サクセスストーリー

GEヘルスケア・ジャパン株式会社

GEヘルスケア・ジャパン株式会社は、高齢化が進む日本の医療市場において、他の研究機関や大学病院、日本企業と連携し、日本の医療課題の解決に向けたビジネスに着手している。同社代表取締役社長 兼 CEOの多田荘一郎氏に、日本の医療市場の魅力や課題、同社の取り組みについて聞いた。

設立年月
1982/04
進出先
東京都

  • バイオテクノロジー/ライフサイエンス
  • 米国米国

掲載年月 : 2018/05

モノ単体の販売から課題解決の枠組み構築へ

米国ゼネラル・エレクトリック(GE)のグループ企業であるGEヘルスケア・ジャパン(以下「GEヘルスケア」)は、CT、MRI、超音波診断装置の開発、製造、販売、サービス、およびバイオテクノロジー関連事業を展開する大手ヘルスケアカンパニー。

日本進出は古く、1982年に、GEと横河電機との合弁会社「横河メディカルシステム」として設立され、2009年に現在の社名に変更した。日野の本社に加え、全国約60ヶ所に営業・サービス拠点を有し、従業員数約2,000名、2017年の売上高は1,391億円と、日本で積極的に事業展開している。

同社の多田代表取締役社長兼CEO(以下「多田氏」)は、「GEは近年、航空機エンジンや発電機など、単体のハードウェアを販売するビジネス業態からソリューションを提供する業態に変わりつつある」と説明。GEグループのビジネスモデルの変革を示唆し、「キーワードの一つは日本でのエコシステム作り。1社で全てを賄うのではなく、目的を共有できる企業や機関と連携し、課題解決の枠組みを構築することを目指す」と語る。すでに具体的な取り組みが始まっており、その一つがデジタルを活用した次世代工場「Brilliant Factory」だ。

日本の工場、病院でIoTの実証実験

GEは、世界450以上ある工場で、自社で構築した産業用IoTオープン・アーキテクチャー・プラットフォーム「Predix」を活用し、センサー等のIoTやデジタル技術を取り入れ、生産性や製品品質等の向上を目指す「モノづくり革命」を行っている。GEヘルスケアの日野工場は、全工場の中から最初の7つのショーケースサイトの1つに選ばれ、同取り組みを世界的にリードしている。

ジェトロは、2016年度に「グローバルイノベ―ション拠点設立等支援事業」を通じ、GEヘルスケアが、「Predix」を日本のセンサー技術と融合させ実施した実証研究を支援した。同事業の中で日野工場では、CT検出器製造プロセスにおいて、生産性改善・向上の機会を見出すため、作業者、製品、設備に関する移動データ取得と可視化のためのアプリケーション開発を行った。

また「Predix」を病院内に展開したのが、「Brilliant Hospital」構想だ。医療機器をネットワークで接続し、収集したビッグデータを「Predix」で分析、医療従事者や経営者に対して、課題の可視化やコンサルティングを通じ、医療業務の最適化や効率化につなげるサービスを提供する。

前述のジェトロ事業を活用し、GEヘルスケアが実証研究を行った病院では、超音波診断装置の位置情報、使用データ、資産データなどを組み合わせた院内資産最適化アルゴリズム及びシステムの開発を行った。多田氏は、「同事業で、村田製作所様やオカベマーキング様と一緒に組めたことで、オペレーション上の効率性の上げ方など、我々の方向性が正しいということがわかった」と感想を述べた。

日本の医療市場の魅力「国民皆保険」

多田氏は、日本の医療市場の魅力を、「国民皆保険という医療保険制度の存在が大きい」と語る。「日本は質の高い新しい医療行為を、国民があまねく受診可能な社会環境が整っている」と言い、国民皆保険の仕組みの維持は挑戦的だが、「市場に魅力を与えている」という。また、「市場規模の大きさとともに、国民と政府の健康への関心の高さも魅力」という。日本には優れた医療教育と高い技能を持つ医療従事者が存在しており、「他国と比較し、新しい技術を市場にすぐに提供できる環境が整っている」と評価する。

日本の課題解決モデルを世界に発信

一方で多田氏は日本の医療の課題の一つは、「健康寿命の延伸」だという。「脳卒中、心不全を中心とした循環器病、認知症の治療費は癌のそれを超え、患者本人に加えご家族の負担も大きい。予後も悪く、生活の質が落ちやすい」と指摘する。その上で、「これらの疾患の患者さんにも幸せな人生を送ってもらえる取り組みを行っていくことが、我々の企業としての使命。日本での課題解決が、最終的に世界の課題解決につながっていく」 と力説する。

さらに多田氏は、「日本は世界に先駆けて、複数の疾患を持った患者さんに最適な診断を行い治療法を選択しなければならない課題に直面する」という。「例えば患者さんが癌と循環器系等の複数疾患を抱える場合、現状日本では、投薬の順番は経験値に頼る、シンプルな意思決定をしている。臓器や疾患別に、診療科が分類されている点は日本の医療の長所だが、患者さんを一人の人間として捉え、その人の体や心が抱える問題を総合的に診るプライマリーケアの重要性が増している」と説明する。そしてプライマリーケアの質の向上には、「モニタリング、センサリング、AIのような技術の活用が不可欠」と強調する。

