南アフリカ共和国の貿易投資年報
要旨・ポイント
- 2024年の実質GDP成長率は0.5%、低成長から脱却できず。
- 資源輸出が微増も輸出総額は伸び悩み、輸入は前年割れ。
- 最大の貿易相手国は引き続き中国で、貿易額はほぼ前年並み。
- 対内直接投資は前年比で4割減少、エネルギー、情報通信などでは大型投資。
- 日本との貿易額は減少も、日本からの投資実行額は大幅増。
公開日:2025年12月18日
マクロ経済
新政権への期待が高まる中、金利引き下げも経済の低迷続く
南アフリカ共和国(以下、南ア)統計局は、2024年の実質GDP成長率が0.5%に留まったと発表した。前年からさらに減速した主な要因は、1次産業(農林水産業、鉱業)および2次産業(製造業、建設業)の低迷にあると指摘している。
産業別に見ると、農林水産部門はエルニーニョ現象による干ばつや口蹄疫の発生の影響が大きかった。第4四半期には穀物および畜産品の生産活動がプラス成長となったものの、通年では部門全体の縮小を回避するには至らなかった。主要産業の1つである鉱業部門は前年と比較してわずかにプラス成長となったが、依然として新型コロナ禍以前の生産水準を下回っている。不安定な生産量、非効率な物流網、高止まりする運営コストなど、複合的な要因により成長が鈍化した。2次産業においては、過去2年間深刻化した電力不足が2024年に入り一部解消されたことで、電力・ガス・水道部門はプラス成長に転じた。しかし、製造業と建設業の不振を補うには至らなかった。電力問題は改善傾向にあったものの、物流問題(鉄道、港湾)の抜本的な改善が進まないことが、依然として成長の足かせとなっている。
2024年は政治的に大きな転換の年だった。5月の総選挙を受け、シリル・ラマポーザ大統領が再選されたものの、民主化以降初めて、与党・アフリカ民族会議(ANC)の得票率が過半数を大きく下回った。(2024年6月3日ビジネス短信参照)。その結果、経済改革に積極的な民主同盟(DA)を含む10党による国民統一政府(GNU)が発足した(2024年7月16日ビジネス短信参照)。民主的な手続きにより新政権が誕生し、親ビジネス路線への期待から、投資家や経済界は新政権を歓迎した(2024年10月24日地域・分析レポート参照)。ブルームバーグによれば、連立政権の成立を受けて、ランドは、対ドルで一時0.7%高となり、1ドル=18.305ランドを記録した。しかし、2024年中に期待を超える経済改革の実施は見られず、多くの政党による連立という構造上の制約から、政権運営には不安定さが残った。
南ア準備銀行(SARB)の金融政策委員会は2024年9月、インフレ率の低下を背景に約4年ぶりに利下げを実施し、政策金利を0.25ポイント引き下げて8.0%とした(2024年9月24日ビジネス短信参照)。11月には追加の利下げが行われ、政策金利は7.75%にまで引き下げられた。
| 項目 | 2022年 | 2023年 | 2024年(注) | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 通年 | Q1 | Q2 | Q3 | Q4 | 産業別寄与率 (通年) | |||
| 実質GDP成長率 | 2.1 | 0.8 | 0.5 | 0.1 | 0.3 | △ 0.3 | 0.4 | — |
農林水産業
|
2.2 | △ 4.6 | △ 8.7 | 14.0 | △ 3.9 | △ 20.5 | 17.7 | △ 0.2 |
鉱業
|
△ 6.9 | △ 0.1 | 0.4 | △ 1.2 | △ 0.7 | 0.7 | △ 0.1 | 0.0 |
製造業
|
△ 0.3 | 0.4 | △ 0.4 | △ 1.2 | 0.5 | 0.1 | △ 1.1 | 0.0 |
電気・ガス・水道
|
△ 2.8 | △ 4.2 | 3.5 | 0.0 | 2.0 | 1.3 | △ 1.4 | 0.1 |
建設
|
△ 2.1 | △ 0.5 | △ 5.4 | △ 2.9 | 0.3 | 0.8 | △ 0.5 | △ 0.1 |
卸・小売り・飲食業など
|
3.7 | △ 1.6 | △ 1.2 | 1.0 | 0.9 | △ 0.8 | 1.3 | △ 0.1 |
運輸・倉庫・通信
|
8.3 | 4.2 | △ 1.2 | △ 0.6 | △ 3.3 | △ 0.3 | △ 1.1 | △ 0.1 |
金融・保険・不動産業・企業サービス
|
3.7 | 1.4 | 3.2 | 0.0 | 1.7 | 1.1 | 0.9 | 0.8 |
政府サービス
|
0.1 | 0.7 | 0.3 | △ 0.2 | 0.6 | △ 0.2 | △ 0.3 | 0.0 |
