ユーロ圏17ヵ国が新「財政協定」締結で合意−英国を除く非ユーロ圏諸国も参加へ−

(ユーロ圏、EU)

ブリュッセル発

2011年12月12日

ユーロ圏17ヵ国は12月8〜9日の欧州理事会で、財政規律を強化する財政協定を政府間協定により締結することで合意した。非ユーロ圏10ヵ国のうち、英国を除く9ヵ国も同協定に参加する見通し。「財政・安定連合」に向けた中期的な措置を進める一方、短期的には、IMFへの追加融資による緊急時の救済枠拡大や欧州安定化メカニズム(ESM)の1年前倒し設立など、今できることを総動員する決定を行った。

<構造的財政赤字、名目GDP比の0.5%まで容認>
ユーロ圏17ヵ国および英国、ハンガリー、チェコ、スウェーデンを除く非ユーロ圏6ヵ国は12月8〜9日の欧州理事会で、欧州債務危機を乗り越えるため、財政規律を強化する財政協定を政府間協定により締結することで合意(PDF)した。チェコ、スウェーデン、ハンガリーも各国会での審議を踏まえて同協定に参加するとみられる。

財政協定の主な内容は、次のとおり。

○財政収支の均衡を目指す。ただし、構造的財政赤字として、名目GDP比で0.5%までは容認する。
○前記規則は各国の憲法、あるいはそれに相当する法制に盛り込む。規則を逸脱するような場合には、自動的に是正するようなメカニズムを組み込む。これは欧州委員会が提案する原則を基に加盟各国で定める。国内法化の検証についてEU司法裁判所の管轄権を認める。
○過剰赤字手続き中の加盟国は、過剰赤字を効果的に、持続して是正するために必要な構造改革を詳説した経済連携プログラムを欧州委とEU閣僚理事会に提出する。
○加盟国の国債発行計画を事前に報告するメカニズムを導入する。

なお、非ユーロ圏で財政協定に参加の意思を示したブルガリア、デンマーク、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ルーマニアの6ヵ国はユーロ・プラス協定に参加する国でもある(2011年3月28日記事参照)。チェコとスウェーデンの2ヵ国は結論を出す前に国会で審議する必要があるとしている。ハンガリーは当初、参加を見送る意向を示したもようだが、ファンロンパウ常任議長の記者会見での説明(PDF)から推測するに、国会での審議を踏まえて参加する意向に転じたとみられる。

記者会見に臨む議長国のトゥスク・ポーランド首相(左)、ファンロンパウ欧州理事会常任議長(中)、バローゾ欧州委員会委員長(右)

また、ユーロ圏17ヵ国首脳は、欧州理事会が10月4日に欧州議会と合意したEUの経済ガバナンス強化に関する6つの法案(2011年10月6日記事参照)のうちの、過剰赤字手続き実施の迅速化、明確化に関する理事会規則が、ユーロ圏を強化することを確認した。

さらに、ユーロ圏17ヵ国首脳は、欧州委が11月23日に提案したユーロ圏諸国の予算策定の監視強化に関する規則案(PDF)債務危機国への監視強化に関する規則案(PDF)について(2011年11月29日記事参照)、次年度の予算サイクルに発効を間に合わせるために、検討を急ぐよう理事会と欧州議会に要請した。

また、ユーロ圏の機能円滑化に不可欠な問題については、9ヵ国以上の加盟国での制度の先行導入が可能な「強化された協力」を積極的に活用していくとした。

長期的には、財政統合をさらに深化させていく作業を続けて行くとし、欧州理事会常任議長が欧州委委員長とユーログループ議長と協力しながら、財政統合深化のための報告書を12年3月に発表するよう求めた。この報告書はEUとユーロ圏との関係についても報告する予定。

<IMFへの追加拠出とESM設立でEFSFの融資能力を補充>
また、10月の欧州理事会で先送りとなった欧州金融安定化ファシリティー(EFSF)の機能拡充については、11月29日の合意で、a.国債の部分保証導入と、b.共同投資基金(CIF)設立という2つの措置が用意され、これを迅速に進めていくことを確認した。しかし、この2つの措置では、将来的な危機に対して融資できる資金が十分でないため、短期的な措置として、IMFの支援を仰ぐため、2,000億ユーロを追加拠出する方針を決めた。

