日本での拠点設立方法 工場設立を伴う場合のモデルケース解説

1. 拠点選定

(1) 候補地の検討

  1. i.

    候補地のリスト化

    工場建設が可能な候補地を日本全国より幅広く収集し、リスト化する。なお、日本国内の地域差や土地利用規制に関して信頼できる情報源を活用し、同時並行で比較検討できるよう複数の地域を候補地として挙げることが重要となる。

  2. ii.

    地理的条件やインフラ、法令・規制の確認

    リスト化した候補地を絞り込むため、地理的条件、インフラ、法令・規制の観点より工場設立の実現可能性やリスクを確認・精査する。なお確認・精査を行う観点の例は以下のとおり。

    • 地理的条件
      • 地形・地盤:地形の平坦さや地盤の強度・安定性を加味した建設の容易さ、建物の安全性
      • 水資源:河川や地下水等へのアクセス、工業用水の確保の容易さ
      • 気候:気温や湿度、風向きや日照時間から想定する操業環境、自社産業への適正
      • 自然災害リスク:自然災害リスクの大小からみる事業継続性、安全対策の必要性
    • インフラ
      • 交通・物流網:道路や鉄道、湾岸へのアクセスと原材料/製品の輸送効率・コスト
      • エネルギー供給:電力やガスの供給能力、工場の安定稼働、生産能力
      • 都市用水:上下水道や工業用水道、排水処理能力
      • 情報通信網:インターネットや通信回線
      • 労働力・生活環境:周辺の生活施設の充実性、人材確保・従業員の定着率
    • 法令・規制:
      • 都市計画法:建設できる工場の種類・規模の制限の有無、開発許可の要否
      • 工場立地法:工場建設における生産施設面積率・緑地面積率・環境施設面積率などの基準
      • 環境関連法令:大気汚染防止法や騒音規制法、廃棄物処理法等の環境規制
      • 消防法:危険物の貯蓄や取り扱いにおける防火・防災に関する設備基準や規制
  3. iii.

    専門家への相談

    候補地の選定に参考となる立地情報や自治体の紹介、法令・規制といった日本の制度に加え、自治体との交渉や補助金要件の確認に関して適宜外部の専門家へ相談を行う。なお相談できる専門家の例は以下のとおり。

    • 行政書士/1級建築士等:工場立地法、建築基準法等に関連する事前相談
    • 税理士:土地取得や建設に関わる税務、活用可能な税制優遇措置
    • 弁護士:土地取得契約、法令遵守に関するリーガルチェック
    • 土地家屋調査士:工場等の建物に関する不動産登記のうち建物の現況に関する表示登記
    • 司法書士:用地、建設された建物の権利の取得、担保権の設定等に関する登記
    • ジェトロ:立地情報や自治体紹介
    • 自治体:開発規制の詳細やインセンティブ条件
  4. iv.

    候補地の比較検討

    収集した情報および専門家の意見に基づき、各候補地の特徴やメリット・デメリット、コストやリスクの詳細な比較を行い、優先順位を付けながら候補地を絞り込む。

(2) 用地取得

  1. i.

    自治体/土地所有者との交渉

    絞り込んだ候補地の用地取得に向け、土地価格や賃貸料、引渡し条件や事業開始期限等について、自治体/土地所有者と交渉を開始する。

  2. ii.

    財政・金融上等の支援措置の確認

    国や自治体から受けることのできる補助金や税制優遇措置といった支援措置について、適用条件や申請期限、必要書類を含めて確認する。これら支援措置はコスト削減だけでなく、事業計画の具体化や事業全体の実現可能性の向上につなげることが可能。

  3. iii.

    契約交渉

    工場を設立する用地の取得に向けて必要な売買または賃貸契約の交渉と締結を行う。その際、日本の法律に基づく契約書の内容について、適宜専門家を通して十分に理解する。

  4. iv.

    不動産登記

    土地売買契約または賃貸借契約の締結後、所有権移転登記または賃借権設定登記を行い、用地に関する権利関係を法的に確定させる。金融機関からの借入を行う場合には、土地に対する抵当権または根抵当権の設定登記も併せて実施する。

2. 計画・業者選定

(1) 企画検討・基本計画検討

  1. i.

    工場建設の目的/事業戦略の明確化

    日本に工場を設立する目的を整理し、工場の規模や将来の生産規模、必要となる生産能力や導入する技術・設備等の具体的な要件を定め、グローバル生産体制との整合性や自社の事業戦略との整合を図る。

  2. ii.