その他サービス
|
2.8 | 2.1 | 1.2 | △ 0.1 | 0.0 | 0.4 | △ 0.4 | 0.2 |
〔注〕四半期の伸び率は前年同期比
〔出所〕南アフリカ共和国統計局
| 項目 | 2022年 | 2023年 | 2024年(注1) | 2025年 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 通年 | Q1 | Q2 | Q3 | Q4 | Q1 | |||
| 実質GDP成長率 (注2) | 2.5 | 0.5 | 0.4 | 0.0 | 0.4 | △ 0.3 | 0.5 | 0.1 |
民間最終消費支出
|
2.6 | 0.2 | 1.0 | 0.0 | 1.2 | 0.4 | 1.1 | 0.4 |
政府最終消費支出
|
0.7 | 1.9 | △ 0.1 | △ 0.6 | 0.7 | △ 1.0 | △ 0.8 | △ 0.1 |
国内総固定資本形成
|
5.9 | 3.0 | △ 3.9 | △ 1.2 | △ 1.1 | 0.2 | △ 0.5 | △ 1.7 |
財貨・サービスの輸出
|
7.8 | 5.1 | △ 2.8 | △ 1.7 | △ 0.4 | △ 4.3 | 2.1 | 1.0 |
財貨・サービスの輸入
|
15.0 | 3.9 | △ 6.4 | △ 4.9 | 1.5 | △ 4.0 | 1.3 | 2.0 |
〔注1〕四半期の伸び率は前年同期比
〔注2〕GDPを支出項目別に算出、合算したもので、表1-1の数値と若干のずれが生じる。
〔出所〕南アフリカ共和国統計局
貿易
資源輸出は微増、鉄鋼産業は苦境
2024年の貿易(通関ベース)は、輸出が前年比0.2%増の1,104億5,600万ドル、輸入は3.9%減の1,012億5,000万ドルだった。貿易収支は引き続き黒字となった。
輸出品目別に見ると、資源関連(貴石・貴金属など、鉱石・スラグおよび灰)、輸送機器および関連部品、果実・かんきつ類などは前年比で増加したが、他の品目は減少した。特に鉄鋼は前年比11.2%減と大きく落ち込んだ。鉄鋼価格の下落に加え、中国などの過剰生産による安価な製品の流入が、南アの輸出競争力を圧迫した。貿易産業競争省(DTIC)の報告によれば、南アの鉄鋼製品の生産量は新型コロナ禍以前の水準に回復しておらず、2024年の粗鋼生産は2018年比で30%減、完成鋼材は32%減となった。国内製鉄所の稼働率も低く、2025年1月には最大手のアルセロール・ミタル・サウスアフリカ(AMSA)が一部工場の事業停止を発表した(2025年1月24日ビジネス短信参照)。同社は、「鉄鋼業界は2008/2009年の金融危機以来、最大の困難に直面している」とし、経済低迷、物流・電力コストの高騰、さらに政府による金属スクラップ活用のための価格優先制度(PPS)の導入も不振の要因と述べている。鉄鋼業界にとっては厳しい1年となった。
輸入品目別では、原子炉・ボイラー・機械類・部品など、プラスチックおよび同製品を除くすべての品目で前年から減少した。特に、2023年に急増した電気機器および部品は19.9%の減少となった。中でも蓄電池および部品が68.0%減、変圧器が34.8%減と大きく落ち込んだ。前年と比較して、2024年は計画停電が大幅に減少し、需要が減退したとみられる。
国別では、引き続き中国が輸出入ともに最大の貿易相手国だ。中国との貿易総額は輸出入ともにほぼ前年並みだが、対中輸出(金額ベース)全体の66.3%を占める鉱石・スラグおよび灰が前年比5.5%増、輸入は一般機械および部品が25.9%減だった。
対米貿易は輸出で2位、輸入で4位だった。輸出全体の36.6%を貴石・貴金属類(前年比1.8%減)、17.0%を輸送機器・関連部品(15.8%増)が占める。一方、輸入では原子炉・ボイラー・機械類・部品など(18.5%減)や鉱物性燃料(5.6%増)が主な品目である。2025年1月のトランプ政権の発足以降、政治的な関係性が悪化しているほか、2025年9月末に米国の特恵貿易制度「アフリカ成長機会法(AGOA)」が失効しており、AGOA利用率の高い南アの対米貿易は今後大きな影響を受ける可能性が高い(2025年6月16日地域・分析レポート参照)。
| 品目 | 2023年 | 2024年 | ||
|---|---|---|---|---|
| 金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
| 貴石・貴金属など | 20,169 | 20,634 | 18.7 | 2.3 |
| 鉱石・スラグおよび灰 | 16,190 | 17,194 | 15.6 | 6.2 |
