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中国 ‐ 自動車市場を見る視点

2017年8月15日

中国自動車市場のトレンドが少しずつ変化している。政策面では中西部への拠点展開を促す動きがあり、外資の規制緩和も進む。販売面では消費性向が変化。環境規制の厳格化は、日系企業のビジネスチャンスを拡大させる可能性をも併せ持つ。本稿では、「中西部」「消費性向」「環境」「規制緩和」というキーワードを基に今日の市場を概観する。

中西部に手厚い優遇策

一つ目のキーワードは「中西部」。「外商投資産業指導目録」の中で、自動車完成車製造業は制限業種に指定されるが、西部地域の発展を促すために定められた「中西部地区外国企業投資優位産業目録」では奨励類に記載されている。両目録で共通するのは、同製造業では外資比率が50%を超えてはならない点だ。

2016年、中国の自動車生産台数は前年比14.5%増の2,812万台となり、販売台数と並んで8年連続で過去最高を更新し続けている。生産台数を省市別に見ると、重慶市が前年比3.4%増の316万台と、3 年連続で第1位だった(図)。同市では外資企業の投資が盛んだ。スズキやいすゞをはじめ米フォードやゼネラルモーターズ(GM)、韓国現代といった大手完成車メーカーに加え、部品メーカーも多数進出している。

その要因として考えられるのが次の2点。前述の「中西部地区外国企業投資優位産業目録」発表に伴い、企業所得税率が20年までに従来の25%から15%に引き下げられること。また、従業員の賃金が沿海部に比べて低いことだ。ジェトロが実施した「2016年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」によると、重慶市における労働者の平均賃金(製造業:作業員)は月額2,818元(約4万5,000円)であり、上海市(3,868元)や広東省広州市(3,243元)といった自動車生産のライバル都市と比べると低い水準にある。

図:省・市別生産台数シェア(2015年)
重慶市 12.4%、上海市 9.9%、広東省 9.9%、広西チワン族自治区 9.4%、吉林省 9.2%、北京市 9.1%、湖北省 8.0%、江蘇省 5.0%、山東省 4.8%、遼寧省 4.8%、河北省 4.8%、その他 12.7%

出所:中国汽車工業協会

ブランドよりも価格を重視

次に、販売面では中国人の消費性向に変化が見られる。これまで自動車購入者の中心は30代以上の富裕層だった。それが、経済発展や所得向上により、30歳以下の層による購入が増えている。若い世代はブランドより外観や価格を重視する傾向が強い。スポーツタイプ多目的車(SUV)や地場系の安価な自動車が人気となっている。16年の乗用車販売台数を車種別に見ると、これまでの売れ筋だったセダンは前年比3.4%増(1,215万台)にすぎないのに対し、SUVは44.6%増(905万台)、ミニバン(MPV)も 18.4%増(250万台)と大幅に増加している。

売れ筋モデルを見ると、セダンではフォルクスワーゲン(ドイツ)のラヴィーダ、GM のビュイックに続いて日産のシルフィが第3位、トヨタのカローラが第8位となった。SUVではホンダのCR-V、日産のエクストレイルがトップ10入りした。他方、新型モデルを投入した地場企業がシェアを伸ばし、SUV では上位10車種のうち6車種、MPVでは9車種を地場系が占めた。

表:「自動車産業中長期発展規画」が定める目標
規画目標 2020年まで 2025年まで
コア技術の取得・躍進 世界トップ10の新エネルギー車(NEV)企業、スマート車企業を育成する 全世界に影響力があるNEVの基幹企業が市場シェアを一層拡大し、スマート車が世界トップランクに入る
全産業チェーンの安全なコントロールの実現 1,000億円規模の自動車部品企業集団をいくつか形成し、コア技術領域の部品で国際競争力を強化する 世界トップ10にランクインする自動車部品企業集団をいくつか形成する
中国ブランド自動車の全面的な発展 世界で知名度の高い自動車ブランドをいくつか作り、商用車の安全性能を大きく高める いくつかの中国ブランド車企業の生産・販売量が世界トップ10入りする
新型産業エコシステムの形成 スマート化レベルを上昇させ、アフターマーケットおよびサービス業のバリューチェーンの比率のうち、45%以上を達成する 重点領域のスマート化を実現させ、アフターマーケットおよびサービス業がバリューチェーンに占める割合を55%以上とする
国際発展能力の引き上げ 中国ブランド車の先進国への輸出の実現 中国ブランド車の世界への影響力のより一層の上昇
グリーン発展レベルの大幅な上昇 新車の平均燃費を5.0ℓ/100km、エコカーの平均燃費を4.5ℓ/100kmとする
商用車のエコ性能を先進レベル、「国6」排出基準を実施し、NEVのエネルギー効率を先進レベル、車のリサイクル率95%を達成する
新車の平均燃費を4.0ℓ/100kmまで引き下げる
商用車のエコ性能を世界トップレベルに、排出を先進レベルに、NEVのエネルギー効率をトップレベルに、車のリサイクル率を先進レベルにそれぞれ引き上げる

