サクセスストーリー

MiRXES Japan株式会社

早期診断や精密医療のための採血による生体検査製品や、新型コロナウィルス感染症のPCR検査などのライフサイエンス製品やサービスを提供するシンガポールのMiRXESは、日本での販路拡大などのため、2020年1月に日本にMiRXES Japan株式会社を設立した。日本法人の代表取締役のユン リフン博士に日本市場への参入や日本でのビジネス展開、今後の展望について聞いた。

設立年月
2020/01
進出先
東京都

  • バイオテクノロジー/ライフサイエンス
  • シンガポール

掲載年月 : 2021/03

胃がん診断検査キットやPCR検査キットなどを製造

MiRXESは、早期診断や精密医療のための採血による生体検査製品や、新型コロナウィルス感染症(以下、新型コロナ)のPCR検査などのライフサイエンス製品やサービスを提供するシンガポールのバイオテック企業である。同社の設立者となるシンガポール国立大学の研究者は、2010年頃より血液中に含まれるマイクロRNAをバイオマーカーとする、胃がんの診断検査キットの開発を行っていた。マイクロRNAは血液などの体液に含まれる小さなRNAのことで、近年の研究で、がんなどの疾患にともなって患者の血液中でその種類や量が変動することが明らかになっている※。MiRXESが提供する検査キットは、患者の負担が少なく、かつ迅速な診断が可能な検査方法として期待される。同社の技術はシンガポール科学技術研究庁(A*STAR(エースター))に高く評価され、A*STARのインキュベーションプログラムに2012年から参加し、シンガポール政府より資金援助などの支援を受けてきた。

同社は2014年にA*STARからスピンオフする形で、「MiRXES Pte Ltd」をシンガポールに設立した。同社は世界で初めてマイクロRNAをバイオマーカーとした胃がん診断検査キットを開発し、医療機関での実用化に成功した。「従来の早期胃がん診断の方法に比べ、マイクロRNAをバイオマーカーとして診断する方が、検査精度が高い」と日本法人代表取締役のユン リフン博士(以下「ユン氏」)は話す。同社は胃がんの他に、乳がんや肺がんの検査キットの開発、研究用試薬や体外診断用医薬品の開発・製造などを手がける。また、2020年には、新型コロナのPCR検査キットである「Fortitude Kit」の量産化に成功した。同製品は、シンガポールの全病院の80%以上で導入されているほか、ニュージーランドや米国、中南米諸国など40ヵ国以上で展開されており、日本でも導入に向けて申請中だという。

同社はシンガポールや中国、米国に研究開発拠点、製造拠点、臨床研究室、事務所などをもっており、日本での販路拡大などのため、2020年1月に東京都千代田区にMiRXES Japan株式会社を設立した。

GastroCLEAR 胃がん検査キット

ID3EAL研究用試薬品

新型コロナPCR検査キット

日本の市場や研究開発能力の高さが魅力

ユン氏は、同社が日本市場へ関心をもった理由として、関連市場規模の大きさと、国内の研究開発能力の高さを挙げる。日本ではがんの患者数や死亡件数が年々増加傾向にある。先進国の中でも特に胃がんの件数が多い国として知られており、早期がん診断の市場規模が大きく、需要も高い。また、日本では胃がんのほかに、同社が検査キットの開発を進める乳がんや肺がんも「主要五大がん」と位置づけられ、早期発見の重要性が謳われており、早期診断技術の需要増加が見込まれる。市場規模や需要のほか、日本は医療機器の導入のための審査基準が高いことでも知られている。日本市場で導入が認められれば、他のアジア諸国での評価が高まることも、日本市場に関心を持ったきっかけであったとユン氏は話す。

