サクセスストーリー

ウィプロ・ジャパン株式会社

ウィプロ・ジャパン株式会社は、インドのベンガルールに本社を置くIT企業、ウィプロ・リミテッドの日本法人。1998年に日本に進出して以来、日本企業の厳しい品質基準や納期を順守しながら、顧客のニーズに合わせたITサービスを提供し、業界での信頼を獲得してきた。近年は、IoTやAI技術を活用した遠隔医療やコネクテッド・カーの開発に力を入れている。ウィプロ・リミテッドの上級副社長Manoj Nagpaul(マノージュ・ナグポール)氏とウィプロ・ジャパン株式会社の代表取締役社長の髙谷直秀氏に、同社の取り組みと日本でのビジネスについて聞いた。

設立年月
1998
進出先
神奈川県

  • ICT
  • インドインド

掲載年月 : 2019/07

1945年に創業したウィプロは、ソフトウェアの開発・保守のほか、情報システムのアウトソーシング・ソリューションなどを提供している。インドのIT業界でも歴史が長く、総従業員数は62ヵ国に17万人、取引実績は世界で1,200社を上回る。

ウィプロの日本進出は早く、1998年に神奈川県横浜市に同社の日本法人としてウィプロ・ジャパン株式会社(以下、「ウィプロ・ジャパン」)を設立した。横浜市の本社に加え、大阪にも支店を構え、現在、日本で約325名の従業員を雇用し、自動車、製造業、医薬品分野など、約50社の顧客企業と取引している。

日本企業のグローバルビジネスを支援

国際的にビジネスを展開する日本企業が日本本社から海外事業を把握・統括するためには、ITオペレーションの効率化が必要となる。「我々は、そのために必要な統合されたITシステムの構築を通じて、日本企業のさらなるグローバル化に貢献している」とウィプロ・リミテッドの上級副社長Nagpaul氏は述べる。

ウィプロ全体の2017~18年度の売上約81億ドル(約9,000億円)のうち、11.1%をアジア大洋州地域(インドを除く)が占める。Nagpaul氏は、「日本市場がわが社の成功のカギを握る」と語る。「我々は日本を今後大きな成長が見込める市場と見ており、引き続き、ビジネス拡大のために必要な投資は積極的に行っていく」と強調する。

企業ネットワークを広げ、顧客の利便性を向上

ウィプロ・ジャパンは、日本で長年培ってきた日本独自の知見と、グローバル企業の業務を請け負う中で得た専門技術を融合させ、クラウドなどのインフラストラクチャ・プラットフォームの提供のほか、ビジネスアプリケーションの統合などに力を注いできた。さらに、第四次産業革命の技術の柱とされるIoTやAI技術開発など、デジタルトランスフォメーションの先駆けとしても業界をリードしてきた。

「日本では近年、顧客の利便性向上のためのビジネスが増えている。例えば、顧客が足を運ばなくても銀行取引ができるデジタルバンキング。この場合、全ての取引を携帯電話で行うことができ、顧客は銀行に出向く必要がなくなる」とNagpaul氏は説明する。

ウィプロは日本市場で既に確固たる地位を確立している外資系企業を買収することにより、自社のサービスの幅を広げている。例えば、日本市場で8年間クラウドサービスを提供してきた米国のアピリオを2016年に買収。アピリオは顧客関係管理で有名な米国の大手IT企業のセールスフォースにサービスを提供していた。ウィプロでは、アピリオの経験と実績を活用し、サポートすることができるようになった。また、アピリオはクラウドソーシングプラットフォーム分野の米トップコーダーを所有していたことから、トップコーダーもウィプロの傘下に入った。トップコーダーは、米国の航空宇宙局(NASA)、ハーバード大学、日本の富士通、ソフトバンク、チューリッヒ保険といった名だたる顧客を抱える業界リーダーだ。

Nagupaul氏は、「トップコーダーは、ITソリューションやITアプリを導入したい顧客に対して、ポータル上で仕様を提示し、様々な企業が入札する場を提供している。このシステムにより、顧客は低コストで高品質なITソリューションを選定することができるようになった。こうした企業がウィプロの傘下に入ることで、我々のサービスを利用する顧客は市場への早期参入やグローバル人材へのアクセスを一つのプラットフォームで入手できるようになった」と強調する。 また、ウィプロは「SAP、マイクロソフト、セールスフォース、AWS、オラクル、シスコ、その他主要技術機関ともパートナー関係を構築している。これら企業とのグローバル提携による優位性として、当社は提携先の製品を活用して日本のニッチ分野にサービスを提供することができる」と、ウィプロ・ジャパンの髙谷代表取締役社長は述べる。

医療と自動車分野でIoT技術を活用

ウィプロは現在、遠隔医療へのIoT技術の活用に力を入れている。日本政府は、団塊世代が75歳以上となる2025 年までに、健康寿命を延ばす「新しい健康・医療・介護システム」の確立を目指している。実現には、健康管理や診療などでビッグデータや、AIといった革新的な技術の活用が前提となっており、患者のデータを研究施設や医師につなぐ同社のコネクテッド・ヘルスケアの技術が日本でも活用されることが期待される。

