地下深くの熱エネルギー利用を可能にするEavorの技術
Eavor(エバー)は、地熱技術を武器に安定供給と低コストを実現する未来のクリーンエネルギーを開発し、世界規模での展開に向けて取り組みを進めるエネルギー会社だ。Eavorの「Eavor-Loop™」地熱技術は、同社が開発した世界初のスケーラブルなベースロード電力ソリューションであり、環境への負荷と設置の容易さを特徴とする。
Eavor Technologiesのバイスプレジデントであり、Eavor Japanの取締役を務めるジェームズ・ヘザリントン氏にインタビューを行い、Eavor-Loop™技術の概要や日本市場進出のきっかけ、さらに、2030年までに地熱発電施設を現在の2倍に増やし、温室効果ガスの排出量を2013年比で46%削減するという目標を達成し、2050年のカーボンニュートラル実現を目指すうえで、日本政府がエネルギー産業の成長に向けて推進していくべき取り組みについても話を伺った。

- 設立年月
- 2020/10
- 進出先
- 東京都・関東
- 環境・エネルギー
-
カナダ
掲載年月 : 2024/04
地球が生み出す熱をグリーンエネルギーの源に
地中深く掘り進めていくと、そこには必ず熱がある。地球の中心部で生成されるこの熱は外に向かって放射され、地球のマントルを構成する岩を加熱する。Eavor Technologiesは革新的なEavor-Loop™技術を活用して、この岩から熱エネルギーを回収しようと試みている。
Eavor-Loop™は、垂直方向に設置された2本のパイプと水平方向に設置された複数のパイプで構成され、地下深くに密閉されたラジエーターのようなシステムを構築する。地下深くの岩の温度は摂氏数百℃にもなり、深くなるほど高温になる。このクローズドシステムに淡水を流し込むと、熱サイフォンの原理で淡水がシステム内を自然に循環して地中の熱を地表に運んでくれるのだ。こうして得た地熱を電気に換えたり、各地域に熱エネルギーを直接供給したりすることが可能になる。

Eavor Japan 株式会社 取締役 ジェームズ・ヘザリントン氏
さらに、熱だけを回収するため、稼働寿命が長く予測可能であることもEavor-Loop™の魅力だ。Eavorはこの技術を「前例のない地熱革命」と位置付ける。ヘザリントン氏は、「成功すれば、日本や欧州をはじめ世界中のエネルギー界に変化をもたらす可能性があります」と話す。

カナダにある実証施設「Eavor-Lite」
日本進出の魅力と課題
Eavorが日本市場進出を決めたきっかけには、いくつかの魅力的な要因があった。まず、日本には大規模かつ安定した電気への需要がある。さらに、固定価格買取制度(再生可能エネルギー技術への投資を加速させることを目的とする制度であり、再生可能エネルギーの発電事業者に長期的な契約を提供する仕組み)によって市場価格の見通しが立てやすくなることも、再生可能エネルギー事業にとってはプラスの要因だ。こうした契約の安定性に加え、強固な法制度が整備されていたこともあり、日本はEavorの事業運営にとって魅力的な環境だったのだ。
「どんなエネルギー事業でも、経済的に実現可能なのか、そして誰が実際にエネルギーを購入するのか、という点が最大の懸念事項です。しかし、日本の場合は市場が十分に確立されているため、とても理解しやすく、見通しも立てやすいのです」とヘザリントン氏は説明する。 Eavorのような企業にとって、日本のエネルギー市場には非常に大きな成長のポテンシャルが秘められていると言える。ヘザリントン氏は、「高いエネルギー需要、政策支援、そして豊かな地熱資源―その可能性は無限大です」と語る。
このように、豊かな地熱資源とエネルギー開発のポテンシャルを秘めているにもかかわらず、驚くことに日本には地熱に関する明確な法律が存在しない。従来の地熱発電が依存している水資源については細かい法律が定められている一方で、純粋な熱資源の利用については法整備が進んでいないのだ。こうした背景から、資源の所有権に関しては多くの不確定要素が残るものの、ヘザリントン氏は「それでも日本は非常に魅力的な市場です」と期待を込める。
中部電力による投資の影響と今後の展望
日本の大手電力会社である中部電力は、Eavorが日本で事業を拡大するうえで中心的な役割を担ってきた。中部電力は、Eavorへの多額の直接投資に加え、ドイツのゲーレッツリートで実施されたEavor初となる商業化事業への投資を通して経済的な支援を提供し、さらにはEavorの取り組みの信頼性向上にも貢献した。「事業推進を大きく後押ししてくれました」とヘザリントン氏は振り返る。「日本の有力な電力会社からの支援は、当社の事業に対する信頼性の構築にもつながります」。中部電力は、今回の海外事業での学びを踏まえて概念実証を実施し、日本での今後の資源開発に生かしていく予定だ。
「中部電力を動かしたのは、当社の技術、チーム、そして将来性の高さでした。これらを組み合わせれば、地熱エネルギー業界に革新的な変化をもたらすことができるでしょう」とヘザリントン氏は語る。

ドイツのゲーレッツリートでの商業化事業
日本での成功に向けて
日本進出の真の成功に向けて、Eavorが乗り越えなければいけない壁はまだある。それは規制の壁である。特に、地熱に関する具体的な法律が定められていないこと、そして資源開発権に関する法的な明確性が欠如していることは大きな課題だ。「日本では、石油やガス、そして鉱物資源にはライセンス契約が存在しますが、地熱には存在しません。地熱は、日本の地熱資源や温泉資源について定めた温泉法で規制されています」とヘザリントン氏は説明する。
さらに、他のどの資源開発事業にも当てはまるように、住民の理解を得ることも大きな課題のひとつだ。ヘザリントン氏は次のように述べる。「地元住民との対話にしっかりと時間をかければ、環境にやさしいグリーンエネルギーの生成はもちろん、雇用創出など地域にとってもさまざまなメリットがあることを説明できます。適切なコミュニケーションが行われれば、理解を得ることはできるはずです。これは私たちの最優先事項です」
最後に、掘削リグや必要な技術を備えた労働力の確保を含め、日本の採掘業界におけるサプライチェーン問題への対応も重要なステップとなる。「人材不足の問題は引き続きありますが、国内の人材にトレーニングを提供したり、海外から人員を取り込んだりすることで、この問題は解決できるでしょう」とヘザリントン氏は言う。「まずは日本でいくつかの事業を始動させることが重要です。その経験やリソースを基盤として、低コストで環境にやさしく、安定供給が可能なグリーンエネルギーを日本へ、そして世界へ届けていくという当社の使命を達成するために事業をさらに前進させていきたいです」
日本は、2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年比で46%削減することを目指し、さらには2050年までにカーボンニュートラルを実現するという長期的な目標を掲げている。こうした背景も影響して日本の再生可能エネルギーセクターは急速な成長を遂げており、地熱発電、陸上および洋上風力発電、太陽光発電、水力発電など、グリーンエネルギーに関連した多くのイノベーションの機会が生まれている。日本は、こうした「グリーン成長戦略」を通して環境への責任と経済成長の効果的な循環を目指しており、グリーンで持続可能な社会の創出に向けて取り組みを進めているところだ。
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