Ctripグループ日本
2014年に東京に日本法人を設立した中国のCtrip(携程旅行網)が2017年、大阪と東京に新たに2法人を設置してCtripグループ日本を構成した。4つの地方支店も立ち上げ、自治体との連携や宿泊施設への支援を通じて、地方の豊かな観光資源の活用にも着手した。今後、日本企業とのビックデータ活用面での連携や日本人人材獲得にも取り組む。Ctripグループ日本代表の蘇 俊達氏に同社ビジネスについて聞いた。

旅のプラットフォームの提供
「旅行前の準備、旅行中のレストラン情報などの提供、そして旅行後のフォロー。我々の強みは、旅行に関する全てのサービスを提供していること」と、Ctripグループ日本の蘇グループ代表は語る。
Ctrip(携程旅行網)は、1999年に中国・上海で設立されたオンライン旅行会社。Ctripのウェブサイトには、航空券やホテルの予約はもとより、VISA、両替、現地施設の入場券購入、お土産を事前に購入して現地で受け取るサービス、おすすめのレストランの紹介や検索ができる「シートリップ・グルメリスト」等、旅行に必要なものすべてがそろっている。
Ctripは、中国人旅行客の日本への観光ニーズに応えるため、2014年に日本法人CTRIP JAPANを東京に設立した。日本でのビジネス拡大に伴い、Ctripは2017年、CTRIP JAPANからホテル事業部を切り離しCtrip International Travel Japanを設立、さらに交通事業部を新たに日本へ進出させCtrip Air Ticketing Japanを設立し、CTRIP JAPANを含む3社で「Ctripグループ日本」を構成した(表参照)。Ctrip International Travel Japanは地方への旅行ニーズへの対応のため地方に4支店を構え、地方でのホテル客室の調達を強化。2014年に5人だった従業員数は、グループ全体で84人に増えた。
表:「Ctripグループ 日本」を構成する3社
企業名 | 本社所在地 | 支店所在地 | 事業内容 | 従業員数 |
---|---|---|---|---|
CTRIP JAPAN | 東京都 | 団体商品や現地体験などの仕入れ販売 | 8人 | |
Ctrip International Travel Japan | 大阪府 | 札幌、東京、 名古屋、福岡、那覇 | ホテルの仕入れ販売 | 69人(うち大阪20人) |
Ctrip Air Ticketing Japan | 東京都 | 航空券の仕入れ販売 | 7人 |
地方の豊かな観光資源を活用
観光先としての日本の魅力について蘇代表は次のように語る。
「日本は中国から距離が近く、観光資源も豊富、加えて、サービスの質が高いためリピーター客も多い。中国では春節などの長期休暇を利用して旅行をする家族が増えている。特に子供達が夏休みとなる7月と8月は、自社の取扱い実績でもピークとなっており、連休を取得し日本に旅行に来る中国人が増えている。日本は、ファミリー向けのテーマパークが多く、食事が同じ米文化で子供も食べやすいのも人気の理由だ。」
同氏はまた、「日本は他国と比べても、地方ごとに特徴がある。地方には伝統的な文化や体験型コンテンツも多く、日本旅行のリピーター客にも未開拓の場所がたくさんある」と地方の魅力を語る。
中国人旅行客からの日本各地での観光ニーズに対応するためにも、「より多くの自治体と連携し、より新しく、より良いサービスを旅行客に提供したい」と蘇氏は地方展開への意欲を示す。
その具体例として、Ctrip International Travel Japanは、2017年に栃木県の宿泊施設や商業施設など向けに説明会を行った。栃木県は世界遺産を抱える日光が旅行先として有名だが、東京から比較的近いこともあり、日帰りの旅行客が多い。旅行客が栃木県に1泊、2泊するには、宿泊に値する日光以外の魅力的な観光資源の情報を提供していく必要がある。
Ctripグループ日本ではすでにウェブサイトで現地の遊園地を紹介し、ホテルとレストラン、土産物店と連携し、割引や免税情報を提供している。旅行客に有益な情報を充実させ、ワンストップで提供するには、自治体や地元の観光関連企業によるコンテンツ提供と協力が不可欠である。さらに、情報拡散のため、中国で利用されるソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)アプリの導入も重要な要素となる。栃木県のアピールにおいては、WeChatとweiboで発信した。
また、中国人旅行客の少ない地方への展開強化も目指している。同グループは2017年、東北へ旅行客を誘致するため日本政府観光局(JNTO)と共同で東北キャンペーンを実施した。「昨年行った東北キャンペーンを今年も行う予定。可能であれば、まだ拠点のない東北エリアもカバーするために、仙台あたりに拠点を設置したい」と蘇氏は語る。
旅行客とホテル双方のサポート
地方では、中国からの旅行客を多く呼び込めたとしても、人材不足や言語などの問題で、旅行客に対応しきれないことがある。Ctripは中国で、1万7,000人規模のコールセンターを設置している。また、Ctrip International Travel Japanでは、中国語対応が困難なホテルなどの施設からの電話での問い合わせに対応している。これにより、地方の施設が安心して同グループと客室販売契約をしやすくなる。
旅行客に対しては、事前決済や現地払いはもちろんのこと、「バーチャルカード(物理的なカードではなく、暗証番号が与えられ、国内、海外のネット上の取引のみで利用できる)により、月末、半月、1週間単位、および、旅程全体の中の一部分の代金を事前に、残りを事後に支払うことができるような決済サービスを提供している。柔軟な決済手段が中国人旅行客獲得には重要であり、地方の企業から理解を得る必要がある。このようにしてCtripは様々な面から日本への旅行客誘致をサポートしている。

