使い捨て文化をサーキュラーエコノミーの機会へ
カナダ発のChopValueは、日本で毎日大量に廃棄される「割り箸」を高品質な家具や建材へ再生する事業を展開しています。東アジア初の製造拠点を川崎に構え、複雑な規制の課題をジェトロや自治体との連携で克服した同社の歩みを詳しく解説。政府のGX戦略とも連動し、日本の文化や地域社会と調和しながら循環型経済を成功させるためのビジネスの要諦に迫ります。
- 設立年月
- 2024/07
- 進出先
- 関東・東京都・神奈川県
- 環境・エネルギー
-
カナダ
掲載年月 : 2026/04
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(インタビューは2026年1月実施)
毎日、数百万本もの使い捨て箸が消費される日本。ChopValueはこの現状を、環境課題であると同時に、大規模な「循環型経済ビジネス」を構築するチャンスと捉えている。
ChopValueは、ドイツ出身の木材エンジニア、フェリックス・ボック博士が2016年にカナダ・バンクーバーで設立した。創業10年足らずで、10カ国で事業を展開するグローバル・サーキュラーエコノミー企業へと成長している。日本法人の設立は2025年。神奈川県川崎市に東アジアで初となる製造拠点を置いた。
廃棄された箸を高性能な家具や建材へと再生する循環型製造企業の同社にとって、日本は「文化」と「人口密度」、そして「高い環境意識」という条件が揃った戦略的市場だ。日本政府は昨年、脱炭素を見据えた中長期の国家戦略グリーントランスフォーメーション(GX)2040ビジョンを決定、新たな需要・市場創出によって「脱炭素と経済成長の両立」を推進する姿勢を明確にしている。サステナビリティ、デザイン、製造イノベーションの分野で進化を続ける同社の成長を重要な局面で支えてきたのが日本貿易振興機構(ジェトロ)だった。
ChopValue Japan代表取締役社長のジェームス・ソバック氏
成長戦略の核に据えた「箸の国」
「日本は常に、ChopValueの成長戦略の視野に入っていました」と語るのは、ChopValue Japan代表取締役社長のジェームス・ソバック氏だ。「言うまでもなく、日本は『箸の国』ですから」。使い捨て箸は東アジア全体で広く使われている。だが、日本が際立っていたのは規模だけでなく、その文化的意味合いだったという。「日本では、生後100日を祝う『お食い初め』の儀式で箸を使い、葬儀の場でも箸が使われます。人生の最初から最後まで、箸が関わっているのです」
文化的背景に加え、日本のコンパクトで人口密度の高い都市構造もChopValueのビジネスモデルに適していた。ソバック氏は「収集から地域内での流通まで、私たちのコンセプトが機能するのは、日本の人口密度があってこそです」と語る。
川崎のマイクロファクトリーで、回収された割り箸の山の前に立つソバック氏
川崎から全国へ
ソバック氏は「将来的には全国展開を目標にしている」と説明する。その挑戦のスタートの地に選んだのが川崎市中原区だ。東京・横浜エリアを広く調査した結果、同区の施設が利用可能となりすぐに応募したという。製造業が盛んな一方で、環境と経済の調和した持続可能なグリーンイノベーションを推進する川崎市。国際協力にも力を入れて、環境関連ビジネスの創出によるサーキュラーエコノミー実現を目指す同市の取り組みと、ChopValueの活動趣旨は一致しており、マイクロファクトリー第1号の地として最適だった。中原区のマイクロファクトリーは、地域から収集した年間最大2,500万本の割り箸を処理し、家具や壁材、建築用途に使われるモジュール型素材へと転換する能力を有する。コンパクトで自己完結型、かつ地域社会に深く根ざすという、ChopValueの構想を体現する施設だ。
ジェトロの支援 成長を後押し
日本進出にあたり、ChopValueが直面した最大の課題は技術面ではなく規制に関すること、特に「使用済み箸を、誰が、どのように回収できるのか」という点だった。
「このビジネスモデルは回収が要ですが、日本では使用済み箸は(自治体による適切な処理が必要とされる)『廃棄物』と見なされています。廃棄物に関する法律は基本的に自治体単位で管理・運用されています」(ソバック氏)。この課題に対応するため、ChopValueはジェトロや川崎市、そして地域パートナーと連携し、実証研究の枠組みの中で箸を「リサイクル可能な資源」として再定義する取り組みを進めた。ソバック氏は「どんなスタートアップでも課題はありますが、それらを乗り越えるために川崎市と築けたパートナーシップは本当に素晴らしいものでした」と振り返る。日本で事業を進めるうえで忍耐が不可欠だとも強調する。「長期戦を覚悟する必要があります。すぐに物事が動くとは限りません。しかし、一度動き始めれば、確実に前に進みます」