| 輸送機器および関連部品 | 12,555 | 12,578 | 11.4 | 0.2 |
| 鉱物性燃料 | 11,476 | 10,575 | 9.6 | △7.9 |
| 鉄鋼 | 6,478 | 5,755 | 5.2 | △11.2 |
| 原子炉、ボイラー、機械類・部品など | 6,272 | 5,668 | 5.1 | △9.6 |
| 果実・かんきつ類など | 4,350 | 4,949 | 4.5 | 13.8 |
| 合計(その他含む) | 110,253 | 110,456 | 100.0 | 0.2 |
〔注〕2024 年は暫定値
〔出所〕Global Trade Atlas
| 品目 | 2023年 | 2024年 | ||
|---|---|---|---|---|
| 金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
| 鉱物性燃料 | 22,579 | 19,579 | 19.3 | △13.3 |
| 原子炉、ボイラー、機械類・部品など | 12,900 | 12,917 | 12.8 | 0.1 |
| 電気機器および部品 | 12,321 | 9,863 | 9.7 | △19.9 |
| 輸送機器および関連部品 | 8,333 | 7,148 | 7.1 | △14.2 |
| プラスチックおよび同製品 | 2,638 | 2,897 | 2.9 | 9.8 |
| 医療用品 | 2,425 | 2,424 | 2.4 | △0.0 |
| 合計(その他含む) | 105,363 | 101,250 | 100.0 | △3.9 |
〔注〕2024 年は暫定値
〔出所〕Global Trade Atlas
| 国・地域 | 2023年 | 2024年 | ||
|---|---|---|---|---|
| 金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
| 中国 | 12,281 | 12,403 | 11.2 | 1.0 |
| 米国 | 8,395 | 8,229 | 7.5 | △2.0 |
| ドイツ | 7,669 | 7,305 | 6.6 | △4.7 |
| モザンビーク | 6,202 | 6,571 | 5.9 | 5.9 |
| 英国 | 5,376 | 5,271 | 4.8 | △2.0 |
| 日本 | 5,747 | 4,896 | 4.4 | △14.8 |
| インド | 4,831 | 4,745 | 4.3 | △1.8 |
| 合計(その他含む) | 110,253 | 110,456 | 100.0 | 0.2 |
〔注〕2024年は暫定値
〔出所〕Global Trade Atlas
| 国・地域 | 2023年 | 2024年 | ||
|---|---|---|---|---|
| 金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
| 中国 | 21,946 | 21,796 | 21.5 | △0.7 |
| インド | 7,498 | 7,335 | 7.2 | △2.2 |
| ドイツ | 8,588 | 7,079 | 7.0 | △17.6 |
| 米国 | 7,470 | 6,958 | 6.9 | △6.9 |
| タイ | 3,495 | 3,225 | 3.2 | △7.7 |
| オマーン | 2,519 | 2,966 | 2.9 | 17.7 |
| アラブ首長国連邦(UAE) | 3,994 | 2,965 | 2.9 | △25.8 |
| 合計(その他含む) | 105,363 | 101,250 | 100.0 | △3.9 |
〔注〕2024年は暫定値
〔出所〕Globa Trade Atlas
対内・対外直接投資
対内直接投資は前年比4割減、引き続き再エネ投資に期待
南ア準備銀行(SARB)の発表によれば、2024年における南アの対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は435億ランドとなり、前年比で約40%の減少となった。
