LOOP Japan株式会社
カナダでテレマティクス(注)を搭載したダッシュボードを開発し、電動二輪車・電動自転車のシェアリングサービスを提供するLOOPShare社は2016年9月、東京に日本法人LOOP Japan株式会社を設立した。2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックに向けて増加が見込まれる海外からの観光客向けに、ダッシュボードの多言語化を図り、観光振興への貢献を目指す。同社で最高執行責任者(COO)を務める佐野充氏に日本進出の経緯と事業展開について話を聞いた。
(注)テレマティクス(telematics)とは、自動車などの移動体にインターネット接続が可能な端末を搭載し、さまざまな情報(コンテンツ)を利用できるようにする情報サービス。

LOOP Japan株式会社は電動二輪車、電動アシスト自転車のシェアリングサービスを提供する企業。カナダ・バンクーバーに本社を置くLOOPShare社の日本法人として2016年9月に東京都港区に設立された。親会社のLOOPShare社は、カナダでテレマティクス搭載のダッシュボードを開発し、電動二輪車のシェアリングサービスを展開している。
カナダでは、「LOOP」と車体に書かれた鮮やかなオレンジ色の電動二輪車が50台、街中を走っている。個人の観光客・旅行者向けには簡易移動手段として、また一般の通勤者向けには通勤手段として、シェアリングサービスを提供している。スマートフォンでアプリをダウンロードすれば、リアルタイムで電動二輪車が駐輪された場所やバッテリーの残量が確認できる点が利用者にとっては便利だ。カナダのほか、米国(シリコンバレー)、ドイツ、オランダ、英国、レバノンなどでも展開しており、主に20代から30代の若者らが通勤や外出の際の移動手段として利用している。利用客の増加などにより、2016年度のカナダにおける売り上げは前年度比48%増の61万カナダドル(約5億2,000万円)となった。
オリンピック開催を見据え、日本法人設立
日本進出に際して、佐野氏は「2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、今後日本では海外からの観光客が増加することが見込まれ、ビジネスチャンスとみた」と語る。親会社のアンワール・スッカリー最高経営責任者(CEO)は日本進出の機会を常に探っていたが、タイミングよくジェトロの補助金プログラムに採択されたことが日本法人設立のきっかけとなった。親会社のLOOPShare社は、日本において外国企業が日本企業などと連携して取り組むモノのインターネット(IoT)におけるプロジェクトを支援する、ジェトロの「グローバルイノベーション拠点設立等支援事業」に2016年8月に採択された。
LOOP Japan株式会社は本事業を活用して沖縄県那覇市で電動二輪車のシェアリングサービスの実証実験を行っている。那覇市で行った実証実験により、ダッシュボードとスマートフォンの連携や日本語を始めとする多言語対応、駐輪スペースの確保やゾーンオペレーター(委託先)による電動二輪車のメンテナンスやバッテリーの充電など、うまく稼働することがわかった。駐輪スペースの確保に関しては、大手コンビニとの提携の可能性も見えてきた。

