欧州委、高速鉄道整備など運輸部門の大型投資計画を発表

(EU)

ブリュッセル発

2025年11月11日

欧州委員会は11月5日、温室効果ガス(GHG)排出削減に向け、高速鉄道の整備と航空・海運用再生可能・低炭素燃料の域内生産を推進すべく、新たな運輸政策パッケージを発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。政策パッケージは、「高速鉄道行動計画」と「持続可能な運輸投資計画」からなり、いずれも欧州委の前体制において成立した関連法が設定する目標の実現に向け、加盟国との連携強化や民間投資の呼び込みを図るためのものだ。

高速鉄道行動計画は、EU域内の共通交通圏の創設に向けた汎(はん)欧州運輸ネットワーク(TEN-T)規則(2023年12月25日記事参照)に基づき、2040年までに域内の主要都市間を時速200キロ以上で結ぶ高速鉄道網を整備すべく、今後実施する措置を示したものだ。具体的には、2026年半ばまでにTEN-T上のインフラのボトルネックを特定し、欧州交通回廊作業計画を策定する。また、2027年までに拘束力のあるボトルネックの解消期限を設定するほか、超高速での運行が必要な区間を特定する。

課題となる整備費用について、欧州委は2040年までに3,450億ユーロと試算する。外部機関の試算によれば、時速250キロ以上に対応した区間を現状の3倍以上にする場合、投資額は5,460億ユーロに跳ね上がる。そこで、加盟国のほか、鉄道関係者、金融機関や投資家などとの戦略的対話を進め、民間投資を呼び込むべく、2026年に資金調達戦略「高速鉄道ディール」を発表する。

一方、持続可能な運輸投資計画は、持続可能な航空燃料(SAF)や持続可能な船舶燃料(SMF)の普及に向けた2027年までのEUの予算配分を示したものだ。EUでは2035年までに、域内の空港で供給される燃料の20%をSAFにすること、海運分野におけるGHG排出原単位を14.5%削減することが義務付けられている。欧州委は、こうした目標の実現には、SAFについては最大668億ユーロ、SMFについては最大467億ユーロの投資が必要だと試算するが、将来の収益性など不確実性が高いことから投資が進んでいない。

そこで欧州委は、民間投資の呼び水にすべく、2027年までにインベストEUやイノベーション基金などから29億ユーロを割り当てる。まずは、2025年12月初旬に欧州水素銀行(2025年5月29日記事参照)の枠組みを活用し、航空・海運分野のオフテイカー向けプロジェクトを対象に3億ユーロ規模の競争入札を公募する。また、合成航空燃料を対象にした新たな支援枠組みを策定し、2026年中に加盟国と共同で5億ユーロ規模の競争入札の実施を目指す。

(吉沼啓介)

(EU)

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