米との相互貿易協定でマレーシア政府、マレーシアの主権脅かさず、「互恵」強調
(マレーシア、米国)
クアラルンプール発
2025年11月05日
マレーシア投資貿易産業省(MITI)は11月3日、米国と署名した相互貿易協定(2025年10月29日記事参照、以下ART)に関する専用サイト、および19項目から成るよくある質問(FAQ)
を公表した(同日付MITIリリース
)。専用サイトは、協定の内容と意義を国内向けに一元的に説明することを目的に作成された。
MITIは、ARTの目的として次の点を挙げた。
- 両国間の公正で均衡のとれた互恵的な貿易関係
- (米国による相手各国への高関税導入の中にあって)両国間の貿易関係の安定化。特に、マレーシアにとって第3の貿易相手国、かつ電気電子機器、パーム油、ゴム、工業製品の主要仕向け先である米国市場への継続的なアクセス確保による、輸出と雇用の保護
- 公正な待遇の促進。例えば、関税、市場アクセス、貿易ルールの相互的(均衡のとれた)適用
またMITIは、ARTの性質として「包括的なFTA(自由貿易協定)とは異なり、より対象を絞った、相互主義に基づく柔軟な協定」だと強調。国内産業や雇用への影響を抑えつつ、国際的な競争力を維持・強化するためにマレーシアにとって重要な一手だと主張した。具体的には、急な関税引き上げの防止、半導体・グリーンテクノロジー・農業・医薬品などの分野別協力、規制協力、双方向でのビジネスと投資促進、などをARTの意義として説明した。
国家主権を脅かすとの国内懸念に対応
特に、経済と国家安全保障制裁に関するART第5条
に対しては、マハティール・モハマド元首相など国内から「主権が脅かされる」との強い批判が出ている。FAQは、(1)主権と法に基づく執行、(2)地政学、市場/貿易アクセス、税収、(3)経済への影響と国内産業、の3節で構成され、(1)では問題の第5条1項を冒頭で取り上げ、政府見解を明示した。
第5条1項が、米国の制裁に従うことをマレーシアに強制し、同国の中立政策を損なうかとの問いに対し、MITIはこれを明確に否定した。共通の(Shared)安全保障または経済的利益にかかる問題が発生した場合に限り、両国はいかなる行動の前でも協議の必要がある上、マレーシアは自国の法律、政策、国益に基づいて自由に決定を下すことができる。ARTがあることでむしろ、米国による一方的措置を未然に防止し、両国の貿易関係がより安定する、ともMITIは付け加えた。輸出管理と米国との協力に関する第5条2項についても、マレーシアはあくまで自国法に基づく意思決定権を維持し、両国が「機微」と分類する技術や物品の貿易管理において協力するに過ぎないと説明した。
FAQを通じてMITIは、ARTは全体として国民の雇用や中小企業にとっての機会などマレーシアの経済的利益を守りつつ、米国との建設的かつ互恵的な経済関係を維持・発展させるための現実的で戦略的な対応策であると説明している。また、マレーシア政府が推進する新産業マスタープラン(NIMP)2030(2023年9月7日記事参照)の実現にもARTは資するもので、同国をグローバルな製造業・サプライチェーンのハブと位置付ける戦略の一環だと強調した。
(吾郷伊都子)
(マレーシア、米国)
ビジネス短信 9d8512686dce7719




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