実際、ウィプロは他国において、IT技術の活用により、ヘルスケアの効率性の向上、正確なデータ収集、治験結果の改善に貢献してきた。米国で93の病院を運営する大手ヘルスケア関連非営利団体では、ウィプロの技術を取り入れ、全ての病院を繋ぐネットワークシステムをアップグレードしたことで、医師が限られた資源や予算の中で質の高い医療サービスを患者に提供することが可能となった。特に、受付やデータセンターのネットワークを統合することで患者情報を自動で収集し、10万に上る医療機器や2,000ものサーバー、500のデータベースをネットワークに繋げることで、起こりうる機器の不具合などを予測し、提供する医療サービスに問題が発生しないようシステムを構築し、高い評価を得た。

ウィプロ・ジャパンでは、コネクテッド・カーや自動運転システムの開発にも力を入れている。「いまや、車には様々なセンサーやソフトウェアが搭載されており、タイヤにコンピューターが装備されたようなものだ。自動車開発においてはより多くのIT技術が必要とされる時代。より優れた技術が搭載されていることが、自動車の購入の決め手になる」とNagpaul氏は述べ、日本企業との協業を進める背景を説明した。

一方で、「AI・IoT技術の市場はまだ完全競争の段階にはない」と髙谷氏は指摘する。「今は技術の標準化を目指している段階。今後、我々のようなプレーヤーが標準化に寄与できると考えている。実際に様々な技術を統合し、技術の標準化を図ることが可能なITプラットフォームをすでに自社で保有している」と述べる。同社は機器と機器をつなぐ際のプロセスを自動変換できるシステムを独自で有しており、必要に応じて機器同士の読み込み作業もサービス提供の一環として行っている。

ウィプロ・ジャパン株式会社
髙谷 直秀 代表取締役社長

日本企業が求める品質・納期に対応

日本企業と長年取引してきた結果、日本での仕事の進め方が他国と異なることに気づいたとNagpaul氏は語る。「日本企業は事業計画の立案に費やす時間が長い。加えて実証実験にかける時間も多く、品質管理も厳しい。」同社はそうした日本の顧客向けに、高い品質基準や厳格な納期に対応する独自のデリバリー・フレームワークを確立し、日本企業の信頼を獲得していった。

同社の顧客には大手日本企業が名を連ねる。「全日空では、航空機部品のメンテナンスの近代化に貢献できた。航空機は200万点以上の部品によって構成されているが、膨大かつ高度な部品の管理は非常に難しい。そこで我々はメンテナンスに必要なITシステムを提供した。また、武田薬品工業では、IT基盤の調達から運用管理までの一連の業務をわが社に一任いただいている」とNagpaul氏は言う。さらに、「北米で30年以上前からビジネスを行う富士通ネットワークコミュニケーションズには、ITの主要なソフトウェアを提供して10年になる。我々が提供したソフトウェアは同社の世界各国の拠点で活用されている」と髙谷氏は言う。

ウィプロは、こうした顧客企業ごとにカスタマイズしたサービス提供を日本以外の顧客にも提供しており、日本基準の対応がグローバルに好評を得ている。

日英バイリンガルの技術者をインドから派遣

日本でのビジネス展開における課題として、Nagpaul氏は「言語」を挙げる。「我々の三大市場である米国、豪州、英国でビジネスを行う際は、英語が公用語のため言葉の障壁はない。しかし、日本や中国を含むアジア諸国や欧州の一部の国では英語はまだ主要言語ではない。状況は改善しつつあるが、コミュニケーションは深い信頼関係を構築する上で重要だ。日本では、現場のチームに日本語と英語の両方が堪能な人材を配置することで、顧客だけでなく社内コミュニケーションの円滑化に努めた」。一方で、「グローバル企業として日本の顧客の要望に応えるためにはバイリンガル人材は必須だが、まだ日本では多いとは言えない」と説明する。

同社では、従業員による日本語や日本文化への理解を深めるべく、6カ月間の研修を実施し、研修施設から輩出した有能な高度人材を日本に派遣している。

同社はまた、ジェトロが2017年度に外資系企業の人材確保の一助となるべく開催した、在日外資系企業と在日留学生らグローバル人材との交流会にも参加した。

ウィプロのベンガルールオフィス

日本市場での急成長を目指す

今後の抱負について、「我々にとって日本はアジア大洋州地域の中で豪州に次ぐに大きな市場であり、可能性を秘めている。今後4~5年内に、より多くの事業に投資することで急成長を実現させたい」とNagpaul氏は強調する。

(2019年7月取材)

同社沿革

1945年

ウィプロを設立

1982年

IT産業に参入

1990年

R&Dサービス、ITサービスに参入

2000年

ニューヨーク証券取引所上場、BPSビジネスに参入

2015年

Designit & Appirioを買収し、“ウィプロ・デジタル”立ち上げ

2017年

新しいブランド・アイデンティティを立ち上げ、”Sprit of Wipro”を再定義。変革と顧客期待の進化に対するウィプロのコミットメントを強調。

ウィプロ・ジャパン株式会社

設立

1998年

事業概要

情報システムアウトソーシング、ソフトウェアアプリケーション開発および保守

親会社

ウィプロ・リミテッド

住所

〒220-8126 神奈川県横浜市西区みなとみらい2-2-1-1 横浜ランドマークタワー26階

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