英国の食品関連の規制
1. 食品規格
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ビール
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ビールの規格に関しては、EU維持規則で定められた規格はありませんが、英国の酒税法の観点から1979年酒税法で定義されており、 エール(Ale)、ポーター(Porter)、スタウト(Stout)などを含み、アルコール度数0.5%を超えるものを指します。
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ワイン
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ワインとは、破砕された、もしくは破砕されていない新鮮なブドウ、またはブドウ果汁を部分的もしくは完全にアルコール発酵させて生産されたものであって、原則としてアルコール度数が8.5%以上、15%以下のものと定義されています。
さらに、使用可能なブドウ品種、醸造方法、原産地呼称制度、ラベル表記などについて維持規則(EU)1308/2013で定められており、これらに従うとともに、国際ブドウ・ワイン機構(OIV)が勧奨する醸造方法、または英国により認可されたワイン醸造行為に従って生産されたワインを英国内で上市することが求められます。
英国が認可しているワインの規格や醸造の仕様については、維持規則(EU)1308/2013のANNEX や維持委任規則(EU) 2019/934で確認することができます。
ただし、日英包括的経済連携協定(日英・EPA)により、日本ワイン〔「果実酒等の製法品質表示基準」(平成27年国税庁告示第18号)に定める日本ワインをいう〕の基準を満たし、日英EPAの協議で定められた醸造法に従っている場合、英国(EU)の醸造規則によらずとも、輸出が可能です。
この場合、「同一の産品」に、しょ糖、ぶどう糖および果糖による「補糖」を適用することができます。また、食品添加物に関する基準の範囲内で、補酸または除酸を適用することができます。
ただし、「同一の産品」に対して補糖および補酸の両方を適用することはできません。ならびに、「同一の産品」に対して補酸および除酸の両方を適用することもできません。
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ラム
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ラム酒とは、サトウキビから砂糖を製造する際に生成される廃糖蜜または甘蔗汁をアルコール発酵させたもの、あるいはサトウキビの搾り汁そのものをアルコール発酵させて、アルコール度数96 %未満で蒸留して製造された蒸留酒をさし、瓶詰めする際のアルコール度数は最低37.5度以上のものと定義されています。アルコール添加、カラメル色素以外の着色、着香はできません(維持規則(EU) 2019/787)。
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ウイスキー
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※ただし、アイリッシュウイスキー・スコッチウイスキーの定義は除く。
ウイスキー(whiskyまたはwhiskey)とは、麦芽化されていない穀物の全粒の併用の有無を問わず、麦芽にした穀物の麦汁を蒸留したものであり、1) ほかの天然の酵素の併用の有無を問わず、そこに含まれる麦芽のジアスターゼ(アミラーゼ)により糖化され、2)酵母の作用により発酵された蒸留酒を指し、アルコール度数94.8 %未満で蒸留して製造され、蒸留液が使用原材料に由来する香りおよび味を有し、最終蒸留後最低3年間、700リットル以下の木樽での熟成が必要とされ、アルコール度数は最低40度のものと定義されています。アルコール添加、カラメル(E150a)以外の着色、着香 、甘味を含む添加物の添加はできません。
「シングルモルト」の法的名称は、単一蒸留所で大麦麦芽のみから蒸留された場合に使用できます。(維持規則(EU) 2019/787)
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ウオッカ
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ウオッカとは、じゃがいもや穀物または両方、あるいはその他の農産物を酵母により発酵させることで得られる農産物由来のエチルアルコールを成分とするスピリッツ飲料であり、アルコール度数が最低37.5度のものと定義されています。
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ジン
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※より詳細なロンドンジン、蒸留ジン(Distilled gin)、スロージン (Sloe gin) の定義は除く。
ジンとは、ジュニパーベリー(Juniperus communis L.)によりフレーバー付けをされた農産物由来のエチルアルコールの蒸留酒で、アルコール度数は最低37.5度のものと定義されています。香味物質または香料調製品あるいは両方をジンの製造で使用することができ、ジュニパーベリーの風味が主体となっているものを指します。最終製品の砂糖などの甘味料の添加が0.1グラム/リットル以下である場合には「dry(gin)」をつけることができます。
その他の蒸留酒やリキュールの定義に関しても、維持規則(EU) 2019/787を確認してください。
なお、清酒や焼酎についての食品規格は定められていません。ただし、日英経済連携協定による、容器容量規制(四合瓶・五合瓶・一升瓶)の緩和の対象となる単式蒸留焼酎(いわゆる「本格焼酎」)の定義は、「日本国の酒税法第3条10に定義されるもの」とされています。
2. 残留農薬および動物用医薬品
英国では、2018年EU離脱法(2020年EU(離脱協定)法にて改正)に基づき、EU離脱移行期間終了時点のEU法は、原則的に国内法体系に直接組み込まれています(移行期間終了時点のEU規則は国内法となり、移行期間終了時点のEU指令に基づく国内法の効力も維持)。さらに、英国独自の国内法も別途設けられており、一部EUの要求事項から変更がある可能性に留意してください。特に、一部の青果物、穀物、動物由来食品など英国独自の残留農薬の上限値(Maximum Residue Limit:MRL)がEU離脱後に修正(再設定)されており、EUが設定する基準値と一部相違があることに留意が必要です。