ChopValueの日本市場参入においてはジェトロも、連携枠組み、戦略の両面で中心的な役割を果たした。ジェトロは、コクヨや竹中工務店といった大手企業をはじめ「非常に重要な潜在的ビジネスパートナー」(ソバック氏)をChopValueに紹介したほか、法人設立や法令に関する各種支援サービスに繋いだ。
ジェトロが国内外に持つ広範なネットワークも有用だったという。「我々はカナダやシンガポールでもジェトロと協働してきました。ジェトロは世界中に持つ各拠点間で情報を共有してくれるため、迅速に動くことができました」とソバック氏は語る。特に印象に残るのが、奈良県吉野町の8代続く割り箸製造業者との面会だったという。「ジェトロの紹介がなければ、絶対に実現しなかった出会いです。ジェトロのおかげで扉が開かれ、実りある対話ができました」と振り返る。
スケール生むパートナーシップ
日本での最初のパートナーは、地域密着型のコミュニティ団体STORYだった。STORYは川崎市を拠点に、子育て中の母親に雇用機会を提供するなど多様な人材紹介事業を展開する。同団体は地域に築いたネットワークを活かして、ChopValueにスタッフ人材を紹介するだけでなく、行政や協力店舗との調整を支援している。ソバック氏は「STORYとのパートナーシップは非常に大きな意味を持っています。我々のビジネスは『超ローカル』であることが重要だからです」と説明する。
次の成長段階では、大手のB2Bパートナーがスケール拡大を後押ししている。ソバック氏は「コクヨや竹中工務店との協業は極めて重要です。彼らの顧客へアプローチできるからです」と強調する。ChopValueはこうした企業との協業によって、オフィスやホテル、建設プロジェクトに家具などを提供。象徴的な環境対策ではなく、実用性と機能を兼ね備えたサステナビリティ施策を求める企業の需要に応えている。
ChopValue製の会議机。2025年大阪・関西万博のカナダ館で採用された
日本市場からの反応は、期待を大きく上回る「本当に素晴らしいもの」(ソバック氏)だという。2025年大阪・関西万博のカナダ館には、100万本超の再生箸を用いた家具や壁材が採用された。「サステナブルの素材であることは間違いありませんが、最も重要なことは性能です。耐久性や品質、そこに込められた職人技が鍵なのです」。人気の要因について、ソバック氏はそう分析する。
体感できるサステナビリティ
2025年4月の稼働開始以来、川崎のマイクロファクトリーでは既に1万キロ以上の素材がリサイクルされた。しかし、ChopValueにとってインパクトは単なる数量では測れない。
ソバック氏は「サステナビリティを、一人ひとりが実感できる具体的な形で届けることが大切なのです」という。工場見学に訪れる地域の小学生たちへのサステナビリティ教育も、今では同社の重要な使命と位置づけている。ソバック氏は「工場を訪れた子どもたちは、割り箸が家具になるまでの工程を実際に見ることができます。文字通り、サステナビリティを『手に取って』感じているのです」。リサイクルの分量と同様に重要なインパクトだ。
日本の市場規模は、大きな好機であると同時に課題でもある。関東圏だけでも、1日に2,700万本の箸が廃棄されている現実がある。
「一つのマイクロファクトリーで、日本全体の箸の量を処理することはできません」。ソバック氏は今後5年間で、日本全国に最大100カ所のマイクロファクトリーを設立する構想を描いている。地域密着型ビジネスの難しさは、場所ごとに条件が異なる点だが、ソバック氏は「川崎市で構築したモデルを、次の地域でどう展開できるかが鍵になります」と意気込む。
日本進出を目指す外国企業に対するソバック氏のアドバイスは、明快で現実的だ。 「優れた製品を持っているだけでは、成功できるとは限りません。しかし、良好な人間関係があれば、成功への扉は必ず開きます」
強固なパートナーシップと粘り強い実行力、そしてジェトロの継続的な支援のもと、ChopValueが辿った日本での歩みは、外国企業が日本の規制・文化・環境意識と調和しながら、地域課題をスケーラブルなビジネス機会へと転換できることを示す好例になっている。
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