    主要法令に基づく事前協議・届出

    工場建設の可否を判断するため、日本の主要法令について関係行政機関と事前協議を実施し、都市計画法・農地法に基づく対象地における工場建設の可否や工場立地法による環境基準の適用、労働安全衛生法に基づく管理体制・特定機械等の書面等の審査および製造の許可申請等を確認する。

  3. iii.

    予算・工事期間/スケジュール計画

    建設費、設備費、土地取得費といった工場建設に必要な総投資額の概算を算定し、工事開始から稼働までの工程と期間を整理する。計画に際しては日本の許可手続きの所要時間や電力・用水等のインフラ供給開始時期も考慮し、現実的なスケジュール策定とマイルストーン設定が必要となる。

(2) 設計業者・施工業者選定

  1. i.

    発注方式の決定

    どのような形で設計・施工を発注するか決定する。主に「設計と施工をそれぞれ別の設計事務所と建設会社に発注する分離発注方式」と「設計から施工まで一括して一つの建設会社に発注する設計施工一括方式」が考えられる。分離発注方式では設計と施工のプロセスにおける透明性が高く、企業による細やかな仕様の管理がしやすくなる一方、設計施工一括方式では調整負荷が少なく工事期間を短縮できる利点が挙げられる。発注方式の決定に際しては、本社の購買方針や契約ルールも確認しておく必要がある。

  2. ii.

    情報収集

    決定した発注方式に従い、複数の設計会社・建設会社から情報収集し、候補業者を絞り込む。なお情報収集する際は当該業者の過去実績や技術力、品質・安全衛生管理体制や評判、国際案件への対応能力(言語対応能力含む)等を確認し、要件に適した業者を選定する。

  3. iii.

    見積依頼

    工場建設の要求事項をまとめた提案依頼書(RFP)や見積依頼書(RFQ)を提出し、候補業者に具体的な提案と見積の提示を依頼する。受領した提案と見積について、コストや技術提案、工期の妥当性等を総合的・客観的に評価の上、候補業者を比較し選定する。

  4. iv.

    契約交渉

    契約の詳細条件を調整する交渉を開始し、金額・支払い条件や工期・遅延時のペナルティ、品質基準・保証内容等を適宜弁護士によるリーガルチェックを踏まえて精査し、双方の責任範囲を明確化した上で、日本の法律に基づく正式な契約を締結する。

3. 設計

(1) 基本設計立案

  1. i.

    建築、構造/設備計画作成

    工場の建物構造やレイアウト、設備配置や従業員の動線、機器仕様書等、工場全体の骨格となる基本設計を策定する。求められる生産能力や製造プロセスに応じて必要となる要件を整理し、各設備の基本仕様を固める。なお、本社のグローバル設備基準やEHS(環境・衛生・安全)基準との適合確認も行う必要がある。

  2. ii.

    概算コストの算出

    基本設計に基づき、建設費や設備費といった工場建設にかかる全体の概算コストを再度算出する。後工程でのズレを避けるため、可能な限り精度の高い見積の算出が求められる。

  3. iii.

    資金調達の準備

    算出した概算コストに基づき、工場建設に必要な資金調達の準備を進める。国や自治体から受けることのできる補助金や税制優遇措置等の支援措置の適用も考慮し、本社からの資金提供や日本法人での調達、銀行融資といった財務構造を検討する。

(2) 実施設計作成

  1. i.

    詳細設計・建設に向けた各種届出

    建築確認申請や消防法・電気事業法関連の届出、労働安全衛生法に基づく機械設置届、建設工事計画届、騒音規制法に基づく届出等、詳細設計および工場建設に向けた各種届出や申請・法的手続きを行う必要がある。なお、特定化学物質を扱う場合には、特定化学物質のリスクアセスメントに基づいた健康障害を防止するための措置を検討する必要がある。

  2. ii.

    建築、構造/設備計画詳細化
    基本設計で定めた仕様を基に、実際の運用を想定した各仕様の詳細設計を行う。なおこの段階で使用する建材の仕様や構造計算に基づく詳細な構造計画(工場内の動線や機械設備の配置等)、原材料や製品の搬送経路、設備機器の型番や配管ルートなどを決定し、施工性やコスト、安全性といった観点で設計の最適化を行う。

  3. iii.

    詳細設計図作成
    実際の工場建設にて使用される詳細設計図を作成する。これには建築図や構造図、設備図、電気図、配管図等、多数の技術図面が含まれ、施工業者が正確に工場を建設するための指示書となり、工場建設の品質と工事期間を大きく左右することとなる。

4. 調達・建設

(1) 部材調達・納入計画

  1. i.

    建築資材/機材/部材の選定

    詳細設計図に記載されている仕様に基づき、工場建設に使用する適切な品質・コスト・性能を満たす建築資材や設備機器、部材を選定する。本社仕様やグローバル標準を満たした機器を採用し、輸入部材が必要となる場合には追加の調整や納期の確認が求められる。

  2. ii.