出所:工業・情報化部

厳しさ増す環境規制

環境対策に力を入れる中国政府は16年9月、「企業平均燃料消費量と新エネルギー車クレジットの並行管理に関する暫定弁法(パブリックコメント)」を発表した。これは NEV(新エネルギー車)の生産台数および燃費の規制をポイントで一括管理し、それを基に各メーカーのNEV生産を調整しようというもの。18年に導入予定とされる。メーカー側からは、NEV開発には時間とコストがかかるとして、施行の延期を求める声が強かった。そのため導入時期の1年延期や基準の引き下げが検討されている。だが、メーカーとしては導入に向けた準備が必要となろう。

排ガス規制と燃料品質規制に関しても、18年1月から「ユーロ5」レベルの「国5」排出規制が適用される。規制の対象となるのは小型ガソリン車、小型ディーゼルバス、大型ディーゼル車。さらに「国6」規制についても、20年と23年の2回に分けて段階的に実施すると発表している。自動車メーカーからは、「中国の燃費規制には車種単位と会社単位の規制が併存し、大型車種の場合、トータルで燃費規制をクリアするのは難しい」といった声が上がっている。

他方、環境規制の厳格化に伴い、NEV市場が拡大することが期待される。16年のNEV生産台数は51万 7,000台、販売台数は50万7,000台だった。自動車販売台数全体に占めるNEVの割合は2%程度にすぎないが、16年はそれぞれ51.7%、53.0%と著増。また、工業・情報化部、科学技術部などが17年4月に発表した「自動車産業中長期発展規画」では、25年までに新車販売台数の2割をNEVとすることを目標としており、今後も政策による後押しと需要拡大効果が期待できる。NEV導入に積極的に取り組む重慶市では、「重慶市省エネルギー・新エネルギー自動車模範運行に対する財政補助実施弁法」を制定。省エネ・新エネ車の購入やメンテナンスに対する補助を行うなど、他都市に先駆けて独自の支援策を打ち出している。

外資規制緩和が追い風に

前述の「自動車産業中長期発展規画」では、NEVの販売台数目標以外の6分野においても、20年、25年までの数値目標を発表している(表)。その一つが出資制限。外資系自動車メーカーが中国市場に参入する際、現行では中国側持ち分が50%以上という出資制限がある。これを緩和し、25年までに 50%超の外資出資を認める方針を打ち出した。この規制緩和の狙いは、国内メーカーの技術力向上にあるとみられる。

冒頭に記した「中西部地区外国企業投資優位産業目録」は17年3月に改訂された。重慶市の奨励類には自動車完成車製造のほか、「国6」の排出基準を満たすガソリンエンジンやディーゼルエンジン、NEV用エンジンや変速機などが記載された。中西部地区11省市のうち、こうした記載の対象となったのは重慶市のみ。今後は同市政府による支援策が期待される。

日系企業にとっての課題は何か。政策や市場性の変化への対応だ。政策面では、今後さらに厳しくなると予想される環境規制への対応が必須である。販売面では、若者を中心に消費性向が多様化する中、各自動車メーカーはこうした市場のトレンドの変化に対応するため、ラインアップの充実を図る必要があろう。

一方、環境面における規制の厳格化は、日系企業にとってはチャンスでもある。前述の通り、重慶市では排出基準を満たすエンジンの製造が奨励類に記載されている。対応技術を持つ企業にとっては追い風になり得る。またジェトロ調査によると、「エコ(省エネ、環境に優しいイメージ)」の項目で日本製品は主要国・地域別で第1位であり、中国の消費者の間で印象が良い。規制が厳しくなれば、それに対応した日本製品への需要が増すことが期待される。

執筆者紹介
ジェトロ・成都事務所
田中 琳大郎(たなか りんたろう)
2015年4月、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジア課を経て、2018年3月より現職。

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