四半期別に見ると、第1四半期には244億ランド、第2四半期には166億ランドの流入が記録された。第1四半期の主な案件は、米・大手IT企業のパワーフリート(Powerfleet)による、南アのミックス・テレマティクス(MiX Telematics)の買収である。買収額は非公表だが、統合後の事業規模は年間売上高2億8,400万ドルを見込み、世界最大級のモバイル資産向けソフトウェアサービス企業が誕生した。SARBの報告書において、本買収は企業名の記載はなかったものの、 2024年第1四半期の投資流入に大きな影響を与えた案件として言及された。第3四半期には32億ランドの流出に転じた。SARBは、主な要因を国内子会社の債務返済額が親会社からの投資額より多かったことが要因と報告した。第4四半期は、外国の親会社による国内子会社への株式投資が増加したことにより、75億ランドの流入となった。
フィナンシャル・タイムズの「fDi Markets」によると、2024年も前年同様、再生可能エネルギー(再エネ)、情報通信(ICT)、鉱業、自動車産業といった主要産業で投資案件が目立った。再エネ分野は投資額ベースで全体の約30%を占め、欧米からの投資が多く見られた。代表的な案件の1つが、ノルウェーのスカテック・エーエスエー(Scatec ASA)による、北ケープ州での大規模な蓄電池エネルギー貯蔵プロジェクトである。同社は、2024年10月に資金調達を完了し、建設準備に入った。再生可能エネルギー独立発電事業者調達計画(REIPPPP)の第1回入札で選定され、政府と15年間の電力購入契約(PPA)を締結しており、国営の南アフリカ送電会社(NTCSA)に売電する。総投資額は約30億ランドである。鉱業分野では、カナダの白金族金属(PGM)などの採掘企業イースタンプラチナム(Eastern Platinum)が、南ア北東部の鉱山で初期稼働を開始したと発表した。本プロジェクトへの投資費用として、同社は704万カナダドルを調達済みと報道されている。
南ア企業による対外投資は、前年に引き続き2024年も、各業界の大手企業がグローバル競争力の強化を目的として積極的に実施した。
| 項目 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 2023年末残高 |
|---|---|---|---|---|
| 対内直接投資額 | 151,785 | 72,009 | 43,504 | 2,062,474 |
| 対外直接投資額 | △ 38,859 | 51,456 | 22,111 | 2,790,530 |
〔出所〕南ア準備銀行「Quarterly Bulletin(四季報)」2025年6月号
| 業種 | 企業名 | 投資国・地域 | 時期 | 投資額 | 概要 |
|---|---|---|---|---|---|
| 物流 | MSCメドログ・ロジスティクス(MSC Medlog Logistics) | スイス | 3月 | 3億5,000万ランド | MSCの物流部門メドログ・ロジスティクスは、ダーバンに最先端の冷蔵倉庫(1万5,000平方メートル)を新設。輸入品はブラジル・米国・ポーランド産の鶏肉などの生鮮品、輸出品は欧州・中東・アジア向けのかんきつ類が中心。倉庫は8,000〜1万パレットを収容可能で、冷蔵・冷凍両対応の可変式ルームを備える。 |
| ICT | テレコ(Teraco) | 米国 | 11月 | 80億ランド | 米・デジタル・リアリティーの子会社テレコは、ハウテン州イサンド・キャンパスに新たなハイパースケール・データセンター「JB7」の建設を開始。施設は7万1,000平方メートルで、1,500平方メートルのデータホールを8室備え、40MWの電力を供給。120MWの太陽光発電所など他の建設プロジェクトも含まれ、2026年の完成を予定。 |
| 再生可能エネルギー | インフィニティ・パワー(Infinity Power) | オランダ | 12月 | 非公開 | インフィニティパワーは、再生可能エネルギー独立発電事業者調達計画(REIPPPP)の枠組みで合計1,280MWの太陽光発電所6件を開発予定。リンポポ州に3件(630MW)、ノースウェスト州に2件(410MW)、ムプマランガ州に1件(240MW)を設置予定。 |
〔出所〕 南アフリカ準備銀行(SARB)、データベース「fDi Markets 」、各社発表および報道などから作成
| 業種 | 企業名 | 投資国・地域 | 時期 | 投資額 | 概要 |
|---|---|---|---|---|---|
| 保険 | サンラム(Sanlam) | インド | 4月 | 20億ランド | 南アの金融大手サンラムは、インドの保険大手シュリラムグループの保有株を取得し、傘下の損害保険会社の持分を40.25%から50.99%に、生命保険会社の持ち分を42.38%から54.40%に引き上げた。 |
| 小売業 | ビッドコーポレーション(Bid Corporation) | 英国 | 7月 | 15億ランド | 南アの小売大手ビッド・コープは、英国の食品卸売業者ティーピーを買収した。ティーピーは約2,500社に販売網を持っている。 |