    調達先の選定
    選定した資材や機器、部材の調達先を価格や品質、納期、調達リスク等を比較して選定する。必要に応じて複数の調達先に見積を依頼して比較検討を行う。なお海外製品や特注設備を用いる場合には、これら製品・設備の輸入に関する手続き、税関対応、国内安全基準への適合確認等を追加で検討する必要がある。

  3. iii.

    建設スケジュールに合わせた納入計画の立案
    詳細な建設スケジュールに合わせ、搬入経路や現場での保管能力、安全対策を含めた資材の納入計画を立案する。資材の納入時期は工事の進行と密接に関連しており、納入遅延が発生すると工期遅延に直結するため、詳細な工程管理が必要となる。なお、海外から製品・設備を輸入する場合には輸送機関や国際物流の変動を考慮した余裕を持った納期設定が求められる。

(2) 建設工事

  1. i.

    施工前の法令順守確認
    建設工事施工前に建築確認申請の許可が下りていることを確認し、道路占有許可や廃棄物処理届等の必要な届出が完了し、労働安全衛生規則に基づく作業環境安全確保や作業員への安全教育、健康診断の実施等、関連法令に基づく要件が全て満たされていることを確認する。

  2. ii.

    施工計画の策定
    建設工事を安全かつ効率的に進めるため、工事全体の進め方を定める詳細な施工計画書を策定する。これには工程表や品質管理計画、安全管理計画等が含まれ、建設工事・設備工事・電気工事の工程を統合し策定する必要がある。

  3. iii.

    建築工事
    施工計画に基づき、基礎工事、鉄骨工事、外装・内装工事、設備工事等の建築工事を順次実施する。この過程では、設計どおりの品質が確保されているか、現場条件に応じて必要な調整が行われているかを確認しながら工事を進めていくことが求められる。

  4. iv.

    工程管理
    工程表に基づき建設工事の進捗状況を管理し、計画どおりに建設作業が進んでいるかを確認する。資材の納入遅延や天候、施工上の問題等により遅延が発生した場合には、速やかに対策を講じ工期内に建設工事が完了できるよう、影響を最小限に抑えるための調整を行う。なお、施工会社は定期的に進捗報告を実施し、必要に応じて工程を見直すことが求められる。

5. 官庁検査

(1) 官庁検査

  1. i.

    特定行政機関による検査

    工場の建設工事が完了すると、建築基準法に基づく完了検査や消防法に基づく消防検査等、特定の行政機関による検査が実施される。主な検査対象は工場全体の構造、設備機器の設置状況、消火・防火設備、配管や電気系統の施工状況となり、法令基準を満たし適切に施工されているかが厳格に点検される。

(2) 使用許可取得

  1. i.

    各種届出・許認可の取得

    行政機関による検査での適合が確認されると、工場稼働に必要な各種届出・許認可の取得を行う。公害防止に関する許可・届出や、労働安全衛生法に基づく特定機械等の検査証の発行や検定対象の機械・器具・保護具についての検定の取得、および安全管理者・衛生管理者・産業医等の選任・届出等、必要な手続きを経ることで工場を合法的に稼働させることが可能となる。あわせて、建物表題登記および建物を所有する場合は建物所有権保存登記を行い、建物に関する権利関係を法的に確定させる。なお、日本国内の法令基準だけでなく、必要に応じてグローバル基準との整合も確認しながら手続きを進める必要がある。

6. 試運転

(1) 試運転

  1. i.

    単体試運転の実施
    個々の設備や機器につき単体試運転を行い、それぞれ単独で正常に動作するか性能・安全装置の作動も含めて確認する。この段階で機器ごとの初期設定や調整を行い、詳細設計や仕様書に沿った動作をしているか検査する。

  2. ii.

    総合試運転の実施
    単体で動作確認が取れた設備を連携させ、生産ライン全体が一連の流れとして問題なく稼働するか総合試運転を行う。原材料投入から製品排出までの一連の工程が連動して機能するか、ラインの同期性や工程間のバランス、安全装置の一体動作等を検証する。なお、ラインの生産能力や品質管理に支障がないかを確認し、必要に応じて微調整を行う。

(2) 調整・改善(適宜)

  1. i.

    初期不具合の解消
    試運転の過程で判明した設備やシステムの不具合、設計ミス、作業手順の問題点等を特定し、設備調整や部品交換、プログラム修正といった是正措置を講じ、不具合や問題が完全に解消し安定した生産が行える状態まで改善を繰り返し、本稼働への準備を整える。

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