欧州委、「軍事シェンゲン」法案と防衛革新技術支援ロードマップを発表

(EU)

ブリュッセル発

2025年12月02日

欧州委員会は11月19日、欧州の防衛力強化に向けた新たな政策パッケージを発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。政策パッケージは、防衛白書「準備2030」(2025年3月21日記事参照)に基づく2030年までの行程表(2025年10月22日記事参照)に沿ったものだ。加盟国間での人の移動の自由を実現したシェンゲン協定になぞらえ、EU全域で部隊や軍事装備の輸送を迅速化する「軍事シェンゲン」を2027年までに創設する法案と、人工知能(AI)、量子技術、サイバー技術、宇宙関連システムなどの破壊的技術(disruptive technology)の早期の軍事利用に向けた「EU防衛産業変革ロードマップ」からなる。

軍事シェンゲン法案は、加盟国間の国境を越えた軍事輸送に関するEUレベルのルールを設定し、緊急時の軍事輸送におけるインフラへの優先アクセスを確保する枠組みを創設するとともに、加盟国間での輸送能力の融通や軍事利用に対応すべくインフラの強化を図るものだ。法案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議される。

軍事利用可能な破壊的技術のスタートアップ支援を強化

EU防衛産業変革ロードマップは、ウクライナでのハイテク戦争を教訓に、破壊的技術の早期軍事利用に向け、欧州防衛産業の変革を加速させるための欧州委の政策をまとめたものだ。防衛分野とディープテック業界を結び付け、破壊的技術の開発や防衛関連の新興企業を支援するほか、産業向け先端製造ソリューションを通じ欧州の防衛生産能力を強化する。欧州委は防衛分野の技術開発には、迅速さ、協業、そしてリスクをとる姿勢が必要だと強調。ロードマップ上の政策の大部分は2026年末までに実施するとしている。主な政策は次のとおり。

  • 加盟国軍と防衛分野のスタートアップ企業をつなぐ「欧州防衛イノベーションスキーム(EUDIS)テック・アライアンス」を設置する(2025年第4四半期までに)。
  • 防衛関連の革新的な中小企業やスケールアップ企業に成長資金を提供すべく、最大10億ユーロ規模のファンド・オブ・ファンズを、欧州投資銀行と共同で立ち上げる(2026年第1四半期までに)。
  • 市場投入までの時間短縮に向け、課題設定など一連の活動を計画し12カ月以内に成果を出すための試験的な仕組み「AGILE」を提案する(2026年第1四半期)。
  • 初期投資を軽減し、製造規模の拡大を加速させるべく、防衛関連の中小企業などを対象に、既存の製造施設を提供するイニシアチブを提案する(2026年第2四半期)。

(吉沼啓介)

(EU)

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