サクセスストーリー

Johnson & Johnson Innovation

Johnson & Jonson Innovationが武田薬品工業や湘南ヘルスイノベーションパークなどと共催した「『病のない世界』研究インキュベーション事業公募」は、日本国内においてヘルスケア産業の企業主導のプロジェクトとしては初めて、複数社が連携したアーリーシーズの公募型インキュベーション事業となった。Johnson & Jonson Innovationのグローバルでの知見・ネットワークと、武田薬品工業と湘南ヘルスイノベーションパークが持つ日本国内での基盤を掛け合わせた効果的な連携により、日本国内の有望なシーズの発掘と、そのシーズを世界に向けて売り込んでいくためのエコシステム形成を狙う。

Johnson & Johnson Innovation Asia Pacific代表のダン・ワン氏、Asia Pacificディレクターアーリーイノベーションパートナーリング、ジャパンの楠淳氏、湘南アイパークのジェネラルマネジャーの藤本利夫氏に、連携の経緯やインキュベーション事業の結果、日本のヘルスケア産業ついて聞いた。なお、本対談の動画(フルバージョン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますショートバージョン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を参照。

設立年月
1998年(日本での活動開始は2014年)
進出先
東京都

  • バイオテクノロジー/ライフサイエンス
  • 米国

掲載年月 : 2021/08

インキュベーション事業の概要

Johnson & Johnson Innovation(Johnson and Johnson (China) Investment Ltdの一部門)は2020年、Janssen Research & Development, LLC、湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)、武田薬品工業株式会社との共催で、「病のない世界」実現のための研究インキュベーション事業を実施した。同事業は、「健康長寿」「乳幼児アレルギー」「肺がん」「近視」「ニューロサイエンス」の5分野を対象研究領域として、これら分野での消費者向け製品、新規治療法、診断技術、サプリメント、医療機器、デジタルヘルステックの技術やシーズの商品化・事業化を目指すスタートアップ・アカデミア・研究機関・企業を募集した。当初の見込みを上回る79件の粒ぞろいの応募の中から最終採択者として選ばれた5チームは、Johnson & Johnsonグループまたは武田薬品工業との研究契約を締結している。

Q:どういった経緯で今回の連携に至ったのですか?

湘南ヘルスイノベ―ションパーク(以下、湘南アイパーク) 藤本利夫氏(以下、藤本):Johnson & Johnson Innovationと湘南アイパークの持つ問題意識が一致したのが大きなきっかけです。米国や中国ではバイオベンチャーやスタートアップが介在することで、アカデミア発の革新的な技術が産業界に上手く繋がるシステムが出来上がっていますが、日本では革新的な技術に繋がるシーズや質の高い研究はあるものの、それが産業界に上手く繋がっていないのが現状です。化学や細胞治療、遺伝子治療分野などに代表される基礎研究を中心に、日本の研究の質・数は依然として世界のトップレベルにありノーベル賞を輩出するほど進んでいるのに産業化に至っていない研究が多く、研究と産業化の間にギャップが存在します。このままでは日本のみならず世界のイノベーションへの貢献という意味でも、重大な損失になるという問題意識がありました。

湘南ヘルスイノベ―ションパーク 藤本利夫氏

Johnson & Johnson Innovation(以下JJI) 楠淳氏(以下、楠):弊社としてもヘルスケアに関する技術と商品化の間で欠けているピースに対する問題意識がありました。日本には幅広い事業領域において、技術を深く理解した研究者がおり、他者と同じ研究ではなく、新しいものを見つけたいという探求心が他国に比べて高いと感じます。ミーベター(注1)やベストインクラス(注2)といったアプローチで基本的な技術を持ち込んで売れそうなものを作るのではなく、どのような方向に発展するかわからないような無数の研究があり大きな可能性を秘めています。正しいピースを繋げることによってそれらは産業化につながる可能性が高まると信じており、今回の取り組みを実施しました。

  1. (注1)

    既存の医薬品の化学構造を少し修正することにより安全性や有効性などを改良した医薬品あるいは医薬候補品。

  2. (注2)

    標的分子が同じである同一カテゴリーの既存薬の中で、明確な優位性を持つベストな医薬品あるいは医薬候補品。

Asia Pacificディレクターアーリーイノベーションパートナーリングジャパン 楠淳氏

Q:連携にあたって互いに期待していたのはどのような点でしたか?