英国では、使用可能な農薬について、ポジティブリスト制を採用し、食品の種類ごとに許容されるMRLが規定されています(欧州議会・理事会維持規則(EC)396/2005)。MRLは、当該食品1キログラム当たりに許容される農薬量(mg/kg)として示され、MRLが設定されていない農薬と食品の組み合わせに対しては、一律0.01mg/kgの上限値が適用されます。 すべての食品に対するMRLは、「GB MRL register(英国農薬データベース)」で検索可能です。データベースは科学的評価に基づき更新されるため、随時確認する必要があります。その他、詳細はジェトロ調査レポート「EUにおける残留農薬に関する規制(2015年2月)」も参照してください。
その他、「アルコール飲料」には直接関連しませんが、EU域内および英国では2018年より、一部のネオニコチノイド系殺虫剤(イミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサム)の屋外での使用が禁止されています(EUでは、2023年よりスルホキサフロルの屋外使用も禁止)。ただし、現時点では英国でのクロチアニジンおよびチアメトキサムのMRLの引き下げは確認されていません。
3. 重金属および汚染物質
英国では、2018年EU離脱法(2020年EU(離脱協定)法にて改正)に基づき、EU離脱移行期間終了時点のEU法は、原則的に国内法体系に直接組み込まれています(移行期間終了時点のEU規則は国内法となり、移行期間終了時点のEU指令に基づく国内法の効力も維持)。さらに、英国独自の国内法も別途設けられており、一部EUの要求事項から変更がある可能性に留意してください。
英国では、欧州委員会維持規則(EC)1881/2006で食品カテゴリーごとに含まれる汚染物質の上限値を規定しています。ここでの「汚染物質」とは、意図的に食品に添加されたものではなく、食品の生産(作物管理、畜産、獣医療における作業を含む)、製造、加工、調理、処理、包装、梱包、輸送および保管などのプロセスまたは生育環境に由来して、食品中に存在する物質をいいます(欧州理事会維持規則(EEC)315/93 Article 1(1))。これらの最大規定値を超えるものは原材料としても使用できないとされています(維持規則(EC)1881/2006第3条)。
本ページで定義するアルコール飲料が該当し得る汚染物質の上限値を抜粋すると、表のとおりです。ただし網羅版ではないため、必ず原文を確認するようにしてください。
汚染物質の上限値
物質名
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上限値
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対象品目
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アフラトキシン
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B1:2.0μg/kg
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すべての穀物および穀物加工品※1
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B1,B2,G1,G2の総量:
4.0μg/kg
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オクラトキシンA
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3.0μg/kg
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穀物加工品およびヒトが直接消費する穀物を含む、未加工穀物から作られるすべての製品※2
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2.0μg/kg
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ワインや果実酒(スパークリングワインを含み、リキュールワインやアルコール度数15%以上のものを除く)
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2.0μg/kg
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フレーバーのついたワインベースのアルコール飲料、ワイン醸造のフレーバーカクテル
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80 μg/kg
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飲料や菓子に使用されるスペインカンゾウ(liquorice)のエキス
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パツリン
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50μg/kg
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蒸留酒※3 、シードルおよびその他のリンゴベースの醸造飲料
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鉛
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0.2mg/kg(ブドウの収穫年が2001 -2015年)
0.15mg/kg(ブドウの収穫年が2016年以降)
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ワイン、スパークリングワイン、シードル、梨酒、果実ワイン
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0.2mg/kg(ブドウの収穫年が2001 -2015年)
0.15mg/kg(ブドウの収穫年が2016年以降)
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フレーバーのついたワインベースのアルコール飲料、ワイン醸造のフレーバーカクテル
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無機スズ
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100mg/kg
