成長続く欧州防衛・航空産業、今後も研究開発への投資拡充がカギ
(EU)
ブリュッセル発
2025年12月10日
欧州航空宇宙防衛産業協会(ASD)は12月2日、2024年の欧州の防衛および航空産業の売上高や雇用者数などに関する報告書
を発表した(プレスリリース
)。売上高は前年比10.1%増の約3,257億ユーロと4年連続の2桁成長となり、直接雇用者数は過去最高の110万3,000人だった。防衛産業は近年の安全保障の強化やウクライナへの支援継続を背景に、13.8%増の約1,834億ユーロだったが、航空産業は供給の制約や人手不足、高いエネルギー価格が影響し、6%増の約1,291億ユーロだった。宇宙産業は3.1%増の約133億ユーロだった。
防衛および航空産業は、欧州各国の防衛費増額や防衛力強化の動き(2025年7月3日記事、2025年12月2日記事参照)、EUの航空部門の温室効果ガス(GHG)排出の削減推進(2025年11月11日記事)が追い風となり、さらなる成長が見込まれる。ASDは、「供給網の強靭(きょうじん)化と生産能力の拡大に取り組む必要がある」とし、特に防衛装備品のEU域外への依存低減と、投資の継続を重視する。2024年の研究開発投資額は前年比9.4%増の約252億ユーロで、うち63%は防衛産業関連(13.7%増の159億ユーロ)で、航空産業は2.9%増の約93億ユーロだった。
ASDは、欧州の航空産業は航空機・エンジン・部品や航空交通管理に強みを持ち、「欧州が世界を主導する数少ないハイテク部門の1つ」と位置付ける。同産業の国際競争力の維持は極めて重要であり、EUおよび加盟国に対し、研究開発支援の拡充などを含む、航空産業のネットゼロや競争力強化に向けた戦略の策定を要請する提言書を同日に発表した(プレスリリース
)。主な提言は次のとおり。
- 航空産業を戦略的重要産業と認定し、EUの2028~2034年の次期中期予算計画(MFF、2025年7月22日記事参照)において、GHG排出が少ない航空機や新世代の航空交通管理システムの開発など、同部門の研究開発支援に少なくとも60億ユーロを確保
- 重要原材料の安定供給やエネルギー価格引き下げ、積層造形技術(注)などを活用した製造方法の近代化による産業基盤と供給網の強化
- EUレベルでの持続可能な航空燃料(SAF)や水素の活用促進策の実施
- 企業の規制順守に伴う負担軽減と、人工知能(AI)など新興技術について調和のとれた規制を策定
- 国際民間航空機関(ICAO)や2国間協定を通じ、欧州発の技術の国際的普及促進や公正な競争環境の確保
(注)立体物を輪切りにした断面データをもとに、樹脂・粉体などの薄い層を積み重ねて立体物を製作する技術のこと。
(滝澤祥子)
(EU)
ビジネス短信 d5d713f564edcd71




閉じる
