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アルゼンチン ‐ 自動車産業を後押しするマクリ政権

2017年10月16日

2015年12月に誕生したアルゼンチンのマクリ政権が自動車産業の活性化を狙った政策を進めている。就任半年で自動車部品活性化法を策定し、今年3月には自動車産業に関わる全ての団体が署名する「Plan 1 millon(100万台生産計画)」を打ち出した。2016年の国内市場は、ブラジル経済のマイナス成長の影響を受け、生産・輸出ともに減少したが、2017年はプラス成長に転換している。

アルゼンチンの昨年の自動車生産台数は、前年比10.2%減の472,776台で、2006年以来実に10年ぶりに50万台を割った。ただし、アルゼンチン自動車製造業者協会(ADEFA)統計によれば、減産の主な要因は共にメルコスールの自動車市場を支えて来たブラジル経済の不振による輸出の低下と見られている。2016年の輸出台数は、190,008台で前年比20.8%減と落ち込んでいる。そのうち全体の72.4%を占めるブラジル向けの輸出は、2015年比で25.5%減の137,649台に減少。2011年のピーク時から始まった減少傾向が大幅に進んだ形となった。

表1:対ブラジル自動車輸出量(単位:台、%)

2012年~2016年
輸出量 割合
2016年 137,649 72.4%
2015年 187,545 76.3%
2014年 303,786 84.9%
2013年 371,961 85.8%
2012年 340,165 82.3%
2007年~2011年
輸出量 割合
2011年 410,677 81.0%
2010年 378,865 84.6%
2009年 285,089 88.4%
2008年 250,683 71.4%
2007年 196,467 62.1%

出所:亜国自動車製造業組合(ADEFA)

一方、国内市場は好調に転じている。アルゼンチン自動車販売代理店協会(ACARA)によると、2016年の国内販売台数は、前年比10.2%増の709,858台で、2013年以来のプラス成長となっている。主な理由としては、前政権下で強いられた外貨規制(利益送金規制)による輸入車の減少と、マクリ政権下で、自動車に対する内国税率(贅沢税とも称される)の引き下げおよび課税対象最低金額の引き上げ(以上、政令11/2016)、ブラジルからの廉価車両の輸入増大、ならびに代理店での販売戦略強化による大幅なディスカウントの実施などが大きく影響している(輸入車の多くは高級車でもある)。輸入車両数は、2016年に入って前年度比45.5%増の466,209台に達しており、国内販売台数における輸入車比率も58.9%と前年から4.2ポイント上昇した。

2017年に入っても販売台数はプラス成長を続けている。1月から8月までのACARA統計では、全ての月において前年同月比で増加しており、8月までの累計販売台数は618,941台で前年同期比30.4%増となっている。車種別では乗用車が456,605台(同28.3%増)、軽商用車136,803台(35.0%増)、重商用車17,361台(56.1%増)、その他重量車両8,172台(24.8%増)とそれぞれ伸びている。

自動車部品産業活性化法

マクリ政権は2016年8月1日付で、国内の自動車部品の発展と産業の活性化、新規雇用の創出を目的とした自動車部品産業活性化法(法令27263号)を制定した。アルゼンチン自動車部品工業会(AFAC)によると、日本企業が求める高度な製品に対応できるようなメーカーは10社ほどしかなく、加えて高止まりするインフレ、質の悪いインフラ、高いエネルギー価格などの条件も相まって、依然として多くの部品を輸入に頼らざるを得ない状況にあると言う。マクリ政権は、今回の新法導入により、グリーンフィールド投資や新規技術移転などを促すことでこうした状況を変えることを狙っている。同工業会によると、アルゼンチンへの投資を望む部品については、エアバッグ、シートベルト、冷間鍛造、電子部品、幅広い樹脂部品、コールドスタンピング等とのことだ。

現地の日系自動車メーカーからはアルゼンチン国内の自動車部品企業の発展は国外の競合メーカーに対して優位性を持てると歓迎する声があるものの、実際に部品メーカーが国内に投資して国際競争力のある部品を製造できるかについては、上記コストの問題もあり疑問視している。また、既存日系部品メーカーからも、具体的な審査手順が不明なことや、調達率を高めるまでのプロセスにおける時間的猶予が足りないとの声も聞かれた。

自動車部品産業活性化法は、国内において新たな製造プラットホームへの投資、または既存プラットホームへの再投資 (注1)を促し、車両または単体部品における国産比率(CN)を30%以上にすることを目指している。法令の内容は以下の通りだ。