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缶入りの飲料
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メラミン
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2.5mg/kg
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乳児用調製食品および乳児用栄養補給調製食品を除くすべての食品
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4. 食品添加物
英国では、着色剤や保存料、酸化防止剤、その他乳化剤、安定剤などの食品添加物と、食品香料および食品酵素を区別し、これらを合わせて「食品改良剤(Food Improvement Agents)」)と総称しています。食品改良剤については、ポジティブリスト形式での規制が課されており、認可を得た食品改良剤のみが使用を認められています。
食品添加物に関しては欧州議会・理事会維持規則(EC)1333/2008に基づきポジティブリスト形式での規制が課されており、ポジティブリストについては、英国政府のウェブサイトでも検索が可能です。
食品添加物ごとに「使用可能な食品カテゴリー」および「許容含有量(定められていない食品添加物もある)」が定められているため、食品添加物が当該食品カテゴリーにおいて使用可能かどうかについても確認する必要があります。
「添加物」をラベルに表示する際には、項目での一括表示ではなく、E番号または添加物の名称で表示する必要があります。例えば、日本では、「pH調整剤」と一括表示が許可されていますが、英国においては、「E500」または「Sodium carbonates(炭酸ナトリウム)」、「E336」「Potassium tartrates(酒石酸カリウム)」などと表示する必要があります。
また、同規則により、本稿で定義するアルコール飲料は、添加物を含むことが禁止されている飲食品(ANNEX II のPART A)にリストされていませんが、「26.ワインおよびその他の製品」「27.蒸留酒スピリッツ飲料」「28.サングリアなど」「32.モルト・モルト製品」に関しては着色料の添加が禁止されています(同PART Bに記載)。
- なお、日EU・EPAの交渉枠組みの中で日本ワインに使用されている一部の添加物をEU向けワインにも使用できるよう段階的に交渉されており、日英・EPA締結時点で同様の措置が維持されました。第一段階については、承認済みとなっていますが、次の25点の添加物の使用は現在、承認されておりません。詳細は、「日EU経済連携協定(和文テキスト)付属書二-Eぶどう酒産品の輸出の促進」および酒類総合研究所「日本ワイン醸造行為に関する表明書」で確認することができます。
EU(英国)側に交渉中の承認される予定の「日本ワイン」添加物
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EU(英国)側に承認される予定の「日本ワイン」添加物25点
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第一段階
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(日本ワインの製造方法の承認、しょ糖、ぶどう糖および果糖などによる補糖など)
甘味料(日本国において収穫されたぶどうの搾汁または濃縮搾汁の形態のもの)の発酵後の日本ワインへの添加
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第二段階
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フィチン酸、カゼインナトリウム、L -アスコルビン酸ナトリウム、柿タンニン、微小繊維状セルロース
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第三段階
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酸性リン酸カルシウム、酸性リン酸カリウム、活性白土、寒天、アンモニア、リン酸アンモニウム、塩化カルシウム、カラギナン、コラーゲン、エリソルビン酸、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、リン酸、炭酸カリウム、アルギン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム(食塩)、エリソルビン酸ナトリウム、小麦粉
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5. 食品包装(食品容器の品質または基準)
英国では、食品用の容器・包装をはじめ、調理器具や食品製造機械、食品輸送用のコンテナなど、食品と接触することが意図されている、または通常の使用条件において食品と接触することが合理的に予見されるあらゆる素材・製品を「食品接触素材(Food Contact Material :FCM)」と呼んでいます。維持規則(EC)1935/2004により、すべての食品接触素材は、健康被害を引き起こしてはならない、食品成分に許容できない変化を引き起こしてはならない、食品の味・香り・食感などを劣化させてはならない旨が定められています。
また、維持規則(EC)2023/2006においては、食品接触素材の製造工程における適正製造規範(Good Manufacturing Practice:GMP)がそれぞれ定められています。
なお、すべての素材の食品接触素材について、英国政府当局に求められた場合には、製品のトレーサビリティー情報(維持規則(EU)1935/2004第17条)、品質保証・品質管理関連資料(維持規則(EU)2023/2006第7条)を提示する必要があります。
前述の一般原則を規定する規則に加え、特定の食品接触素材について、個別の規則が定められており、定められた条件に準拠していることを示す適合宣言書の添付が求められています。
適合宣言書の添付要件がある食品接触素材とその規制
食品接触素材
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規則・指令
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主な内容
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プラスチック
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維持規則(EU) 10/2011
