Skymind株式会社
AI(人工知能)のディープラーニング(深層学習)技術を使ったビジネスインテリジェンスや企業ソフトウェアの開発・販売を専門とする米国Skymind Inc.は、2016年2月、東京に日本法人Skymind株式会社を設立した。同社は大手企業から個人ユーザーまで幅広く利用可能なオープンソース※のソフトウェアを提供している。2016年には日本の大手金融機関と提携し、同社のソフトウェアを用いた不正利用検知の実証実験を行った。日本進出の経緯と今後の事業展開について、同社CEO(兼米国本社CTO)のアダム・ギブソン氏とエンジニアを務めるサミュエル・オーデ氏に話を聞いた。

米国シリコンバレー生まれのAI関連スタートアップ
Skymind Inc.は、米国カリフォルニア州サンフランシスコに本社を置くAI・ディープラーニング関連のソフトウェア開発・販売会社。2014年に事業を開始し、主にシリコンバレーで開発業務を行っている。
本社CTOでもあるギブソン氏は、早くから日本市場の潜在的な魅力に目を付け、創業後すぐに日本への営業を開始。オーデ氏を日本でのエンジニアとして採用し、2016年2月に日本に拠点を設立した。現在、米国本社に加え、カナダ、中国にも拠点を持ち、日本拠点はアジアのヘッドクウォーター、研究開発拠点として位置づけられている。
オープンソース・プラットフォームで世の中を便利に
同社は、AIのディープラーニング技術を使ったソフトウェア「Skymind Intelligence Layer」(通称SKIL)や「Deeplearning4j」(同DL4J)を開発している。
これらのソフトウェアは、オープンソースのプラットフォーム※(オープンコア)の利点を活かし、多くのコンピュータを結びつけることで、膨大なデータをより迅速に処理できる点が特徴である。AIやディープラーニング関連のソフトウェア開発会社は数多く存在するが、同社のソフトウェアのコアの部分は世界中の誰もが無償でアクセスすることができるのが強みだ。コミュニティから様々なフィードバックを得ながら、より実用性の高い製品を開発できる。
同社のSKILとDL4Jは具体的にどんな製品なのか。SKILは、AIのディープラーニング技術を利用するための実装ツールとなるソフトウェアで、DL4Jのほか、様々なアプリを搭載し、他のツールとの接続が可能なプラットフォームとなっている。
DL4Jは、ディープラーニングを広くサポートする計算フレームワークのソフトウェアとなっており、内部にオートエンコーダ※やNLP(自然言語処理)用のフレームワークを搭載しており、他のディープラーニング用フレームに比べてデータ解析がしやすい。主に顔・画像認識、音声検索、音声の文字化、スパムフィルタ、不正検出等、様々な対応が可能である。