  1. 達成した企業に対しては、国産化比率に応じた税控除得点が与えられる。控除額は、対象品目の工場出荷額に相当する控除率をかけて算出される(別表2参照)。
    算出方法は国産化率計算式を参照。
  2. 本法令の恩恵を受けるための申請をした場合、関係当局による部品の国産化効果(国内調達先とそれぞれの供給品目とその供給量のリスト提出が求められる)の他、投資規模、雇用創出効果なども相対的に審査される。
  3. また、既存企業においては、2015年7月から2016年6月の間における正規雇用従業員数を宣誓供述書にて報告し、さらに毎年12月に同従業員数を減らしていない、またはレイオフをしていない旨の宣誓供述書の提出が求められる。新規進出企業においては、関係当局が最低雇用人数を定めることとなる。
  4. 申請期間は、法令発効後の10年間となり、5年目以降の申請については、先の10年間が終わった後の2年後から恩恵を受けることとなる。
  5. さらに、恩典は、サプライヤーの生産器具や生産量拡大のための投資などに充当する場合に限って、先の5年間で見込まれる総得点額の15%までを先払いで受け取れることも可能。
  6. 本法令の対象となる品目は、以下のとおり (注2):
    1. 乗用車
    2. 商用車(積載1500キロ以下)
    3. 商用車(積載1500キロ以上、5000キロ以下)
    4. トラック、シャシー(運転キャビン付・無)、バス
    5. トレーラーとその荷台
    6. 農機・特殊自動車
    7. エンジン(内燃式、ハイブリッド、その他)
    8. トランスミッションボックスとその部品
    9. その他当局指定の自動車部品
  7. 前述大枠品目とは別に、担当当局はさらに詳細な品目リストをメルコスール共通目録(NCM)関税番号別に作成し、必要に応じて補足規定を策定する(法令5条)。
  8. 部品を製造する際に使う、金型や機材の購入に対しては、8%の税控除恩典が与えられるほか、部品を製造するために使用する純国産原材料 (注3) に対しても7%の追加恩典が与えられる。また、金型や機材を輸入する場合も、メルコスール域外関税を免除(0%)される(ただし輸入額が国内調達機材を含めて総額の50%を上回らないことが条件)。
  9. 前述とは別に、国内に存在しない部品または技術の場合は、特例で国産化比率を10%まで引き下げることが可能となり、5年間適用される。ただし、最終的なその他の部品との組み合わせにおける国産比率は30%を下回ることは許されない。
    算出方法は拡大国産化率計算式を参照。
国産化率計算式
国産比率(CN) = 国産部品の総和額(Σ) 輸入部品のCIF総和額(Σ) + 国産部品の総和額(Σ) × 100

出所:アルゼンチン司法人権省データベース(Infoleg)

拡大国産化率計算式
拡大国産比率(CNA) = 国産部品の総和額(Σ) + 直接労働コスト総和額(Σ) 輸入部品のCIF総和額(Σ) + 国産部品の総和額(Σ) + 直接労働コスト総和額(Σ) × 100

数式について

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国産化率計算式
国産比率(CN)=国産部品の総和額(Σ)÷(国産部品の総和額(Σ)+国産部品の総和額(Σ))
拡大国産化率計算式
拡大国産比率(CNA)=(国産部品の総和額(Σ)+接労働コスト総和額(Σ))÷(輸入部品のCIF総和額(Σ)+国産部品の総和額(Σ)+直接労働コスト総和額(Σ))

表2:自動車部品国産化比率(税控除対照表)(単位:%) ―は控除なし
国産化比率

控除率
対象品目:a,b,e,f,h,e,i

控除率
対象品目:c,d

控除率
対象品目:g

10%以下
10%以上~20%以下* 4.0
20% 4.0
21% 4.7
22% 5.4
23% 6.1
24% 6.8
25% 4.0 7.5
26% 4.7 8.2
27% 5.4 8.9
28% 6.1 9.6
29% 6.8 10.3
30% 4.0 7.5 11.0
31% 4.7 8.2 11.4
32% 5.4 8.9 11.8
33% 6.1 9.6 12.2
34% 6.8 10.3 12.6
35% 7.5 11.0 13.0
36% 8.2 11.4 13.4
37% 8.9 11.8 13.8
38% 9.6 12.2 14.2
39% 10.3 12.6 14.6
40% 11.0 13.0 15.0
41% 11.4 13.4 15.0
42% 11.8 13.8 15.0
43% 12.2 14.2 15.0
44% 12.6 14.6 15.0
45% 13.0 15.0 15.0
46% 13.4 15.0 15.0
47% 13.8 15.0 15.0
48% 14.2 15.0 15.0
49% 14.6 15.0 15.0
50%またはそれ以上 15.0 15.0 15.0