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ポジティブリスト形式での使用規制がなされており、同規則ANNEX Iのリストに掲載されている物質を原料として製造されたプラスチックのみが、食品接触素材として使用可能となっています。このリストは科学的評価に基づき更新されるため、随時確認する必要があります。
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アクティブ・インテリジェント素材
〔鮮度保持などの目的で食品から物質を吸収する素材(吸湿材など)、容器内に物質を放出する素材(防腐剤を放出する鮮度保持材など)、食品の状態を監視する素材(温度変化に反応する素材など)〕
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維持規則(EC) 450/2009
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食品と誤認されるおそれがある場合には、3mm以上のフォントサイズで‘DO NOT EAT’と表記する必要があります。なお、調査時点では、ポジティブリストは制定されていません。
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再生プラスチック
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維持規則(EC) 282/2008
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同規則に従って認可を受けたリサイクルプロセスから得られた物質を原料として製造された再生プラスチックのみが、食品接触素材として使用可能となっています。
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セラミック
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維持指令84/500/EEC
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カドミウムと鉛の検出上限値が規定されています。
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再生セルロースフィルム
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維持指令2007/42/EC
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ポジティブリスト形式での使用規制がなされており、同規則ANNEX IIのリストに掲載されている物質を原料として製造された再生セルロースのみが、食品接触素材として使用可能となっています。
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BPA(ビスフェノールA)
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維持規則(EU) 2018/213
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乳幼児向け食品に接触することが意図された包装材の原料への禁止
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エポキシ樹脂
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維持規則1895/2005/EC
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エポキシ誘導体の定義と使用制限
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ゴム
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維持指令93/11/EEC
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エラストマーまたはゴムに由来するN-ニトロソアミンおよびN-ニトロソアミンに転化可能な物質の放出、基準、分析方法に関する規則
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容器・包装関連制度
英国では、2022年4月1日以降「Plastic Packaging Tax(プラスチック包装税)」が導入されており、12カ月の間に10トン以上のプラスチック包装を製造または輸入するなど、基準に該当する事業者に対し税制への登録義務が課せられています。税制の登録事業者には、再生プラスチックの重量比が30%未満のプラスチック包装1トン当たり200ポンド(2023年4月1日より210.82ポンドに変更)が課税されます。流通業者、輸入業者などのサプライチェーンだけでなく、消費者向け使い捨て(容器)も課税対象となっています。
また、1年当たり25トン以上の包装を製造あるいは輸入する、年間売上高が100万ポンドを超える事業者に対し、包装の破棄物処理費用の負担を求める「Extended Producer Responsibility for packaging(包装の拡大生産者責任)」が2023年2月以降、英国内で整備されつつあります(英国内自治政府ごとに施行時期が異なる)。制度の詳細については、調査時点で検討中とされていますが、対象事業者は自らが英国市場に投入した包装の種別と量を定期的に報告し、各種費用を負担することになります。
その他、英国では安全の予防的観点から、竹やその他の植物由来の材料(もみ殻、麦わら、麻など)を含むプラスチック製の容器や調理器具の流通が禁止されているため、注意が必要です(植物由来の材料のみの容器は流通可能です)。
なお、英国向け、ウェールズ向け、北アイルランド向けの食品接素触材の国内法が制定されていますので関連リンクを参照してください。
容量規制