「課題」の近くで研究開発を俊敏に行う

日本の医療市場は魅力と課題が混在するが、多田氏は「日本が課題先進国だからこそ、従来以上に課題の近くで研究開発を行う必要がある」と説明する。その背景には、同社の「アジリティ(俊敏さ)を追求する」経営手法がある。「過去のGEは、データ分析を行い、企画書を作成し、稟議を行う仕事の進め方だったが、世界のスピードについていけなくなってきた。仮説を立て早い段階で試し、失敗し、軌道修正を図る方法(GEではFastWorksと呼ぶ)に転換した」という。

また多田氏は、課題を解決する技術をもった魅力的な企業が日本に多いことも、日本で研究開発を行う理由として挙げる。「資金面ではシリコンバレー型のエコシステムまでいかないが、『課題と技術の距離の近さ』は、日本が群を抜いている」と指摘する。循環器のドクターが工業用ワイヤーの会社と共同で、カテーテル治療で必要なきめ細やかな動きができるワイヤーを開発した例を挙げ、市場のニーズがあり、それに応える「Capability(高い能力)を持つ企業の近くで研究開発を行うことが重要」と説く。自社開発したポケット型エコー(超音波診断装置)についても、「電源がない中国やインドの過疎地でも利用できるようにローカリゼーションを行い、その後リバースイノベーションで先進国での救急・災害用にさらに耐久性や小型化を追求した際、バッテリーやケーブルの中には日本企業しか生産できないものもあった」と説明し、日本企業の技術力の高さを評した。多田氏は、「日本法人として、世界に展開できるような技術を日本で先行して開発していきたい。しかし、まずは日本のエコシステムでビジネスとして成功させ、サステナビリティを確立することが重要」と語った。

同社代表取締役社長 兼 CEOの多田氏

エコシステム構築を目指す

多田氏は、「自社ですべてを開発するのではなく、他社と組んで、それぞれの強みを活かし、一つのモデルをつくりたい」と言う。組織間の協働について、「1+1が3以上になることに意味がある。多様性を創造性につなげるためには、同じ目的を共有することや、課題意識をもった者同士のぶつかり合いが必要」と言う。GEヘルスケアは関西で、この協働を体現する仕組みの構築に着手した。

GEヘルスケアは、2017年3月に、大阪府吹田市にある国立研究開発法人国立循環器病研究センター(以下「国循」)と、最先端医療技術の開発および次世代病院システムの構築に向けたパートナーシップのための包括協定を締結した。20以上の研究テーマから、「国循と同社の強みを双方に生かせる分野か」、「社会的なニーズ、市場規模があるか」、「臨床的な価値、社会的意義があるか」の3つを軸に研究テーマの絞込みを行っている。

多田氏は国循について、「『循環器』だけでなく『脳』も対象にしている点が、国立の医療機関として世界的にみてもユニーク。脳血管と循環器を一緒に扱う医療機関は珍しい」と説明する。循環器疾患、心不全、脳卒中の罹患者、またその予備軍が多数来院するため、患者を主体とした研究を行い、同疾患の予見や予防につなげることで、医薬品費の削減や、医療従事者の業務低減に繋がることが期待される。

また多田氏は、「吹田市におけるメディカル・ベースト・タウン(健都)構想の実現に貢献したい」という。複数の医療機関が連携し、同一の患者を診察し、早い段階での介入、予見、予防につなげ、医療行為の効率化につなげていく。その実現の過程で、日本のデバイスメーカーや在関西の医療メーカーとの協力、さらには、東大阪の中小企業が有する基礎技術の製品化に向けた連携も視野に入れる。最終的な目標は「医療エコシステムの構築」だ。多田氏は、「課題解決には、ニーズ、技術、利益を享受する人の距離の近さが重要。試行錯誤を繰り返し、軌道修正を図ることが必要なため、3要素が離れていると、お金と時間を分散せざるをえない。3要素の距離の近さが、日系企業との協力・連携を後押しする」と説明する。こうしたエコシステム構築の取り組みを、全国に拡大していきたいという。

「国循とのパートナーシップに加え、2018年以降は、日本のアカデミアとさらに協力し、様々な成果を世界に発信してきたい。世界のスタンダードになるようなものを日本から作っていきたい」と多田氏は力強く語った。

(2017年11月取材)

同社沿革

1892年

米国にてGE(ゼネラル・エレクトリック・カンパニー)設立

1903年

GEが東京に販売事務所を設立

1982年

GEと横河電機の合弁により横河メディカルシステム株式会社設立

1994年

社名をGE横河メディカルシステム株式会社に変更

2009年

社名をGEヘルスケア・ジャパン株式会社に変更

GEヘルスケア・ジャパン株式会社

設立

1982年4月

事業概要

医用画像診断装置の開発・製造・販売、病院情報システム等の医療機器、ネットワークの販売保守、バイオテクノロジー関連機器・試薬の輸入・販売等

親会社

GE(ゼネラル・エレクトリック・カンパニー)

住所

〒191-8503 東京都日野市旭が丘4-7-127

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