注*:施工日から3年間は10%以上、4年目からは20%以下
出所:亜国司法人権省データベース(Infoleg)

100万台計画

自動車部品法に加えて、アルゼンチン政府は2017年3月に2023年までの同国における自動車の生産量を100万台にするための合意書に署名した。

国内で生産する自動車メーカー、工場所在自治体、関連労組などの幹部も署名した合意書では、主に以下の目標が掲げられている。

  1. 国内自動車生産量を2019年までに75万台、2023年までに100万台にする。
  2. 5年後までに3万人の新たな雇用を創出する。
  3. 部品の国産化率をさらに高め、2019年までに35%、2023年までには40%を目指す。
  4. 輸出の35%をメルコスール域外市場に仕向ける。
  5. 欠勤率を2019年に5%、2023年には3%にする。
  6. 2019年までに50億ドルの投資を目指す。
  7. 同経済規模の他国相当の価格帯の維持。

前述のとおり、アルゼンチンの自動車部門は、輸出、代理店への販売ともに回復傾向にあるが、生産量(―0.8%)および国内生産車両の代理店販売数(―10.3%)ではいずれもマイナスを記している。国内市場の不信を輸出で相殺する「100万台計画」でブラジル頼りの輸出からの脱却を目指すマクリ政権だが、そこは各社ともに同じ考えだ。前述のとおり、2013年以降は、同国への輸出割合は年々減少傾向して、反対にその他の国や地域に分散傾向にある。特にメキシコを筆頭にその他の中南米諸国への輸出の拡大が顕著で、各社のメルコスールとその他中南米諸国との経済補完協定(ACE)を活用した輸出多角化戦略が伺える。政府もこれを後押しするように、4月には亜国生産相とコロンビア産業商業観光相との間で、両国間自動車関税の撤廃が合意された。この合意により、亜国はコロンビアへの輸出を4年後に年間42,000台までに引き上げることを目指している。これにより、年間7億ドルの輸出と9,000台の生産増を見込んでおり、今後ますますマクリ政権による通商政策が注目される。

表3:主要輸出先と輸出割合
主要輸出先 2017
(1月-8月)
2016 2015 2014 2013
メキシコ 5.7% 8.0% 5.1% 3.7% 2.7%
コロンビア 2.7% 2.3% 1.8% 2.6% 2.2%
中米諸国 9.3% 1.3% 0.5% 0.4% 0.4%
ペルー 4.7% 2.2% 0.3% 0.2% 0.4%
チリ 5.0% 3.5% 2.0% 1.3% 1.6%
ウルグアイ 1.7% 1.5% 1.2% 1.2% 1.6%
パラグアイ 1.9% 1.4% 1.5% 1.0% 0.9%
豪州・NZ 4.1% 2.8% 4.2% 2.1% 0.0%
欧州諸国 0.0% 1.2% 2.8% 0.8% 4.3%

注1:
原則として、品目a,b,cの場合、新プラットフォームは最低5,000万ドルの投資が求められている。品目dについては2,000万ドル。詳細要求事項は、関係当局が別途策定する。
注2:
産業商業工業局における生産者・輸入事業者・部品メーカー登録(99年決議838号)または、国家工業登録が必要(法律19.971号)。
注3:
輸入原材料についても、最終的に輸入した際のメルコスール共通関税目録コードから上4桁が変更される加工が施されていること。

変更履歴
3段落目に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。(2017年10月25日)
(誤)高級車に対する贅沢税の執行がマクリ政権下で廃止されたのが大きく影響している
(正)マクリ政権下で、自動車に対する内国税率(贅沢税とも称される)の引き下げおよび課税対象最低金額の引き上げ(以上、政令11/2016)、ブラジルからの廉価車両の輸入増大、ならびに代理店での販売戦略強化による大幅なディスカウントの実施などが大きく影響している
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 主査(中南米)
設楽 隆裕(しだら たかひろ)
1992年、ジェトロ入構。1997年~2001年スペイン駐在。2006年~2010年アルゼンチン駐在。

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