LOOP Japan株式会社の電動二輪車
同社製品の強みは、雪や雨などの悪天候、埃、振動に強く、堅牢性に長けている点にある。冬になると氷点下まで気温が下がるカナダにおいて、屋外で使用することを考慮し、ダッシュボードは天候や埃などに強い設計となっている。また、同社の製品は無線テレマティクスを搭載したダッシュボードがバッテリーと繋がるシステムとなっており、離れた場所からバッテリーの残量なども確認できる。このシステムで特許を取得した。
シェアリングサービスで地域の観光振興に寄与
佐野氏は、無線テレマティクス搭載のダッシュボードを使用することで、電動二輪車から取得するデータを「観光振興に活用したい」と考えている。電動二輪車や電動アシスト自転車をシェアリングすることにより、駐車場スペース、商店、レストランなど地場産業との連携を生み、地場の経済活動全般の発展にも寄与することを目指す。
現在、自治体からの引き合いが約8割を占める。背景には2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、海外からの観光客誘致および観光分野での外国人向けサービス向上の需要が高まっていることが挙げられる。また、同社が使用する「電動二輪車や電動アシスト自転車は二酸化炭素排出が抑えられ、さらにそれをシェアリングする点で環境にも配慮していることが評価されている」と佐野氏は説明する。
同社開発のダッシュボードは現在、日本語に加えて英語、中国語(北京語・広東語)、韓国語の五ヵ国語に対応している。どの国出身のどの年代の方がどこに滞在し、どのようなルートでどのような観光地に出向いたか、利用者情報と走行ルート情報を組み合わせ、ビックデータを集積し、そのデータを分析することができれば、利用客に合わせておすすめの観光コースなどを提示することもできると考える。同社の電動二輪車、電動アシスト自転車のシェアリングサービスが展開すれば、初めて日本を訪れる外国人観光客にとっては、言語に困ることなく気軽な移動手段となり、自治体にとっては今まで海外の観光客から目を向けられることがなかった地方の隠れた名所や観光地、あるいはまだ知られていない秘境などを紹介することができるようにもなる。
今年は神奈川県鎌倉市で電動アシスト自転車によるシェアリングサービスの実証実験を行う予定だ。同社は、生活に身近な分野でIoTサービスの実証事業に取り組み、データ利活用を促進するモデルの構築をする総務省の「IoTサービス創出支援事業に係る委託先候補」に2017年2月に決定している。電動アシスト自転車のシェアリングサービスを展開することで、鎌倉市の観光振興と地域活性化を目指す。
課題もある。それは、実際に売り上げを伸ばしていくために重要な課金システムの運用だ。鎌倉市の実証実験では、中国からの観光客の需要を取り込むため、「アリペイ(Alipay)」や「ウィーチャットペイ(WeChat Pay)」といったモバイル決済サービスを搭載したマルチ決済システムがうまく稼働するか検証していく。
観光地での電動自転車シェアリングを全国へ
鎌倉市では、駐輪場の経営や運営管理を行うアマノマネジメントサービス株式会社と提携し、ゾーンオペレーターとして駐輪スペースの提供や電動自転車のメンテナンスを依頼する予定だ。鎌倉の実証実験で課金や電動自転車のメンテナンスなどがうまくいけば、今後京都市、奈良市などでもシェアリングサービスを拡大していきたいと考えている。鎌倉、京都、奈良の「古都」三市に共通しているのが、道路が狭く、車での移動が困難な一方で大勢の観光客が訪れること。このような特性を持つ観光地での電動アシスト自転車のシェアリングサービス拡大は観光客の利便性を向上させることにつながる。
今後も観光分野でのシェアリングサービスの需要は高まると同社はみている。鎌倉、京都、奈良のほか、四国(徳島・香川・愛媛・高知)は88ヵ所巡礼やうどん屋巡りなどに自転車のシェアリングサービスを活用することに関心を示している。現在、運輸機関や旅行会社、自治体、経済団体や地元企業から成る業界団体、四国ツーリズム創造機構とも話を進めている。

LOOP Japan株式会社
佐野充 最高執行責任者(COO)
ジェトロのサポート
親会社のLOOPShare社は、新規性・付加価値の高い16のプロジェクトが採択されたジェトロの「グローバルイノベーション拠点設立等支援事業」の1件として2016年8月に採択された。日本法人設立に際し、ジェトロは、市場動向などに関する情報提供、対日投資相談ホットラインを通じた国土交通省や総務省、経済産業省などの中央省庁への相談、電動二輪車の日本への輸入規制などの情報提供を行った。
(2017年5月取材)
同社沿革
- 2009年
-
LOOPShare社の前身であるSaturna Green Systems社設立
- 2015年
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米国特許商標庁(PTO)から特許取得
- 2016年7月
-
カナダでSaturna Green Systems社が上場、同時にLOOPShareに社名変更
- 2016年9月
-
LOOP Japan株式会社を東京都に設立
LOOP Japan株式会社
- 設立
-
2016年9月
- 事業概要
-
電動二輪車、電動自転車シェアリングサービス・IoT計器盤
- 親会社
-
LOOPShare Ltd.(カナダ)
- 住所
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〒105-0004 東京都港区新橋2-2-9
- URL
ジェトロの支援
- ジェトロ「グローバルイノベーション拠点設立等支援事業」採択
- 市場動向などに関する情報提供
- 対日投資相談ホットラインを通じた国土交通省や総務省、経済産業省などの中央省庁への相談
- 電動二輪車の日本への輸入規制などの情報提供
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