Skymind社のオープンソース・プラットフォームのモデル
これらのソフトウェアはプログラミング言語の中でも世界トップの利用者数であるJava言語を用いており、多くのソフトウェアへ汎用することが可能である。また、Java言語を用いることによって、ソフトウェアをオープンソース化でき、ユーザーは自前で一からAI技術を構築する時間と手間を省略することができ、研究開発や製品開発の時間短縮を図ることができる。また、アプリケーションの機能追加が容易にかつ低コストででき、業務効率化にもつながる。さらに、DL4Jは優秀なエンジニアを発掘する手段にもなっている。
日本進出理由:安定した産業基盤と高いAI需要
同社が日本に拠点を持つきっかけについて、ギブソン氏とオーデ氏に聞いた。オーデ氏は約10年前に国費留学生として来日し、卒業後は日系ソフトウェア会社での就労し、日本語はもちろん日本文化にも精通している。
両氏は「日本には豊かな産業基盤があり、世界でトップレベルを誇るビジネスインフラもある。市場規模では中国が最大だが、事業の持続可能性については予測がつきにくい。一方で、日本は世界最大の市場とは言えないが、成長が予見でき、産業基盤が広く、安定して収益が得られる見込みがある。加えて、特に自動化関連でビジネスチャンスが豊富にあることも日本の魅力。フィンテックでも様々な自動化ニーズがある。日本の産業基盤やビジネスインフラにおいても、シリコンバレーで培った自社の知識や経験を活かせるのではないかと思い、進出に踏み切った」と語った。
日本の大企業は大量のデータを蓄積しているが、そのデータを利益に結び付けるのに必要なAI技術を持ったエンジニアが不足しており、AIサービスの需要が高いという。同社のソフトウェア技術は日本で高く評価されており、すでに大手広告代理店や大手自動車メーカーへの導入実績も持つ。2017年には、ソフトバンクと提携し、ソフトバンクのロボットに同社がプログラムしたAIを組み込み、CEATECの展示会でエレベーターのボタン操作を自動で行う実証実験を行った。
同社のソフトウェアのコアとなる部分はオープンソースで無償だが、企業のニーズに合わせたコンサルティング・サービスやSKILなどソースコード非開示のプロプライエタリ・ソフトウェア※を有償で提供するほか、プロジェクトをパッケージ化しライセンス提供するなど、付加価値を付けてビジネスを拡大している。特定のクラウドに縛られないのも、競合となるクラウドベンダーと比較した際の強みだ。
補助金を活用して実証研究を実施
同社はジェトロが2016年度に実施した「グローバルイノベーション拠点設立等支援事業」に採択され、日本の大手金融機関と実証実験(POC)を行った。
同社のディープラーニング技術を用いて、金融システムの不正利用被害件数を減らすためのアプリケーションの設計や、実際に金融機関が保有するデータを利用し不正利用機能を検証した。
近年、Fintechが世界的なブームとなり、ユーザーの利便性が高まる一方で、情報セキュリティ対策が大きな課題の一つとなっている。
今後はデータをいかに安全に管理するかが重要だという。不正利用検知の技術が実用化すれば、日本のみならず、世界において、多様化、複雑化する金融取引のセキュリティ向上に貢献することができるという。
今後のビジネス展開
「今後は金融機関だけでなく、通信会社や自動車メーカー等の様々な産業分野の企業と連携しながら、自社の製品を活かし、課題解決を行っていきたい」とギブソン氏は述べた。同社製品はオープンソース・プラットフォームのため、様々な産業に適応が可能だという。「今後は通信産業における不正使用や異常行為を検知するシステムの開発、製造工場における機械やデータセンターの計算機の予防保全、商売向けのレコメンダシステム(情報ファイリング技法の一種)、医療用画像、顔認証、文字認識の画像認識分析など、AIのディープラーニング技術を通じてより多くの社会問題を解決していきたい」と語った。
外国企業にとっての日本のビジネス環境
「東京で実際に生活してみて、想定していた以上に多くの企業が東京に集中しており、ビジネスがしやすく、優秀なエンジニアが多い」とギブソン氏は言う。また、同社は日本市場だけでなく、日本からアジア、ヨーロッパ市場へも展開していけると考えている。
一方、ギブソン氏が来日するにあたってネックとなったのが、米国で日本に関する英語情報が不足していたこと。ギブソン氏は就労ビザの取得から不動産情報まで様々な情報を必要としていたが、英語で検索可能な日本の情報は限られており、「自らSNSで調べ、日本人を雇用するなどして情報収集し、なんとかここまでたどり着くことができた」と述べた。来日後はジェトロにいろいろと助けてもらったが、来日前のサポートや英語の情報がさらに充実すると、よりスムーズに拠点設立でき、外国企業にとっては助かるのではないか」と語った。

日本法人CEO兼本社CTOを務めるアダム・ギブソン氏とエンジニアを務めるサミュエル・オーデ氏
ジェトロのサポート
「アメリカのスタートアップ企業であるスカイマインドが、補助金をもらうことで日本の大企業から信用を得ることができ、大手金融機関と初めて契約を締結することができた。また、ジェトロは補助金のみならず、不動産会社や行政書士の紹介、インセンティブ情報等、さまざまなサポートをいただき感謝している。皆さんのサポートがあってここまで来ることができた」とオーデ氏は述べた。
(2018年2月取材)
(※用語注釈)
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※オープンソース
ソフトウェアのソースコードが一般に公開され、利用者の目的を問わずソースコードの利用、修正、再頒布が可能なソフトウェアの総称。
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※プラットフォーム
他社製品とデータの相互利用や通信を行うことや、広く使われているソフトウェアや部品、周辺機器を利用することを想定したシステムの基本構造。
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※Skymind Intelligence Layer (SKIL)
ディープラーニング技術を利用するための実装ツールのソフトウェア。DL4Jを搭載しているスカイマインド社の基盤となるオープンソース型プラットフォーム。
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※Deep learning4j(DL4J)
Apacheライセンス2.0の規定に従う分散型ディープラーニング・オープンソース・ライブラリ。日本法人CEOのギブソン氏が開発。ディープラーニングアルゴリズムを広くサポートする計算フレームワーク。大容量のデータを迅速に処理できる。
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※オートエンコーダ
機械学習において、ニューラルネットワーク(人間の脳の動きを模したアクティベーションの概念)を使用した一般に広く使われているアルゴリズム。
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※Natural Language Processing(NLP)
DL4Jに搭載されている自然言語処理技術。人間が使っている言語をコンピュータ処理させるための技術。
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※プロプライエタリ・ソフトウェア
特定の企業や人に所有・改変・複製権があるソフト。ソースコードや仕様がクローズドになっている。
同社沿革
- 2014年11月
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米国カリフォルニア州サンフランシスコにて同社設立
- 2016年2月
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東京都にSkymind株式会社を設立
スカイマインド株式会社
- 設立
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2016年2月
- 事業概要
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AI・深層学習関連ソフトウェアの開発・販売
- 資本金
-
990万円(2016年2月時点)
- 親会社
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Skymind.Inc
- 住所
-
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-9-2
- URL
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- 広報・PR活動への協力等
- サービスプロバイダー紹介(行政書士、会計士/税理士、金融機関、不動産会社)
- インセンティブ情報の共有
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