藤本:日本でそういったエコシテムの形成がまだ途上にある原因の1つ目は、研究者などに対して産業化に向けたガイド(メンタリング、コーチング)を提供する環境がなく、産業化への知見は現状、大企業にしかないことです。JJIにはこれまでの経験の中で蓄積されている産業化に向けたコーチング能力・専門性があり1点目を解決できます。

原因の2つ目は日本のエコシステムに透明性がないことだと考えています。言語の問題に加えて、良いシーズは色々な大学に散在しており、どこに行けば良い研究が集まっているのかわからない状況があります。湘南アイパークは日本のエコシステムを牽引するためにアカデミアやバイオベンチャーへのリーチを広げていることから、その透明性の確保に貢献できると考えました。

JJI ダン・ワン氏(以下、ワン):武田薬品工業は日本を代表するグローバル企業であり、弊社とも価値観が合います。武田薬品の日本の基盤と、弊社がグローバルで築きあげた基盤によるシナジーで、Win-Winの関係を築くことができると考えました。また、日本市場への影響力が大きい武田薬品と連携することで、本事業が国内市場から受け入れられやすくなり、エコシステム構築のハードルが下がることを期待しました。こうした多くの共通点をもつ武田薬品との連携でも、異なる企業・組織間のカルチャーや考え方の違いのすり合わせなどで、着想から実現まで数年はかかりました。

Johnson & Johnson Innovation Asia Pacific代表 ダン・ワン氏

Q:今回のインキュベーション事業の特徴はどのようなところでしょうか?

:まず挙げられるのは、最終選考前に設けられた2~3ヵ月のメンタリング期間です。最終選考前に、武田薬品と弊社の第一線で研究開発を行っているエキスパートが、ファイナリストとなった提案者とがっちりとチームを組んで、粗削りのシーズを大企業目線でブラッシュアップしプロポーザルらしくする過程をアカデミアやスタートアップに実感してもらうことができます。日本は中国・韓国を含むAPAC諸国に比べてこの部分が欠けているという認識があったので、シーズを上手く売り込んで世界に通用する技術に仕上げることができる人材を育成するという観点からも非常に有効ではないかと考えました。

また、こういったインキュベーション事業では通常、成果物の知的財産権は提案者と主催者が半分ずつ所有する形が多いですが、今回は提案者にとっての提案のハードルを下げ、より良い提案を集めるためにも、武田薬品も弊社も知的財産権は所有しないとした点も特徴的です。

藤本:湘南アイパークは80社以上・2,200名ほどが入居する比較的規模の大きなサイエンスコミュニティであり、コミュニティ内の科学者同士の交流や、入居企業と容易に連携することができる点は、提案者にとってメリットが大きかったのではと考えています。

Q:こういった連携が進むようになった背景として、日本企業の外資系企業との連携に対する姿勢の変化なども、以前と比較してみられるでしょうか。

藤本:10年前と比較するとヘルスケア産業は日本で完結することは難しいという共通認識が形成され、多くの企業において積極的に外資の専門性、資金力を活かしつつ、連携して製品化するという認識は高まっていると感じます。米国のエコシステムは米国だけで完結しているのではなく、世界中から優秀な人材、最先端の技術が集まる魅力的な環境を整えることによって形成されています。日本も同じように、日本だけで完結させず、世界中からトップの人材・技術を集めるような環境を作っていく必要があるのです。

:弊社が日本での活動を開始してからの過去6年で、日本企業のマインドセットは変わったと感じます。ヘルスケアの大手外資系企業は、アーリーシーズはインキュベーションやコラボレーションで発掘するという事業構造に変化しつつあります。日本では、アーリーシーズの発掘はまだ自社でやるとう傾向が比較的強いですが、販売面では世界市場をにらんだ上で開発していく必要があるという認識が広がりつつあると感じます。今後、さらに変わっていって欲しいと思います。

Q:インキュベーション事業の結果をどう捉えていらっしゃいますか?

