サクセスストーリー

日本の産業用ロボット市場におけるAIソリューション投資の未来

Realtime Roboticsはマサチューセッツ州ボストンを拠点とするAIソリューション開発企業であり、産業用ロボットシステム開発の簡略化に注力している。同社独自のソフトウェア「RapidPlan」は、産業用ロボットが衝突なく自律的に動作するモーションプランニングを行うことを可能にする。

リアルタイムロボティクス・ジャパンの事業開発担当バイスプレジデントである小林幸司氏に、日本市場への参入を決意したきっかけ、同社が直面し、また克服した技術運用や企業文化の違いなどの課題、そして日本のロボット産業における主要企業とのパートナーシップをどのように成功させたのかについて伺った。

設立年月
2021/05
進出先
関東・東京都

  • デジタル・AI
  • 半導体・ロボット・機械
  • 米国

掲載年月 : 2025/02


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イノベーションの機会をもたらす、ロボティクス分野における日本の優位性

日本は、ロボットソリューションの開発と導入の両面で国際的なリーダーとしての地位を保ち、長年にわたり最先端を走ってきた。高度製造業が抱える深刻な労働者不足を背景に、近年、日本では産業用ロボットへの依存度がますます高まっている。こうした環境は、特にロボットの制御と最適化の分野でオートメーションの能力を強化しようとしている革新的な企業にとって、またとない機会を生み出している。

リアルタイムロボティクス・ジャパン
事業開発担当バイスプレジデント 小林幸司氏

AIを活用した先駆的ソリューションを日本に導入

Realtime Robotics独自のソフトウェアRESOLVERとRapidPlanは、産業用ロボットが衝突なく自律的に動作するモーションプランニングを行うことを可能にし、プログラミングにかかる時間の大幅な短縮と作業効率の向上を実現する。ロボットの複雑な動作を手作業でプログラミングする工程は時間のかかるプロセスだが、本技術は、そうした製造業における大きな課題を解決するものである。

同社はすぐに、その画期的な技術にとって日本が重要な市場であり得ることを見抜いた。「日本は労働力不足が深刻なこともあり、ロボットの自動化に非常に力を入れている大きな市場です」と小林氏は説明し、次のように続けた。「加えて、日本は法律や規定で知的財産の保護に非常に力を入れていることもあり、日本のパートナー企業との連携は非常に魅力的でした」

日本市場への参入を決意した背景には、日本が産業用ロボットの利用率においてトップクラスであったこと、東京都と愛知県に日本の初期投資家がいることなど、いくつかの戦略的要因があった。

Realtime Robotics独自のソフトウェアにより、複数のロボットアームが衝突を回避しながら素早く移動する

日本市場進出への道のり

市場の可能性とは裏腹に、日本進出にはいくつかの障壁もあった。その一つが、保守的な日本の企業文化だ。「日本人は一般的に、先駆者になることを望まず、誰かの後についていくことを好みます」と小林氏は指摘する。こうした、すでに実績のあるソリューションを好む文化は、世界初の技術を提供する企業にとってとりわけ大きな壁となった。

日本オフィスの人材確保にも課題があった。新興企業である同社は、安定性や勤続年数に対する懸念を払拭せねばならず、日本人の優秀な人材を確保するのは困難だった。しかしこの課題は、すでに日本に定着し、日本の企業文化に精通したスキルの高い外国人社員を採用するという斬新な解決方法につながった。

日本の企業文化に精通したグローバルな人材の獲得

充実したサポート体制で初期の障壁をクリア

このような初期の課題を克服するため、同社は多方面から支援を受けた。なかでもジェトロは重要な役割を果たし、事務所設立以前から支援を行った。この支援には、会社登記や必要書類の作成、そして最終的には、資金力と事業の信頼性を高めるための助成金事業に関するものも含まれた。

同社に投資する既存の日本の投資家たちも、特に人間関係の構築や人材採用において、非常に重要な役割を果たした。「東京オフィスの新メンバーを採用するにあたり、日本の投資家たちから素晴らしいサポートを得ることができました」と小林氏は語る。

日本を代表する有力企業とのパートナーシップについて熱く語る小林氏

戦略的パートナーシップによる事業拡大

2021年に日本オフィスを設立して以来、Realtime Roboticsは日本を代表するロボット製造企業との一連の戦略的パートナーシップを通じて、目覚ましい成功を遂げてきた。この成功の基盤となったのは、2019年5月に始まった三菱電機との良好な関係だ。2024年頭に発表された重要なシリーズB投資によって、二社の関係はさらに進展した。 三菱電機との提携は、技術とビジネス戦略の包括的な統合を意味している。この提携は、三菱電機の3Dシミュレーターとファクトリーオートメーションシステムに、Realtime Roboticsの衝突回避モーションプランニング技術を組み込むことに主眼を置いている。この統合により、製造工程の仮想レプリカであるデジタルツインの作成が可能になり、効率性と生産性を最適化できる。将来的には、様々なファクトリーオートメーション制御システム機器に、Realtime Roboticsの技術を直接組み込むことも計画している。