ワインおよび蒸留酒については、維持指令2007/45/ECにおいて販売可能な容量サイズが規制されており(例:非発泡性ワインは100ml、187ml、250ml、375ml、500ml、750ml、1,000ml、1,500mlの8種、蒸留酒は100ml、200ml、350ml、500ml、700ml、1,000ml、1,500ml、1,750ml、2,000mlの9種)、日本で流通している四合瓶(720ml)や一升瓶(1,800ml)は流通・販売が認められていません。しかし、清酒は当該規制の対象に含まれないため、四合瓶や一升瓶を含むいずれの容量でも輸出が可能です。また、日EU経済連携協定(日EU・EPA)の発効に伴い、単式蒸留焼酎(いわゆる「本格焼酎」)の容器容量規制が緩和され、四合瓶・一升瓶でも輸出できるようになり、日英包括的経済連携協定(日英・EPA)においては、これに加えて五号瓶(900ml)でも輸出できるようになりました。
また、第三国からEUへの貨物の輸入に用いられる木材梱包材(パレットや木箱など)に関しては、維持規則(EU) 2016/2031第43条に規定されるとおり、隔離病害虫の侵入およびまん延の経路となる可能性があることから、植物衛生措置の国際規格 no.15「ISPM15」の要件を満たしている必要があります。詳細は、本ポータルサイトの「花き」の「食品関連の規制」の「5.食品包装規制」の項で確認することができます。
6. ラベル表示
英国では、2018年EU離脱法(2020年EU(離脱協定)法にて改正)に基づき、EU離脱移行期間終了時点のEU法は、原則的に国内法体系に直接組み込まれています(移行期間終了時点のEU規則は国内法となり、移行期間終了時点のEU指令に基づく国内法の効力も維持)。さらに、英国独自の国内法も別途設けられており、一部EUの要求事項から変更がある可能性に留意してください。
英国(北アイルランドを除く)内で販売する商品は、ラベル表示を英国の規則に基づき変更する必要があります。ラベルの変更実施の責任機関は英国(北アイルランドを除く)の自治政府にあり、別市場のラベル付け要件に準拠する必要がある場合は、ラベルにほかの情報を含めることは可能です。北アイルランドについては、アイルランド/北アイルランド議定書に基づき北アイルランドで販売する商品のラベル表示はEU規則の順守を継続するとされているものの、英国政府は事業者の負担を考慮しつつ、北アイルランドの農業・環境・農村地域省や地域議会と連携して、ラベル表示要件の実施手法について検討中です。
EU維持規則で規定されるラベル表示規則
英国では、食品のラベル表示は、欧州議会・理事会維持規則(EU)1169/2011で規定されています。ただし、英国の保険医療法案により同規則を修正することが示唆されているため、今後、EUの要求事項から変更がある可能性に留意してください。
英国で流通する食品全般(最終消費者向けおよび調理施設(レストラン、食堂など)向けの輸入食品を含む)には、維持規則(EU)1169/2011が適用されており、輸入食品にも適用されます。英国市場で流通し消費者に販売される時点から、輸入者もしくは販売者に表示の義務が課されます。アレルギー物質や栄養素の表示など、日本よりも義務表示の対象が広い項目もあるため、注意が必要です。
アルコール飲料を輸出する場合、同規則第9条およびEU維持指令2011/91/EUに基づき次の項目を表示する義務があります。なお、消費者を惑わせる表示や医学的効能を宣伝する表示が禁止されている(詳細は後述)ほか、オンライン販売などの手法により遠隔地から販売する事業者にも同様の規定が適用されます。
ラベル表示義務
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商品名
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商標やブランド名は表記できますが、商品名称としての使用はできません。
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アレルゲン
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(該当物質は次のとおり。詳細については、同規則ANNEX IIを参照)
- グルテンを含む穀物(小麦、大麦、オーツ麦など)および同製品(一部例外あり)
- 甲殻類および同製品
- 卵および同製品
- 魚および同製品(一部例外あり)
- ピーナツおよび同製品
- 大豆および同製品(一部例外あり)
- 乳(ラクトースを含む)および同製品(一部例外あり)
- ナッツ類およびその製品
- セロリおよび同製品
- 辛子および同製品
- ゴマおよびその製品
- 濃度が1キロ/1リットル当たり10ミリグラムを超える二酸化硫黄または亜硫酸塩
- ルピナス(マメ科植物)および同製品
- 軟体動物および同製品
以上のことから、前述のアレルゲンに関連して、次のいずれかが含まれる場合はラベルに記載する必要があります。
- 酸化防止剤などが10 ミリグラム/リットルを超えるワインには「二酸化硫黄(sulphur dioxide)」「亜硫酸塩(sulphites / sulfites」と記載
- 最終製品に卵成分・乳成分の清澄剤が0.25ミリグラム /リットル を超えるレベルで検出される場合、「卵 ‘egg’」 「卵タンパク質 ‘egg protein’」「卵製品 ‘egg product’」「卵リゾチーム ‘egg lysozyme’ 」や「卵アルブミン‘egg albumin’」あるいは「乳‘milk’」「乳製品 ‘milk products’」「カゼイン‘milk casein’」「乳タンパク質‘milk protein’」を「含む (contains)」と記載
- 原材料リスト内でアレルゲンを表示する場合、太字、異なるフォントや色を使用して強調する必要があります。原材料リスト表示がない場合は、特定のアレルゲンを「含む‘contains’」の表記が必要となります。'
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正味容量
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体積単位で、「ミリリットル」、「センチリットル」、「リットル」(メートル法)のいずれかで表示します。ただし、生ビールとサイダーに関しては、Imperial units(帝国単位)である「パイント(pint)」の使用が許可されています。
メートル法から帝国単位への換算
- 1 litre (L) = 1.76 pints (pt)
- 100 grams (g) = 3.527 ounces (oz)
- 1 kilogram (kg) = 2.205 pounds (lb)
メートル法から帝国単位への換算
- 1 pint (pt) = 0.568 litres (L)
- 1 ounce (oz) = 28 grams (g)
- 1 pound (lb) = 0.454 kilograms (kg)
事前包装済み製品の容量誤差の許容範囲(容器に記載された公称重量と実質重量の誤差)については、維持指令76/211/EEC により、次のとおり規定されています。