ワン: 79件という予想を上回る数の応募が日本全国からありました。弊社のグローバルの視点からみても、質の高い応募の割合がとても高かったため、ファイナリストの12チーム、最終採択者の5チームを決める作業は非常に困難でした。最終採択者やファイナリストに選ばれなかったチームでも、別途コラボレーションの機会を模索しているチームもあるほどです。

:特にアカデミアは非常に柔軟にメンタリングの過程で弊社からの改善の提案を受け入れる素地がありました。世の中のためになるのであればという寛容性がありました。

藤本:メンタリングは最終採択者のみならず、最終採択には至らなかったファイナリストからも好評でした。自分たちのチームでは考えてなかった視点から大企業の第一線で活躍する研究者が切り込んでくれ、2~3ヵ月のメンタリングは大きな学びだったという声が聞かれました。これまではアカデミアと企業がざっくばらんに意見を交わす場がなく、コミュニケーションを取ろうとしても普段の環境の違いから互いに気を遣うことが多かったように思います。以前からアカデミアと企業の壁を壊して欲しいという強いニーズが湘南アイパークには寄せられていました。今回のインキュベーション事業の副産物として、お互いのニーズをざっくばらんにぶつけあえる場を設けられたことも価値あることだと思っています。

Q:新型コロナウイルス感染拡大による影響はどうでしたか?

藤本:コロナ禍で研究が止まってしまうのではないかと心配しましたが、逆にこのような環境下だからこそイノベーションを推し進めることが大切だという機運が強まったように感じます。日本はデジタル化で後れを取っていましたが、オンラインを積極的に活用できるようになり、頻繁にミーティングを開催できるようになりました。より頻度の高いコミュニケーションが生まれ、より大きな成果に繋がりました。

:オンラインでの関係構築は大変な部分もありましたが、一度、関係を構築できれば、権威ある教授の方であってもオンライン面談でコミュニケーションをとるハードルが下がりました。また、オンラインでピッチを開催する場合、実際の現場で行うピッチとは異なり、原稿を手元に置きながら発表することができ、ピッチに対するハードルも下がったのではないかと。選択肢が増えることによって、チャレンジしてみようという人が増え、自分のアーリーステージの技術を産業化につなげていくカルチャーが根付けば良いなと思っています。

Q:(JJIに対して)今後の日本での展開はどのようなものをお考えですか?

ワン:弊社には、優れたアイディアは、世界中のどこの国の誰からでも輩出されうるという信条があり、病のない世界は自社だけの力では実現し得ないものだと理解しています。オープンイノベーションのモデルで、弊社の知見と研究を活かして、世界中のイノベーターが直面する資金や施設、産業化への知見の不足といった課題に対して貢献していくことが使命と考えており、今後とも製薬、医療機器、コンシューマーヘルス、ビジョンケアの領域で、外部の企業・組織とのあらゆる形式での連携を積極的に模索していきます。今回のようなインキュベーション事業も今後また是非考えていきたいと思っています。

弊社としては元々各国の技術をグローバルに展開していくというポリシーであり、今回の採択者についても、日本市場を先に考えるのではなく、グローバル展開と並行して日本市場を考えていきます。

:ジェトロには過去5年間にわたり、日本の官庁・自治体・企業への紹介や、インキュベーション事業の展開方法など有形無形の支援をいただきました。今後とも様々なフォーマットで探索的な取り組みを行っていくので、是非ご支援をいただければ心強いです。

Johnson & Johnson Innovation(Johnson & Johnson (China) Investment Ltdの一部門):沿革

2014年

日本でJohnson & Johnson Innovationとしての活動を開始

1998年

中国でJohnson & Johnson (China) Investment Ltdが設立

URL

湘南ヘルスイノベーションパーク:沿革

2018年4月

武田薬品工業株式会社が湘南研究所を開放することにより設立

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