| 鉱業 | ゴールド・フィールズ(Gold Fields) | カナダ | 10月 | 15億7千万ドル | 南アの金鉱企業ゴールド・フィールズは、カナダの探鉱企業オシスコ・マイニングの全発行済株式を取得し、同社を完全子会社化した。これにより、これまで共同保有していたカナダのウィンドフォール鉱山の完全な所有権を獲得した。 |
〔出所〕 南アフリカ準備銀行(SARB)、データベース「fDi Markets 」、各社発表および報道などから作成
投資環境・外資誘致政策
民間投資を促進し電力部門を再編・強化
2024年7月に新政権が始動し、シリル・ラマポーザ大統領は中期戦略フレームワーク(MTSF)を発表、新政権の施策の方向性を示した。ラマポーザ大統領は「包括的な経済成長と雇用創出」に注力する方針を示し、主な取り組みの1つとして、電力部門の規制改革による民間の参入の促進、ならびに送電網の拡大・強化に力を入れるとした。また、再エネへの公正な移行を目指し、グリーン水素、電気自動車、再エネに関連する輸出を柱とした製造部門の創設に取り組む方針を示した(2024年7月25日ビジネス短信参照)。同月23日、ラマポーザ大統領は「気候変動法(Climate Change Act
(562KB))」に署名した。2025年3月17日に一部施行され、部門別排出目標の設定、国家適応戦略の策定、自治体による対応計画の策定が進められている。これにより、官民連携によるグリーン投資や持続可能な産業構造への移行が期待されている。
8月には、「電力規制改正法(Electricity Regulation Amendment Act
(522KB))」が成立し、2025年1月1日に施行された。2006年の電力規制法を改正し、電力部門の競争促進、コスト削減、発電能力への投資拡大を通じたエネルギー安全保障の確保を目的としている。小規模発電やバックアップ電源のライセンス取得が簡素化され、電力の卸売・小売における競争的な売買を可能にする市場プラットフォームの構築が定められたことで、民間企業や外資の参入機会が拡大した。また、国営の「NTC南アフリカ国営送電会社(NTCSA)」を設立し、従来、電力公社エスコムが一括管理していた送電・配電機能を移管した。
主要産業である自動車分野では、2024年12月に成立した改正税法により、電気自動車(EV)の生産を促進する新たなインセンティブが導入された。EVおよび水素燃料車を南ア国内で生産する企業に対し、初年度に対象投資額の150%を税額控除できる制度であり、2026年3月に施行される予定である。
対日関係
対日貿易は縮小、新政権発足後の外交交流は深化
日本の財務省「貿易統計(通関ベース)」によれば、2024年の南アから日本への輸出金額は前年比で19.8%減少した。鉄鉱石を除くすべての品目が低調だった。輸出構成比の6割以上を占める非鉄金属の中で、特に白金族については、輸出量は微増したものの単価が前年比で約20%下落し、輸出額の減少につながった。石炭も輸出量は増加したが、単価が下落した。
日本から南アへの輸入は前年比16.4%減で、ゴム製品を除いて低調であった。輸入構成比の約50%を占める自動車完成品および部品の輸入額も減少し、輸入全体の低迷を招いた。2024年は南アの自動車産業にとって厳しい1年であり、新車販売台数・生産台数ともに減少している(2025年6月30日地域分析レポート参照)。特に、業界最大手であるトヨタ南アフリカモーターズ(TSAM)の減産は市場に大きな影響を与えたと考えられる。
日本の財務省統計によると、2024年の日本から南アへの対外直接投資額は、実行額が前年比約6割増の9,802億円、回収額が約8割増の8,953億円でいずれも大幅に増加したが、ネット(差引)の投資額は約3割減の849億円であった。日本企業の南アビジネス関連では、日産自動車の現地法人が2024年11月に、プレトリア南部に本社機能を担う新たな事業本部を設立した。また、近年グリーン水素生産も日本企業の注目を集めており、2024年2月にはジェトロが主催した「南アフリカ水素ビジネスミッション」に30人近い日本企業関係者が参加した(2024年2月29日付ビジネス短信参照)。