公称重量(g / ml)
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許容範囲
(公称容量より少ない場合)
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公称重量に対する%
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g / ml
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5 ~ 50
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9
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—
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50 ~ 100
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—
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4.5
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100 ~ 200
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4.5
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—
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200 ~ 300
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—
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9
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300 ~ 500
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3
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—
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500 ~ 1,000
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—
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15
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1,000 ~ 10,000
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1.5
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—
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賞味期限
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「best before /best before end」で表示(アルコール度数10%以上の場合、あるいは一部のワインは省略可能)
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特別な貯蔵条件/使用条件(ある場合)
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(当該商品について責任を負う)英国内の事業者(FBO)あるいは英国域内事業者でない場合は、英国への輸入業者の名称と住所
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アルコール度数
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アルコール度数1.2%を超える場合は、アルコール度数を小数点第一位まで明記する必要があります(「○度~○度」などの幅を持たせた表示は不可)。アルコール度数の後には「vol%.」と表記しなければなりません。アルコール含有を意味する「alcohol」、または「alc」をアルコール度数の前に表記することも可能です。アルコール度数は摂氏20度で決定されます(日本では酒税法上摂氏15度)。表示に際して許容される誤差は、次のとおりです。
アルコール度数の表示で許容される誤差の範囲
品目
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許容される誤差
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アルコール度数5.5vol% 以下のビール、
ワイン(発泡性のものを除く)
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±0.5vol%
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アルコール度数5.5vol%を超えるビール、
ワイン(発泡性のものに限る)、
ブドウ以外の果実から作られるサイダー、ペリー、果実ワインおよび
類似の製品(微発泡性か発泡性かは問わない)、はちみつ酒
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±1vol%
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果実または植物を浸けたアルコール飲料
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±1.5vol%
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アルコール度数1.2vol% を超えるほかのすべての飲料
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±0.3vol%