さらに、13年半ばに予定していたESMの設立を1年前倒しして、12年7月からの稼働を目指す。13年半ばまではEFSFを存続させ、併用する。加えて、EFSFとESMの融資能力5,000億ユーロの妥当性について12年3月に評価する。

欧州中央銀行(ECB)の役割については、EFSFの市場での運用について、ECBが代理として活動する用意があることを歓迎するとしている。

なお、民間部門の関与については方針を転換し、IMFの原則とプラクティスを厳格に適用することにした。そのため、ギリシャの債務に関する7月21日と10月26〜27日の決定は、唯一の例外とした。

加えて、ESM執行手続きに緊急手続きを導入する。欧州委とECBがユーロ圏の財政・経済の持続性が脅かされていると判断し、金融支援に関する緊急決定を行った場合には、85%の特定多数決で融資を行えるようにする。

以上のように、EFSF、ESM、IMFの3本柱で、危機対応能力を大幅に高める。

<リスボン条約改正は断念、独仏に失望感>
12月9日の欧州理事会(EU首脳会議)終了後の記者会見で、ファンロンパウ欧州理事会常任議長が「ほぼ27ヵ国に近い26ヵ国の首脳が、この努力に参加することに賛成している」とした新しい財政協定は、主導したドイツとフランスにとって、不本意な結果だったといえる。欧州債務危機を乗り切るための短・中期的な措置として、EU27ヵ国で合意できず、決裂を避けたための次善策だったからだ。

財政協定はEU27ヵ国の合意により、EUの基本条約であるリスボン条約を改正し、同条約に盛り込むことを目指していた。しかし、フランスのサルコジ大統領の記者会見での発言によれば、英国が金融規制からのロンドン・シティーの除外を求めたため、EU27ヵ国での合意を断念したという。そのため、欧州理事会の総括ではなく、ユーロ圏首脳による声明(PDF)で、ユーロ圏17ヵ国に、非ユーロ圏で参加を表明する諸国が加わるかたちで、政府間協定の締結により実現させる決断を下した。

12月8日の非公式夕食会を含む協議は9日の早朝5時まで続けられ、前述のサルコジ大統領の記者会見も早朝5時から始まった。ユーロ圏17ヵ国プラスアルファの政府間協定による合意は、交渉を重ねたぎりぎりの結果だったともいえる。ドイツのメルケル首相も自国の記者会見で、EU27ヵ国で合意できなかったことへの失望を隠そうとはしなかった。財政協定の文書は3月の欧州理事会までに整える予定。

<EUは13年7月に28ヵ国に拡大へ>
また、今回の欧州理事会で、クロアチアのEU加盟条約に調印した。加盟各国での批准手続きを経て、13年7月からEUは28ヵ国に拡大する見込み(2011年7月25日記事参照)。クロアチアは今後、欧州理事会や閣僚理事会などにオブザーバーとして参加する。

モンテネグロについては、12年6月の加盟交渉開始を前提に、欧州委が提示する報告書を基に12年上半期に同国の改革実施の進捗状況、特に司法分野と基本的権利、汚職対策、組織犯罪対策について検証するよう要請した。

セルビアについては、EU加盟のためのコペンハーゲン基準のうち、政治的基準を満たす方向で大幅に進捗したことを認めた。各種検討の上、EU理事会が12年2月に同国に加盟候補国の地位を付与し、3月の欧州理事会で確認する予定。

さらに、経済政策全般、エネルギーの域内統合に関する今後の課題についての確認を行ったほか、ブルガリアとルーマニアのシェンゲン協定加盟に関する法的な決定条件が整ったとし、理事会に対してできるだけ早く決定を行うよう要請するとともに、必要であれば12年3月の欧州理事会で議論するとした。

(田中晋)

(EU・ユーロ圏)

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