Insider Japan株式会社
Insiderは2012年に設立され、本社機能をトルコ・イスタンブールに置く、顧客企業のマーケティング支援のための各種データやサービスを提供するデジタル企業だ。同社の提供するサービスの核となる「グロース・マネジメント・プラットフォーム(GMP)」は、ウェブサイトの訪問者が使用するデバイス(パソコンやスマートフォンなど)や行動・位置情報などのデータとAI・機械学習を活用することで、当該訪問者に合わせたマーケティングを実現し、ウェブサイトの収益を最大化させる施策を提供する。同社はシンガポール航空やサムスン電子をはじめとする800社以上の顧客企業を世界中に抱え、2020年7月にはRiverwood Capitalをリードインベスターとし、Sequoia、Wamda、Endeavor Catalystが参加したシリーズCラウンドで3,200万ドルの資金調達を行うなど、高い注目を集める。既に欧州・アジアを中心に26の事務所を構えており、日本での販路拡大のため、2017年6月にInsider Japan株式会社を東京都に設立した。Insider Japan代表の石坂亮太氏に同社の日本進出および日本市場でのビジネス展開について聞いた。
- 設立年月
- 2017/06
- 進出先
- 東京都
- ICT
- トルコ
掲載年月 : 2021/02
成長性の高い巨大市場を狙った日本進出
創業者のHande Cilingir(ハンデ・チリンギル)氏はInsiderの創業当初から米国や英国のスタートアップに負けたくないという野望を持っており、巨大市場を狙ったグローバル展開を推し進めた。世界の巨大市場である米国、中国、日本の3カ国のうち、同社が最初に関心を持ったのが優れた製品を持つにもかかわらずデジタルマーケティング市場においては他国に追随する立場である日本だった。
同社が市場を開拓し、立ち位置を確立するビジネス展開先として日本が適していると判断し、顧客を持たない段階にも関わらず、日本法人の設立を決めた。
「まずはやってみる」で利用しやすく
日本市場の開拓は容易ではなかったが、試行錯誤を繰り返し、サービス利用開始の障壁の引き下げときめ細やかなサービス展開により、国内ビジネスの拡大を成し遂げてきた。
まず、海外企業のサービスを利用するという障壁を下げるため、同社はGMPや全てのサポートを1カ月無料で提供し、顧客に実際に使用してもらい、効果を体験してもらう。同社のサービスは、顧客企業が自社のウェブサイトにコードを一行追加するだけで簡単に導入できるとともに、Google タグマネージャーの権限を顧客企業の担当部署が持っていれば、すぐに利用を開始できる。日本企業との契約開始は社内稟議を伴うことが多く、新規サービスや商品の導入には障壁が大きいが、これらの工夫を施すことにより、「まずはやってみる」を日本企業に実現してもらい、Insiderのサービスを理解してもらうことがその後の顧客獲得に繋がっている、と石坂氏は語る。
顧客と二人三脚で提供サービス価値を最大化
日本市場でのビジネス拡大において二つ目のカギとなったのは、同社のきめ細やかなサポートだという。東南アジア諸国などの新興国では、顧客が自らGMPの機能の試行をとおして、使い方を発掘していく文化がある。他方日本は、マニュアルに従って決められた通りに使うという概念が根付いている。この特徴は会社の規模が大きくなるほど顕著に現れる。そのためInsiderは、日本の顧客企業にサービス提供をするだけでなく、その企業に寄り添い、最大限活用してもらうことをモットーとした。InsiderはGMPのあらゆる機能を顧客に直接伝え、マーケティング目標の策定や達成に役立ててもらう。また、業界標準では1ヵ月に一度程度の顧客への報告会を同社は二度行うほか、加えて四半期に一度追加のレビューも行う。これは、出来る限り顧客とのタッチポイントを増やし、GMPを最大限活用してもらうための本社の戦略であり、また、こういった「御用聞き」により顧客のニーズを丁寧に聞き出しレビューすることで、顧客と二人三脚で一つのプロジェクトを作れるように、様々な提案を行うためである。
石坂氏はきめ細やかなサポート方針の源流は「人に寄り添い、人に想う」という本社の文化にあるという。研究開発部門を含めた本社の考え方は、同社のサービスだけでなく、製品であるGMPの仕様などにも表れている。石坂氏はこれらの考え方や想いを日本の顧客企業に合った形で提供する中で、同社が文化の「伝道師」としての役割を担っていると話す。ソフトウェアやサービスを日本市場向けに最適化したことが、ビジネス拡大の重要な要因になっている。
日本市場の特徴と今後の展開
日本に進出をしてからの3年で、国内顧客数は徐々に、しかし着実に伸びている。各顧客に丁寧なサービス提供をすることで、1件あたりのコストは他のアジア諸国と比較すると高いものの、各取引の金額は非常に大きく、かつ、一度利用を開始すると長期契約を結ぶことが多いのが日本市場の特徴だ。そのため、日本拠点に対する本社の期待は拠点設立当初よりも更に大きくなっているという。同社は、これまで化粧品や旅行関連商品をはじめ、多様な企業にサービス提供を行ってきた。今後は伝統工芸品などに着目しつつ、大都市圏外でのビジネス拡大を目指す。石坂氏は、デジタルマーケティングに馴染みのない企業が比較的多い地域では、顧客企業との並走型でサービス提供をする同社の特徴が活きると語る。新型コロナウィルスの影響でオンライン消費が活発化する中、同社のサービス浸透により、国内企業のデジタルマーケティングの更なる進展が期待される。
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