海外のスタートアップと日本の大手企業の協業事例加速する日本のオープンイノベーションの現場
富士通×Quantstamp
2019年6月

富士通株式会社 グローバルマーケティング本部 ビジネス開発統括部 安西潔 氏(写真左)、Quantstamp Inc, リージョナルマネージャー 小田啓 氏(写真右)
これまで日本の大手企業というと、「保守的」で「クローズド」なイメージをもつ人は多いかもしれない。
しかし、ここ数年で大きな変化が見られる。日本企業が従来のような内部だけでの事業立ち上げや開発に限界を感じ始め、スタートアップとの協業や投資などを積極的に進め始めている。
日本で加速するスタートアップと大手企業のコラボレーション。多くは日本の大手企業と日本のスタートアップだが、海外スタートアップとの協業も増えてきている。
早くからスタートアップと積極的に事業開発に取り組み、独自のプログラム『富士通アクセラレータプログラム』を実施している富士通株式会社と、昨年日本に進出したシリコンバレー発のスタートアップQuantstampにクロスボーダーでの協業について聞いた。
まずは会社概要を教えてください。
- Quantstamp Inc. 小田氏(以下、小田)
- Quantstampはサンフランシスコ、トロントおよび日本に拠点を置く、ブロックチェーンのセキュリティ会社です。特に注力しているのがスマートコントラクト(※1)のセキュリティです。スマートコントラクトは人間が作ったソフトウェアプログラムなので、人為的なミスやバグなどの脆弱性が入ることもあり、その脆弱性を利用した大型ハック事件も過去に起きています。私たちはそのような事件を防ぐためにコード監査やコードレビューを行なっています。
- 富士通株式会社 安西氏(以下、安西)
-
富士通は83年の歴史を持ち、2017年度は売上高ベースで世界第7位、日本では第1位のITサービスベンダーとなっております。そして、4兆円を超える売り上げの半分以上はシステムインテグレーションから来ています。ただ、一方でこのシステムインテグレーションを中心としたビジネスがこのままでいいかというと、絶対そんなことはありません。
そんな中、様々なテックイベントに出て起業家の方々と会ううちに、世の中を変え、しかも最先端を走っている方々がスタートアップに多いと感じました。そこでスタートアップと我々のような大企業がコラボするのは双方にメリットがあると考え、彼らを支援し、共に事業を生み出す『富士通アクセラレータプログラム』を4年前の2015年から開催しております。
2社が出会うきっかけはなんでしたか?
- 小田:
-
富士通様とはPlug and Play Japan(※2)のプログラムでお会いしたのが初めてで、その後、富士通アクセラレータに採択されました。
進出当時の2018年の1月、日本は仮想通貨だけでなくブロックチェーン(※3)に対してとても前向きで、弊社としてもアジアの拠点を日本に置くメリットがありました。
進出直後と状況は変わったものの、大手企業は引き続きブロックチェーンに対して積極的でProof of Concept(概念実証。以下、POC)も活発に行われています。ですから、本国のアメリカではブロックチェーン事業を主軸とした企業と接することが多いですが、日本ではシステム開発会社や金融機関などの大手企業の方々と接することができます。

- 安西:
- Plug and Playには、アメリカでも日本でもスポンサーとして参画しており、その東京のプログラムで出会ったのが最初です。また、Hyperledger(※4)のコンソーシアムに富士通がプレミアメンバーとして参加しており、そのミートアップでQuantstampのCEOともお会いすることができました。また、ブロックチェーンに関心のある企業が集まる場である、渋谷のNeutrino(※5)というブロックチェーン特化のコワーキングオフィスにQuantstamp様が入居されてもいたので、顔を合わせることが多かったです。
- 小田:
-
日本のブロックチェーンコミュニティは拡大中ですが、まだ大きくはないので必然的に富士通様に出会うことが多くなります。
また、日本に来て知ったのは、比較的オープンで透明性があると言われる分散型アプリケーションプラットフォームのイーサリアムでも、大手企業にとっては少し導入のハードルが高いということでした。そこでほとんどの大手企業はPOCが行いやすいHyperledgerのコンソーシアムに入っています。我々もイーサリアムだけでなくもっと多様なプラットフォームに対応すべきというときに、Hyperledgerで一番活躍されている富士通様がシナジーとしてもストラテジックパートナーとしてもありがたく、心強い存在でした。
それだけでなく、様々な企業の方にお会いしましたが、ソフトウェア事業を中心にされている富士通様が最も相性がよかったですね。

協業に至るまでのプロセスやうまくいった理由を教えてください