また、Realtime Roboticsと川崎重工業との提携は、特に自動車分野で重要な役割を果たしている。この提携により、RapidPlanソフトウェアと川崎重工業のKRNXオープンプログラミングプラットフォームが統合され、複雑なロボットアプリケーションのリアルタイムでの制御と実行が可能になった。「Automate 2022」では、川崎重工業のBX100Nロボット2台による実演で自動車ドアのスポット溶接をシミュレートし、再プログラミングや手作業による検証なしに、ロボットの動作を変更できるシステムが紹介された。

こうしたパートナーシップの成果は非常に大きいものだ。例えば自動車製造では、この技術により、大手メーカーのロボットプログラミングにかかる時間を最大70%削減することに成功した。衝突回避モーションパスを自動生成するシステムの能力により、時間のかかるロボットの動きの物理的検証は事実上不要となり、作業セルのフットプリントの最適化、電力消費の削減、メンテナンス費用の削減にもつながった。

またFANUCや安川電機のような業界の主要企業との提携により、Realtime Roboticsのソリューションがさまざまなプラットフォームやメーカーに幅広く適用できることが確認された。同社の技術は、ミュンヘンで開催された「Automatica 2023」を含む主要な産業イベントで展示され、インタラクティブな実演により、物流、製造、そして布製品取り扱いなどの特殊な用途におけるソフトウェアの能力が注目された。

これらのパートナーシップを後押しした大きな要素は、東京にロボットショーケースを開設したことだ。さまざまなメーカーのロボットを展示したこのデモンストレーション施設は、潜在的な顧客やパートナーにこの技術の能力を直接理解してもらう上で極めて重要であることが分かった。「入社した当初は、映像によるプレゼンテーションしかありませんでした」と小林氏は振り返る。「ショーケースを設置し、さまざまなOEMメーカーのロボットを集めてから、状況は大きく変わりました。ホンダやトヨタのようなエンドユーザーの方をお迎えするのですが、デモをご覧になるたびに、彼らの表情が変わるんです。新しい活用事例を促すとても良い機会となっています」

このショーケースでは、限られたスペースで複数のロボットを同時に稼働させなければならない組み立てやスポット溶接において、この技術が有効であることを実証している。「スポット溶接は私たちにとって最重要事項です。ホンダやトヨタのような多くの自動車メーカーは、非常に狭い場所で大型のロボットを使っており、手作業で処理を完結させるために多くの課題に直面しています。当社の技術は、そのような手作業を自動的に省くことができるのです」と小林氏は説明する。

限られたスペース内で複数のロボットが同時に稼働する様子を示したショーケースモデル

ロボティクスの展望とその先の未来

Realtime Roboticsは日本での今後のさらなる事業拡大にも意欲的だ。同社の当面の焦点は自動車分野、特にスポット溶接や部品組み立てなどの用途に置かれているが、長期的なビジョンはより大きなものであり、ロボット分野のプラットフォームプロバイダーとなることを目指している。

「私たちはロボット分野におけるグーグルのような存在になる必要があります。ロボット工学のみならず、自律移動ロボット(AMR)やヒューマノイド型ロボットなど、あらゆるものを制御するプラットフォームのようなものです」と小林氏は語る。このビジョンでは、従来の産業用ロボットだけでなく、さまざまな種類の自動化システムを網羅し、オートメーションの未来に向けた統合制御プラットフォームを構築することも視野に入れている。

新規参入者へのメッセージ

「日本に来た当初は、本当に多くの困難に直面しました。例えば、会社を正式に登記する方法がわからず、提出すべき書類や情報についても何も知りませんでした」と小林氏は振り返る。こうした経験からは、最初から適切な支援や手引きを得ることの重要性がよくわかる。

しかし、いくつかの困難はあるものの、今の日本市場にはチャンスがあると小林氏は強調し、特にオートメーション技術を活用して喫緊の労働力不足に対処することに関して、こう続ける。「日本は今、課題を解決するためのあらゆるイノベーションに対して非常に前向きです」

Realtime Roboticsの歩みが示すように、成功の鍵は多面的なアプローチにある。すなわち、ジェトロのような支援組織を活用すること、高度な技能を持つグローバル人材を採用するなど、革新的な雇用戦略を取り入れること、ビジネス関係を構築する上で現実空間でのデモンストレーションが重要な役割を果たすと認識することなどだ。日本市場への参入は当初はハードルが高いかもしれないが、同社の経験は、産業界の真のニーズに対応するために革新的なソリューションを提供することで、相当な利益を得られる可能性があることを示している。

市場の特性を理解するために時間と労力を惜しまない企業にとって は、日本は単なるビジネスチャンスというだけでなく、世界で最も先進的な産業経済大国の一つにおいて重要な課題解決の一翼を担う機会でもある。Realtime Roboticsの成功が示すように、適切なアプローチとサポートがあれば、海外企業は日本市場への参入を成功させるだけでなく、発展し、拡大しながら、世界的なプレゼンスを高めつつ、日本の産業進展に寄与することが可能だ。

リアルタイムロボティクス社

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