日本企業との協業、日本人人材の獲得を目指す
「旅行関連企業はもちろんのこと、ビッグデータの分析技術等を持つ日本企業などとも一緒に連携しながら、海外に発信していきたい。各企業とそれぞれの特長を生かす連携をして、色々なビジネス、新しいビジネスモデルを創っていきたい」と蘇氏は述べる。
同氏によると、訪日中国人旅行客約736万人(2017年)のうち、実に約50%がCtripグループ日本を経由しているという。同グループは、莫大な顧客情報を保有しており、その情報を分析し、旅行客ごとに個別の情報を効果的なタイミングで発信することができる。
現在、各自治体や企業と連携したプロモーションにより、ホテルを予約した旅行客に対しては旅行の3日前に割引メールを、地方への旅行客に対しては1か月前にその地域に関する情報を取り入れたメールを送付している。具体的には、ファーストクラスやビジネスクラスを利用した顧客に対しては富裕層向けの特別な割引情報を配信したり、九州のリピーター顧客には、九州の新しい情報を発信したりしている。
同社が日本で確保したいのは、技術力だけではない。日本でのサービスをより一層充実させるためにも、幅広い業界でCtripの認知度を高め、日本人の社員を増やしていきたい、という。現在、Ctripグループ日本のマネジャークラスは、日本人と中国人の比率が4:6だが、広告や宣伝に力を入れてさらに日本人社員の獲得を目指す。現在は、新卒採用のために、大学と連携したインターンシップに力を入れている。今後は中国本社で行っているような新入社員向けの研修プログラムを日本でも行っていきたいと蘇氏は話す。
スタート間もないTrip.comを世界へ
Ctripは、グローバルブランド強化のために、2017年11月に中国以外でのオンラインサイト名を「Ctrip.com」から「C」を取り、「Trip.com」に変更した。中国では圧倒的なシェアを誇るCtripも、中国人以外の旅行客の取り込みには未だ伸びしろがある。現在中国人以外の旅行客に提供するサービスは、航空券、ホテル、鉄道の予約のみだが、今後は新機能も展開し、日本人客の獲得にも励む予定である。そのために、日本語対応のコールセンターを年内にも東京で設置する予定である。蘇氏は、「日本人旅行客のニーズや問題に、日本語で電話対応できるサービスを日本で実現したい」と、日本へのコールセンター設置に向けて意気込みを語った。また、2017年から、中国ではオフラインの実店舗で商品の紹介や問題解決のソリューションの提供を行っている。例えば、旅行客の荷物の一時預かりなど、オンラインでは実現しきれないサービスの展開を目指す。蘇氏は、「日本でも東京と大阪にオフライン店舗の設置を準備中だ。将来的には、空港や観光地周辺にも設置し、すべてのお客様の疑問やニーズに直接対応できるサービスを提供したい」と述べた。
「Ctrip International Travel Japanも、Trip.comもスタートして間もない。Trip.comを積極的に発信し、グローバル企業としての認知度を高めたい。」

Trip.comのウェブサイト(日本語サイトトップ)
ジェトロのサポート
ジェトロは、2014年のCTRIP JAPAN設立時からサポートを続け、2016年の同社の大阪支店および2017年の株式会社Ctrip International Travel Japanの地方拠点設立の際に、IBSCオフィス賃与およびコンサルテーション支援を提供した。「各拠点設立の際は、不動産見学に現地のジェトロ職員が同行してくれたり、観光関連企業を紹介したりしてくれた。初の地方展開である大阪支店開設時はとても苦労したが、本当に細かいところまでジェトロのサポートがあり、今は日本拠点の中でも大阪支店の業績が一番伸びている」と蘇氏は述べた。

Ctripグループ日本代表 蘇 俊達氏
(2018年7月取材)
同社沿革
- 1999年
-
中国で携程旅行網を設立、サービス開始。同年10月に中国で最大のホテル予約を記録。
- 2003年
-
アメリカNASDAQに上場
- 2014年
-
日本に株式会社CTRIP JAPANを設立
- 2016年
-
大阪支店を開設
- 2017年1月
-
CTRIP JAPANのホテル事業部を切り離して、大阪府にCtrip International Travel Japanを設立
- 2017年6月
-
交通事業部が日本に進出、東京都にCtrip Air Ticketing Japanを設立
- 2017年11月
-
中国以外でのブランド名を「Trip.com」に変更
株式会社Ctrip International Travel Japan
- 設立
-
2017年
- 事業概要
-
インターネットや携帯アプリを通じた各種旅行サービス提供に伴う、ホテルの客室仕入れ・販売
- 親会社
-
Ctrip(携程旅行網)(中国)
- 住所
-
〒542-0085 大阪府大阪市中央区心斎橋筋2-4-9
- URL
株式会社Ctrip Air Ticketing Japan
- 設立
-
2017年
- 事業概要
-
インターネットや携帯アプリを通じた各種旅行サービス提供に伴う、航空券の仕入れ・販売
- 親会社
-
Ctrip(携程旅行網)(中国)
- 住所
-
〒100-8228 東京都千代田区大手町2-6-2
- URL
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