- 安西:
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富士通アクセラレータプログラムは年に1~2度行われます。まずは弊社が出す事業テーマに対し、スタートアップ各社が応募し、書類選考を通過した場合、ピッチコンテストに参加します。
ピッチコンテストでは弊社の各事業部に協業検討したいかどうか確認します。あるスタートアップに対し1事業部でも協業検討したいという意見があれば、個別面談に進み協業を目指したプログラムが始まります。この事業部の決裁者を巻き込み、彼らの意思を重視するところが特徴です。
Quantstamp様には2018年に行われた第6期にご参加いただきましたが、その先進性ゆえに肝となるサービスがまだない状態なので事業部目線でいうと時期尚早でした。
一方で、将来を見越してQuantstamp様と組む重要性は感じていたので、どうサポートできるかを中心に思考錯誤し、まずはプログラム事務局のメンバーがQuantstamp様の営業となり顧客を紹介するなどのサポートを3ヶ月のプログラム中に行いました。
また、Quantstamp様がSmart Contract Security Allianceというグローバル規模のコンサーシアムを2019年3月に立ち上げられたので、富士通も設立当初から参画し、セキュリティの定義を一緒に作っていくという活動もしております。 - 小田:
-
今ブロックチェーンの一番の課題としては、セキュリティの定義がないことです。ですから、「何が安全で何が安全でないのか」という業界スタンダードがない。Smart Contract Security Allianceではそれをグループとして議論し、グループとしてアナウンスする。日本にはブロックチェーンのリーダーシップをとってもらいたいという気持ちもあるので、そこに富士通様が入っていただくことはありがたいです。
富士通様には本社にもお越しいただきCTOと話していただきました。あまり日本企業の方がアメリカの本社まで起こしいただくケースはないので、そのフットワークの軽さも心強かったです。
日本企業と海外企業の違いはありますか?
- 安西:
-
日本国内にも有望なスタートアップもいますが、グローバルに見た方が量的にも質的にもいいので、海外のスタートアップにも積極的にアプローチしていかなければいけません。
また我々の事業部門は多くが日本に在籍して、スタートアップとそれら事業部のマッチングを行っていますが、本当に最先端の分野では、事業部すらない領域や既存事業の延長上にないサービスを作っている会社と組まないといけないと考えており、Quantstamp様はその最たる例です。 - 小田:
-
日本と海外の大きな違いでは「日本ではリレーションシップが大事」という点です。
日本の場合は信頼を築くのに時間がかかりますが、一回パートナーと認められると、ずっと仲間として見てくれたり、支援もいただいたりします。そこが日本企業と組む大きなメリットです。
海外だと必要な時は2回目のミーティングで合意にいたり1カ月後には全て終わり、継続プロジェクトがないと「さようなら」というスピードで、お付き合いがトランザクションベースのこともあります。それもアプローチの方法なのでいいとは思いますが、長期戦略で日本市場を見ているので、上下関係をフラットに見てくれるのは物凄く頼もしいです。
そのためにも弊社の代表も過去1年で6回来日しています。そのコミットメントを見せるというのは日本進出を目指す海外のスタートアップにとって大事だと思います。
この「トランザクションベース」と「リレーションベース」は大きな違いでしたね。
今後、2社でどういった未来を目指したいですか
- 小田:
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かつて25年前には、インターネットが誰もが革命的だと知りつつも、画像1枚ダウンロードするのに10分かかるなど実用的ではありませんでした。ブロックチェーンは現在同じような状況で、更にブロックチェーン=仮想通貨というイメージが強いです。しかし、25年もかからず近い将来様々な業界に適用されるでしょう。
そのため、私たちは「ブロックチェーン...」と一歩距離が置かれる現状をなるべく早く解消し、一つのセキュリティ会社、インフラ会社として認められることを任務としています。そこで富士通様のような基盤を作ってきた会社と共に歩むことで、その目標により早く近づけると考えています。
日本ではスタートアップの活動も活発になっていますが、大手企業の中には将来的な買収を念頭に置くなど、スタートアップを対等に捉えない一方的な考えを持つ企業も多いのが実情です。富士通様はアクセラレータプログラムも早くから進めており、パートナーとして一緒に生み出していこうというスタンスを非常に感じます。

- 安西:
- ブロックチェーン自体がまだPOC中心で、実ビジネスに使える段階に徐々に移行し始めているという状況です。スマートコントラクトにより企業が自動で取引を執行できると、今までのICTサービスなどで仲介者が不要となり、今までの商取引の仕方が大きく変わるでしょう。そのタイミングで、それを支える新たなセキュリティや監査に関わるテクノロジーやサービスが必ず必要になってくるので、その点に早くから目をつけてQuantstam様と共にノウハウを蓄積し新サービスを提供していきたいですね。
日本のスタートアップエコシステムは、今後どうなっていくと思いますか
- 安西:
-
大手企業とスタートアップがコラボするプログラムは東京を中心に急激に拡大しており、CVCの活動も活発になっています。まだ欧米や中国と比べると開きはありますが、日本企業がプールしている資金などのリソースを自社だけでなく有望なスタートアップに振り分け、協業プログラムと両輪で動かしていくよう我々も動いていますし、全体的にそうなっていくと思います。
大手企業側でも、「従来の自分たちのやり方が通用しない」と意識する人が多くなってきており、日本のスタートアップエコシステムも活発に育っているので、さらにコラボの動きは積極的になっていくでしょうね。 - 小田:
-
日本のスタートアップが海外に出る例はまだまだ少ないですが、東南アジアに進出するなどの動きは徐々に増えていますね。アジアだけでなく欧米に飛び込むスタートアップもより増えればと思います。
逆に海外のスタートアップにとっては、日本への進出時の手続きは大変ですが、そこはJETROなどの支援があると聞いています。自分は知らずに自力で行い、時間を費やしてしまいましたが...
海外で成功したビジネスモデルと似たようなことを日本のビジネスマンが取り入れ成功している事例はたくさんあります。ローカライズは必要ですが、日本はとても魅力的な市場です。
ただ、大手企業も日本特有の終身雇用もなくなってきており、自分の事業をやってみようというチャレンジ精神は増えてきている気がします。日本進出の手続きなどは大変でしたが、優秀な人にも多く出会え、いまはとても充実しています。
(取材日:2019年3月15日)
富士通株式会社
- 設立年
-
1935年
- 事業内容
-
ICT分野において、各種サービスを提供するとともに、これらを支える最先端、高性能かつ高品質のプロダクトおよび電子デバイスの開発、製造、販売から保守運用までを総合的に提供する、トータルソリューションビジネス。
- 従業員数
-
連結 140,365名(2018年5月31日現在)
- 海外事務所
-
ワシントン、ニューヨーク、ロンドン、ハワイ、コロンビア等
- URL
富士通アクセラレータプログラム
アクセラレータプログラムは、革新的なスタートアップの技術・製品と、富士通グループのICT製品・ソリューション・サービスを組合せることで、世の中へ新たな価値を提供することを目的としたプログラム。事業部門とのマッチングが成立したものは2018年の第6期までに100件、協業実績63件となっている。
Quantstamp, Inc.
- 設立年
-
2017年
- 事業内容
-
クォントスタンプはクォントスタンププロトコールや自動セキュリティツールを独自開発し、監査を行い、スマートコントラクトを担保するサービスを提供しています。クォントスタンププロトコールは公開閲覧可能なスキャンレポートの作成を通じて、スマートコントラクトのセキュリティやスマートコントラクトを作成するプロジェクトの信憑性を高めることを目的としています。
- 従業員数
-
35名
- 拠点
-
サンフランシスコ、トロント、東京
- URL
注釈
- ※1 :
- スマートコントラクト ― 契約(取引行動全般)をプログラム化し、契約条件が満たされると第三者を介さずに自動的に取引を履行する仕組み
- ※2 :
-
Plug and Play Japan
― 世界最大のアクセラレーター/VCであるPlug and Playの日本支社
- ※3 :
- ブロックチェーン ― 取引データをネットワーク上で分散して管理・共有する技術。データ改ざんやシステムダウンに対する耐性が強い。
- ※4 :
-
Hyperledger
― オープンソースのブロックチェーン技術推進コミュニティ
- ※5 :
-
Neutrino
― アジアでオンラインペイメントシステムを提供するOmiseと日本のVCのGlobal Brainが共同で立ち上げたブロックチェーン領域に特化したコワーキングスペース。現在、東京、シンガポール、上海、北京に拠点がある。
- ※6 :
-
Smart Contract Security Alliance
― スマートコントラクトのセキュリティの標準化およびガイドラインを推奨するグローバルな業界連携組織
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