がん診断などに関する研究開発能力の高さも日本市場の魅力であったという。日本にはマイクロRNAの研究者が多く、マイクロRNAをバイオマーカーとした胃がんの早期発見の研究が進んでいる。同社が日本に拠点設立する以前から、シンガポール本社の研究者と国立がん研究センターや東京大学医学部付属病院の研究者は共同研究を行っていた。また、日本医療研究開発機構(AMED)がマイクロRNA関連のプロジェクトを主導するなど、政府の関連分野における研究開発への姿勢も、日本市場への関心ならびに拠点設立の後押しとなった。

MiRXES社代表取締役 ユンリーフォン氏


日本に拠点設立、商慣習へ適応しビジネスを展開

同社は拠点設立以前から、国内の代理店をとおして日本市場への販売を行っていたが、販路拡大のため、2020年1月に日本で拠点設立を行った。ユン氏は、拠点設立に踏み切った理由として、日本市場の特徴をあげる。日本はシンガポールと異なり、地域ごとに販売代理店が細分化しているほか、代理店それぞれに対して製品の細かい説明や丁寧なフォローを行う必要があり、物理的な距離なく代理店や顧客と接することが重要だという。また、日本拠点の設立により、より一層日本市場へのコミットメントを示すことができるという点も進出の決め手となった。さらに「ジェトロから支援を受けることができたことも、拠点設立の助けになった」とユン氏は話す。

日本で販路拡大を目指す中で、ユン氏は「本国のシンガポールと商慣習が異なるため、日本の仕組みがわかる人材が日本のビジネス展開では必要になると思う。職場内の役割が細分化され、多重構造である点や医療機器の申請から承認までの手続きに労力がかかる点など、丁寧に対応する必要がある」と振り返る。日本の事業を取りまとめるユン氏は、同社の前に理化学研究所の研究員として日本で研究を行っており、国内関連市場の慣習に関する知見を有していた。また、日本市場でビジネス展開を進めるうえで、同社の製品が日本の研究者からどのように国内の病院や研究所で使用されるのか、どのような開発を同社製品に行うべきかなど、製品の国内市場での適応に関する意見をもらうこともポイントとなる。ユン氏は、「日本はシンガポールと違って、人間ドックや健康診断などがある。そのような市場の潜在的な可能性を知る上で、日本の研究者とのコミュニケーションは必要になる」と語る。前述のとおり、同社のシンガポール本社の研究者は以前から日本のマイクロRNAの研究者などと共同研究を行っていた。日本の研究者と研究を重ねる中で、日本の医療現場における需要などを確認することが、より日本市場に適した製品の開発および提供につながるという。

microRNA 解析サービス

microRNA関連研究用試薬品

研究を行うリサーチチーム

今後も日本のマイクロRNA研究開発の促進に貢献

今後日本での更なるビジネス展開に向けて、胃がん検査キットの販売拡大のほか、乳がんや肺がんの研究開発と製品の実用化を目指す。また、世界で展開するPCR検査キットの日本での販売に向けて、承認審査の手続きを進めている。

同社の革新的なマイクロRNAの技術と国内研究者との共同研究を経た応用は、日本人で症例の多い胃がんなどに対し、従来と比べ簡易的かつ高精度な診断を可能にする。今後も、日本におけるマイクロRNAの研究開発の促進や、日本の健康寿命の延伸への貢献が期待される。

  1. 出典:国立研究開発法人 日本医療研究開発機構「食道がんを早期から検出できる血液中マイクロRNAの組み合わせ診断モデル作成」

同社沿革

2014年

シンガポール科学技術研究庁(A*STAR(エースター))からスピンオフする形で設立

2019年

世界初の「マイクロRNA」を使った早期胃がん診断検査キットとして、シンガポールと中国で販売。

2020年

新型コロナのPCR検査キットである「Fortitude Kit」の量産化に成功。

MiRXES Japan株式会社

設立

2020年1月

事業概要

早期診断や精密医療のための採血による生体検査製品や、新型コロナのPCR検査などのライフサイエンス製品やサービスの提供

親会社

MiRXES Pte Ltd

住所

〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-2-1岸本ビルヂング6F

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