中国、マレーシアやカンボジアが米国と結んだ貿易協定に関して懸念を表明、両国に対応を要請
(中国、マレーシア、カンボジア、米国、ASEAN)
調査部中国北アジア課
2025年12月02日
中国商務部は11月27日、マレーシアが米国と署名した相互貿易協定(2025年10月29日記事、11月5日記事参照)に関する両国の協議状況について説明する報道官談話を発表した。
談話では、商務部が11月25日にマレーシア側と同協定に関する問題について協議を実施したこと、協議において中国側が、いかなる協定も世界貿易の発展や地域協力に悪影響を与えてはならず、中国の利益を損なってはならないと指摘した上で、マレーシア・米国間の協定の内容について深刻な懸念を表明し、マレーシア側に適切な対応を行うよう求めたことを明らかにした。
また、11月18日には、李成鋼・商務部副部長(注1)が、カンボジアと米国などとの経済貿易協定(注2)について、その内容が中国の利益を損なうことのないようカンボジア側に善処を求めたと明らかにした。
中国側の具体的な懸念点については、11月30日付の国際商報(商務部傘下のメディア)に対外経済貿易大学国際経済貿易学院の崔凡教授が寄稿した記事の中で詳しく分析されている。同記事では、マレーシア、カンボジアが米国と署名した相互貿易協定には、いわゆるポイズンピル(毒薬条項)条項が大量に盛り込まれていると指摘しており、特に中国に対して差別的で影響が大きい条項として、マレーシア・米国の協定を例に次の点などを挙げている。
- 第3.3条において、「マレーシアは、米国の基本的利益を損なう新たなデジタル貿易協定を他国と締結する前に、米国と協議するものとする」と規定している。この条項は、マレーシアが中国とデジタル貿易協定を締結し、デジタル貿易協力を行うことを妨げる可能性がある。マレーシアはデジタル経済パートナーシップ協定(DEPA)の加盟国ではないが、現在、中国各地でマレーシアとのデジタル経済協力に対する需要が多数存在する。また、米国がこの条項をシンガポールなどの国々に拡大適用した場合、中国のDEPA加盟プロセスを阻害する恐れがある。
- 第5.3条第3項において、「マレーシアが米国の基本的利益を脅かす国と新たな2国間自由貿易協定(FTA)または優遇経済協定を締結した場合、米国はマレーシアとの協議で懸念が解決されない場合、本協定を終了させ、相互関税率を再実施することができる」と規定している。この条項は典型的な毒薬条項だ。マレーシアは既に地域的な包括的経済連携(RCEP)協定、中国・ASEAN自由貿易協定(ACFTA、注3)を通じて中国と自由貿易関係を構築しているが、本条項は中国とマレーシアのより高度な自由貿易協定締結に障壁を設ける。また、本条項が中国の「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)」加盟に支障をきたす可能性がある。
同記事では、米国が2国間貿易協定に第三者への差別的条項を盛り込む行為は、相手国の主権を損ない多国間貿易体制の無差別原則を破壊するものと批判しており、中国はこうした条項の具体的な影響や実施状況を注視し、必要な対応を取っていくと表明している(「国際商報」11月30日)。
(注1)商務部国際貿易交渉代表を兼務しており、米国との交渉にも参加している。
(注2)米国とカンボジアの協定については2025年10月28日記事参照。
(注3)中国とASEANは2025年10月28日、デジタルを含む多分野の協力を盛り込んだACFTA3.0アップグレード議定書
に署名し、早期の発効に向けて作業を進めるとしている(2025年11月17日記事参照)。
(小宮昇平)
(中国、マレーシア、カンボジア、米国、ASEAN)
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