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栄養表示に関しては度数1.2 %以上のアルコール飲料は表示義務対象外ですが、エネルギー量のみを任意で表示することも可能です。エネルギー量を表示する場合は、キロジュール(kJ)とキロカロリー(kcal)の両方を記載しなければなりません。
健康強調表示の禁止
また、欧州議会・理事会維持規則(EC)1924/2006により、アルコール度数1.2%以上のアルコール飲料に関しては、ポジティブリストに掲載されていない健康強調表示(「カルシウムは〇〇の促進に寄与します」「赤ワインは〇〇を治療する」などの表現」)が禁止されています。また、アルコール飲料に関する栄養強調表示は、「低アルコール度数」「アルコール量オフ」「エネルギー量オフ」の表示のみが認められています。
アルコール度数10%以上の清酒で、賞味期限の表示を省略した場合は、これらに加え、維持指令2011/91/EUに基づき、製品ロット番号の表示が必要になります。
補完のラベル表示義務(特定の原材料に関する注意喚起)
また、次に該当する場合は、維持規則(EU)1169/2011のANNEX IIIに基づき、追加表示義務があります。
- 密閉した包装容器内の空気を除去し、窒素などその他のガスを充てんしたガス充てん包装がなされた食品については、「packaged in a protective atmosphere」と表示する必要があります。
- (食品添加物として認可された)甘味料を含む場合は「with sweetener(s)」、砂糖と甘味料の両方を添加した場合は「with sugar(s)and sweetener(s)」と食品名に添える必要があります。特にアスパルテームを含む場合で、原材料リストにはアスパルテームのE番号(添加物番号)のみを記載している場合には「contains aspartame(a source of phenylalanine)」とラベルに記載する必要があります。
- ポリオールを10%を超えて添加した場合は、「excessive consumption may produce laxative effects」(摂り過ぎるとおなかがゆるくなることがある)旨を記載する必要があります。
- 甘草(カンゾウ・リコリス)あるいはグリチルリチン酸など(甘草抽出物)を含む場合は、濃度により「contains liquorice – people suffering from hypertension should avoid excessive consumption」(甘草が含まれています-高血圧の方は過剰摂取を避けてください)などと記載する必要があります。
- カフェインの含有量が150ミリグラム/リットルを超える飲料(希釈または抽出して飲む飲料を含む)の場合には、「高カフェイン含有。子供、妊婦、授乳中の女性にはお奨めしません(High caffeine content. Not recommended for children or pregnant or breast-feeding women)」と商品名と同一視野内に記載したうえで、続けてカフェイン含有量(mg/100ml)をカッコ書きで表記する必要があります。
- フィトステロール類、フィトスタノール類を含む場合には、食品名と同一視野内に「with added plant sterols」などの記載をしたうえで、原材料リストに添加量の表示義務があるほか、摂取対象者などに関する記載義務があります。
原材料の原産地表示
これらに加え、委員会実施維持規則(EU)2018/775の規定により、最終製品の原産地と、最終製品に含まれる主原料の原産地が異なる(例えば、最終製品の「ミートパイ」と主原料の「ミート」の原産地が異なる)場合には、当該主原料の原産地を記載するか、「(〇〇:主原料)は(××:最終製品の原産地)に由来しない」(〇〇do/does not originate from ××)と記載する必要があります。なお、ここでの主原料とは、最終製品の50%以上を占める原材料、または、製品の名称から消費者が通常想起する原材料(「ミートパイ」における「ミート」)を指します。また、最終製品の原産地が表記されていなくても、原産地を想起させる国旗などがパッケージに表示されている場合は、本規制の対象となります。
食品のラベルに使用される言語は、英語となり、文字の大きさについては、次のとおり指定されています(欧州議会・理事会維持規則(EU)1169/2011 Article 15)。
- 包装面の最大面積が80cm2以上の場合、「x」の文字の高さ(図中の6)は1.2mm以上
- 包装面の最大面積が80cm2未満の場合、「x」の文字の高さは0.9mm以上
委員会維持施行規則(EU)828/2014に基づき、グルテン含有量が20ミリグラム/キログラム以下である場合には「gluten-free(グルテンフリー)」の表示が可能です。その際には、「gluten-free」の表示とともに「suitable for people intolerance to gluten(グルテン不耐症のヒト向け)」または「suitable for coeliacs(セリアック病患者向け)」の文言を付すことも可能です。
地理的表示(GI)保護
日英包括的経済連携協定(日英・EPA)により、日本の地理的表示(GI)が英国内で保護されています。例えば、清酒の「日本酒」「山形」「白山」、焼酎の「壱岐」「球磨」「琉球」「薩摩」、ワインの「山梨」について英国で保護されます。他方、英国で保護されている蒸留酒の名称「スコッチ・ウイスキー(Scotch Whisky)」、「アイリッシュ・ウイスキー(Irish Whiskey / Uisce Beatha Eireannach / Irish Whisky)」、「イングリッシュ・ウイスキー(English Whisky)」を商品名として使用することはできません。リストは英国政府のウェブサイトで確認することができます。
7. その他
英国では、2018年EU離脱法(2020年EU(離脱協定)法にて改正)に基づき、EU離脱移行期間終了時点のEU法は、原則的に国内法体系に直接組み込まれています(移行期間終了時点のEU規則は国内法となり、移行期間終了時点のEU指令に基づく国内法の効力も維持)。さらに、英国独自の国内法も別途設けられており、一部EUの要求事項から変更がある可能性に留意してください。
英国外から輸入される食品については、欧州議会・理事会維持規則(EC)178/2002に基づきEU維持規制が求める衛生基準などとの同等性(輸出国と特定の合意がある場合はその合意事項)を満たす必要があります(同規則Article 11)。
英国の食品輸入事業者は、輸入した食品が英国の食品衛生要件を満たしていないと判断した場合、即時に製品を市場から回収する手続きをとり、所管当局に通知する義務があります(欧州議会・理事会維持規則(EC)No 178/2002 Article 19)。また、同規則では、食品がヒトの健康や環境に甚大なリスクをもたらす可能性があると判断された場合、英国が当該食品の上市停止などの緊急措置をとることが認められています(同規則Article 53)。
