年 4月、インダストリー4.0を含む4分野に注力する政策「スマートインダストリー」を策定した(表)。同政策では、アジア諸国の安価な製品に対抗すべく、産業デジタル化や自動化によるコストカットや高付加価値製品の実現を通じ、「メード・イン・スウェーデン」ブランドを生み出そうとしている。

スウェーデンイノベーション庁(VINNOVA)は、産業デジタル化に向けたイノベーション投資を進め、15年には2,627件のプロジェクトに対し、総額26億クローナ(約338億円、1クローナ=約13円)を出資した。同庁はまた、「Produktion2030」や「STREAM」といったイノベーションプロジェクトをサポートしている。研究機関と企業で構成されるコンソーシアムProduktion2030 は、製造業の研究開発への投資を通じてデジタル化を促進中だ。中小企業が進める将来性が高い研究開発に投資し、1プロジェクト当たり最大50万クローナを支援する。特に有望と認められるプロジェクトには追加投資も行う。各企業が自社のアイデアを Produktion2030 に発表する機会は年1~2回設けられており、VINNOVAは17年春、実証実験分野で4,800万クローナ、イノベーション・研究開発分野で1,600万クローナの投資予算を確保している。

表:スウェーデンのスマートインダストリー
インダストリー4.0
  • 政策で中小企業のデジタル化に注力
  • 産業デジタル化の実証実験
  • 中小企業と大企業の協業によりイノベーションの促進
  • 中小企業のデジタル化を指導
製造業のスキル向上
  • 大学生:1万4,000人、専門学生:6,000人、成人教育:1万9,000人
  • 小学校でより多くの数学と技術教育を提供
  • 工業技術の評価・確認
実証実験
  • 実験施設の国内調整
  • 研究機関の強化、連携
  • 政府によるベンチャー企業への融資
  • イノベーションを促進する公共調達
持続可能な生産
  • 環境に合った、より速い、経済的な生産
  • 循環型ビジネスモデルの支援
  • 最先端の環境技術とその実証実験場

資料:スウェーデン企業・イノベーション省の資料を基に作成

STREAMは、あらゆる産業の自動化に向けたイノベーションを促進し、特定の産業にとらわれず複数の産業で活用できるソリューションを提供する。 STREAM が開発した自動化アルゴリズム「ツールボックス」は、オープンソースとしてコードが公開され、誰でも自由に使用できる。同プロジェクトに参加するスイスの重電大手ABBは、コンテナで使用するクレーンについて、エラーや故障の兆候などの監視を通じ、最適なタイミングでメンテナンスを実施することで生産性を最大限にする取り組みをしている。スウェーデンのIT企業プレバスは、電車の運転士に対し、他の電車との運行上の相関やエネルギー効率をシミュレーションし、最適な走行スピードをリアルタイムでアドバイスするアプリを開発。同アプリはスマートフォンからダウンロードできて、特殊な機器を必要としないのが特徴だ。

次世代に向けたネットワーク環境

フィンランド政府は12年秋、企業の国際ビジネスを促進する「チームフィンランド」を立ち上げ、インダストリアル・インターネット分野の競争力強化を目指している。インダストリアル・インターネットとは、産業界だけでなく一般社会のICT(情報通信技術)についても、インターネットを利用して効率化や高付加価値化を目指すものだ。フィンランド技術研究センター(VTT)やアアルト大学などが発表した15年8月の報告書「インダストリアル・インターネットのシリコンバレー」によると、フィンランドがシリコンバレーのように同分野でエコシステムやプラットフォームの重要な役割を獲得できれば、23年までに4万8,000人の雇用創出と90億ユーロの付加価値を生むことができると予測している。

フィンランドは、「イノベーター」への投資額が他の北欧諸国に比べて大きい。前記イリスの報告書によると、製造業の産業デジタル化において、(1)イノベーター:新技術を開発する企業、(2)初期適用者:新技術をいち早く適用する企業、(3)フォロワー:技術が確立してから導入しそれを拡大する企業――の三つに分類される。イノベーターに向けた「インダストリアル・インターネット」や「5th Gear(次世代の高速ネットワーク通信技術)」といった政府主導のプログラムに対し、14年から19年の5年間で2億ユーロを投資する方針だ。同分野へのデンマークの投資額が150万ユーロであることと比較すると、その差は歴然である。

産業デジタル化を実現するためには、機器にインターネット接続部品を埋め込む IoT 技術だけでなく、高速かつ安定した通信を可能にするインターネットのインフラ整備が欠かせない。フィンランド技術庁金融基金(Tekes)は、超高速通信を可能とする第5世代移動通信システム(5G)の環境を整え、国際競争力を高めてデジタル分野で世界のイノベーションリーダーを目指すプログラム「5th Gear」を実施中だ。同プログラムのマネジャーを務めるミカ・クレメティネン博士によると、20年までには世界で500億個のデバイスがインターネットに接続され、その通信量は、既存のネットワーク許容量をはるかに超えるという。14年から19年にかけて、フィンランド政府から1億ユーロが拠出される予定の「5th Gear」では、既に約110の具体的なプロジェクトが始動している。

その中心となるプロジェクトが「5G テスト・ネットワーク・フィンランド(5G TNF)」だ。これには、通信大手のエリクソン(スウェーデン)、ノキア(フィンランド)、華為技術(ファーウェイ:中国)などが参加している。フィンランドに小規模実証実験場を多数作ることにより、最良のテスト環境とエコシステムを世界に提供することを目指す。5G TNF は、新しいソフトウエアやネットワーク技術の開発といった4分野から成り、ドイツ、カナダ、スイスなどの企業を含む計50社ほどが参加。フィンランド投資庁によると、5G TNF は外国企業の実証実験参加を歓迎している。

大手通信会社ノキアは、16年から日本のKDDIと5Gに関する共同実験を実施している。また、同国の海運事業ソフトウエア開発のNAPAは16年、日本の電子機器メーカー古野電機と船舶運航のデジタル化支援に向けた協業を開始した。このように、製造業やIT分野を得意とする日本企業にとって、スウェーデンやフィンランドの企業との連携、両国のプロジェクトへの参加は、検討に値するのではないだろうか。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
鵜澤 聡(うざわ さとし)
2013年、高圧ガス保安協会(KHK)入会。2016年10月より日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部欧州ロシアCIS課へ民間等研修生として出向。

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