2024年12月、新政権のコシエント・ラマホパ電力エネルギー大臣が来日した。藤井比早之外務副大臣(当時)および古賀友一郎経済産業副大臣(当時)との面談では、第9回アフリカ開発会議(TICAD9)に向けた二国間関係の強化、エネルギー移行や水素分野における協力、さらに南アが2025年のG20議長国となることを踏まえ、両国の連携を深めていく方針が確認された。2025年3月にはポール・マシャティーレ副大統領が日本を公式訪問した。これに続き、8月にはシリル・ラマポーザ大統領がTICAD9本会合出席のため訪日し、会合後に開催された「日・南アビジネスフォーラム」(8月25日付ビジネス短信参照)では、固定的な貿易品目の多様化、南アが優位性を持つ鉱物・再エネ分野での協力、アフリカ市場のゲートウエーとしての南アの活用を日本企業関係者に訴えた。TICAD9およびG20という国際的な重要イベントを機に、両国間のハイレベル交流が一層活発化している。
| 品目 | 2023年 | 2024年 | ||
|---|---|---|---|---|
| 金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
| 非鉄金属 | 4,434,482 | 3,659,165 | 62.3 | △ 17.5 |
| 鉄鉱石 | 454,311 | 467,737 | 8.0 | 3.0 |
| 石炭 | 724,659 | 453,412 | 7.7 | △ 37.4 |
| 自動車 | 434,278 | 274,333 | 4.7 | △ 36.8 |
| 非鉄金属鉱 | 264,366 | 254,831 | 4.3 | △ 3.6 |
| 鉄鋼 | 258,342 | 224,230 | 3.8 | △ 13.2 |
| 木製品等(除家具) | 225,646 | 203,508 | 3.5 | △ 9.8 |
| 合計(その他含む) | 7,331,666 | 5,877,741 | 100.0 | △ 19.8 |
〔注〕2024年は暫定値
〔出所〕日本の財務省「貿易統計」(通関ベース)を基に作成
| 品目 | 2023年 | 2024年 | ||
|---|---|---|---|---|
| 金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
| 自動車 | 977,239 | 808,162 | 38.4 | △ 17.3 |
| 自動車の部品 | 319,525 | 253,651 | 12.1 | △ 20.6 |
| 建設用・鉱山用機械 | 184,846 | 139,493 | 6.6 | △ 24.5 |
| ゴム製品 | 89,948 | 93,009 | 4.4 | 3.4 |
| 鉄鋼 | 102,299 | 76,509 | 3.6 | △ 25.2 |
| 荷役機械 | 72,259 | 60,213 | 2.9 | △ 16.7 |
| 原動機 | 54,400 | 50,330 | 2.4 | △ 7.5 |
| 合計(その他含む) | 2,515,593 | 2,103,318 | 100.0 | △ 16.4 |
〔注〕2024年は暫定値
〔出所〕日本の財務省「貿易統計」(通関ベース)を基に作成
基礎的経済指標
| 項目 | 単位 | 2022年 | 2023年 | 2024年 |
|---|---|---|---|---|
| 実質GDP成長率 | (%) | 2.1 | 0.8 | 0.5 |
| 1人当たりGDP | (米ドル) | 6,629 | 6,112 | 6,332 |
| 消費者物価上昇率 | (%) | 6.9 | 6.0 | 4.4 |
| 失業率 | (%) | 32.7 | 32.1 | 31.9 |
| 貿易収支 | (100万ランド) | 233,127 | 139,587 | 214,306 |
| 経常収支 | (100万ランド) | △ 21,591 | △ 76,424 | △ 47,991 |
| 外貨準備高(グロス) | (100万米ドル) | 60,570 | 62,518 | 65,459 |
| 対外債務残高(グロス) | (100万米ドル) | 164,281 | 158,124 | 168,354 |
| 為替レート | (1米ドルにつき、南アフリカ・ランド、期中平均) | 16.36 | 18.45 | 18.33 |
注
失業率:いずれも4Q
貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
出所
実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率:南アフリカ共和国統計局
1人当たりGDP:IMF
貿易収支、経常収支、対外債務残高(グロス)、外貨準備高(グロス)、為替レート:南アフリカ共和国準備銀行




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