英国の食品の食品衛生要件に関しては、欧州議会・理事会維持規則 (EC)852/2004(一般食品衛生規則)と欧州議会・理事会維持規則 (EC)853/2004 (動物由来食品衛生規則)で規定されています。
有機食品に関する規制
英国に有機食品を輸入する場合、英国に登録された有機認証団体から認可を受け、英国向けの検査証明書(COI)を発行してもらうことで、英国で「Organic (有機)」と商品のラベルに記載することが可能となります。また、2021年1月1日以降、英国のみに認定された有機食品に対して、EUの有機ロゴを利用することはできません。EUの有機規則で要求される要件を満たした場合のみ、ユーロリーフロゴの継続使用が可能です。
ただし、英国はEU、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン、スイスの有機認証の同等性を2023年12月31日まで認めています。このため、この期間はEUで要求される要件を満たし、有機認証されている食品も、英国で有機食品として登録することが可能です。
最終的に日本国内で生産・加工され、日本の有機JAS制度に基づき、既に有機JASとして格付された有機農産物および有機農産物加工食品に関しては、維持規則(EC) 1235/2008 ANNEX IIIにより、英国との間で同等性が認められています。2022年10月1日から日本国内では、有機酒類に有機JASマークの表示ができるようになりましたが、酒類は英国との同等性利用の対象外となっているため、有機JASの同等性を利用して、英国で有機食品として輸出・販売することはできません。
有機JAS製品の同等性を利用せずに、英国で有機食品として販売する場合
有機JAS製品の同等性を利用せずに、英国で有機食品として販売する場合、有機JAS対象外品目や「同等性」の対象外品目については、維持規則(EC) 1235/2008第10条にのっとり、英国に認可された有機認定団体(同規則ANNEX IVならびに英国政府のウェブサイトにリストあり)に直接認定してもらうことで、英国で有機食品としての販売が可能です。(維持規則 (EC) 834/2007第33条 第3項)。英国の有機生産規則に準拠した、原料、添加物、加工助剤を使用する必要があります。
ただし、リストに掲載されていても、実質的には認定が不可能なケースもあるため、詳細は有機認定団体に直接問い合わせてください。
なお、英国に登録された(英国外の)外国有機認定団体のリストは維持規則(EC) 1235/2008 ANNEX IVにリストされていますが、EUの認定団体と相違する点に注意してください。英国政府のウェブサイトの「Recognised non-UK control bodies and control authorities」でもリストを確認することができます。
なお、英国における「英国政府認可の有機食品の認定団体」については、英国政府のウェブサイトまたは農林水産省のウェブサイトのリスト「EU加盟国、スイス、英国の証明書を発行する機関の名称及び住所」で確認することができます。
英国に有機食品を輸入する際、EUの畜産貿易管理情報システム(Trade Control and Expert System: TRACES)は利用できません。調査時点では、暫定的に、手動で英国の有機輸入システムで手続き(認証機関が有機輸入検査認証(COI)を英国の輸入者へ電子メールで送る)を行うこととなっています。COIの署名および押印は電子的なものでも良いとされています。詳細は、農林水産省「手引き:グレートブリテン(GB)へ有機製品を輸入する」で確認することができます。
ただし、北アイルランド向けはEUのTRACESシステムを経由する必要があります。詳細はジェトロのポータルサイト「EU」の各品目にある「有機食品に関する規制」の項で確認することができます。
有機食品のラベル表示
英国で有機食品を第三国から輸入、販売するための要件およびそのラベル表示に関する規制は、欧州理事会維持規則(EC)834/2007および維持規則(EC)1235/2008で規定されています。EUでは新公的管理の規則(EU)2017/625に照らし合わせ、新規則 (EU) 2018/848が、2022年1月1日から適用されていますが、英国では適用されません。
包装済み食品の原料(農産品)の95%が有機製品である場合のみ、「Organic」の表示をすることができます。有機製品が英国産の場合のコードは「GB-ORG-XX」となります。なお、有機生産規則の基準を満たさない、かつ有機認証団体の認定を受けていない非有機製品や商品名(ブランド)や社名に例えば「〇〇's Organic」という名前を使用することはできません。
このため条件を満たさない場合、成分表示リストや説明などに無条件に「Organic」(例 有機砂糖 ‘organic sugar’) を含めることはできません。
ただし、製品としては、非有機であっても、原料が有機の場合に、英国の有機認証団体の認証を得ることで、当該原料に関して、有機と記載することは可能となります。例えば、有機農業原料が95 %未満の場合であっても、認証を受けることで、商品ラベルや付属文書の成分表示リストのみに「Organic」(例 有機砂糖 ‘organic sugar’)を使用することは可能となります。他方で、商品名や説明書きに「Organic」を表示することはできません。
前述のとおり、有機JAS製品の同等性を利用せずに、英国の有機生産規則に準拠して、規則で認められた原材料や添加物、加工助剤などのみを使用して、有機認証団体に直接認定を受けた場合に限り、「Organic」の表示をすることができます。
詳細は、環境・食糧・農村地域省(DEFRA)または、前述の英国認定の有機認証団体に問い合わせてください。
英国はEUを離脱したため、ラベルを次のように変更する必要があります(2023年12月31日までは、経過措置として既存のラベルを使用できます)。
- 「UK Agriculture」:農産物原料が英国内で栽培されている場合
- 「UK or non-UK Agriculture」:農産物原料に英国内外で栽培された農産物が混合されている場合
- 「Non-UK Agriculture」:農産物原料が英国外で栽培されている場合
なお、EUにおいては2022年1月1日から、規則 (EC) 834/2007が廃止ならびに委任規則(EU) 2021/2306により、(EU) 2018/848が廃止となっており、英国で適用される有機生産規則と異なる点が多いことに留意してください。