米中関係は合意締結後も、緊張と緩和を繰り返す見通し
(米国、中国)
ニューヨーク発
2025年11月17日
米国のドナルド・トランプ大統領と中国の習近平国家主席は10月30日、韓国で会談し、追加関税率の修正や輸出管理措置の1年間の停止で合意した。しかし、首都ワシントンの有識者は、両国関係は1年間の停止期間を待たずに再度緊張すると予測している。
ジェトロが11月12~14日に、米中関係に詳しい首都ワシントンの業界団体やシンクタンク、大学の研究者、連邦議会スタッフなどに米中合意の評価について聞いたところ、米国の対中依存を緩和するために時間を買っただけで、米中間にある課題は「何も解決していない」との声が複数聞かれた。
米国は自動車から防衛産業まで幅広い産業に利用される希土類(レアアース)を中国に依存しており、今回の米中合意でも、中国によるレアアースに対する輸出管理が争点となった。だが、中国が約束した輸出管理の緩和措置に、米中双方で認識の違いが指摘された。米国のファクトシートでは、中国がレアアース、ガリウム、ゲルマニウム、アンチモン、黒鉛(グラファイト)に対する一般(包括)輸出許可の発行で合意したことから、「2023年以降に中国が課した輸出管理は事実上撤廃した」と評価した(2025年11月4日記事参照、注1)。これに対し、11月9日に中国が発表した措置は、2024年12月に発表した軍民両用品目に関係するガリウムやゲルマニウム、アンチモン、超硬質材料への対米輸出の原則不許可、黒鉛に関する対米輸出の厳格な審査の2つの条項の1年間の停止だった。一方で、2024年12月の措置に含まれる、米国の軍事関連企業向け、または軍事用途の軍民両用品目の輸出禁止を定めた条項は停止していない(2025年11月12日記事参照)。従って、米中合意による約束事項の履行後も、中国は引き続き、米国の軍関係向けにはレアアースの輸出を規制できる制度が残っている。そのため、仮に今後、米国が十分なレアアースを確保できない事態になれば、1年を待たずに両国関係は不安定な状況に置かれると予測する声が多かった。
そのほか、合成麻薬フェンタニルの規制については、現在も当局の管理が及ばない違法な状態で輸出されており、今回の合意でどのように規制するか不透明で、実効性はないとの指摘があった(注2)。
また、米国は中国に対して医薬品も依存している。例えば、米国で一般的な解熱鎮痛剤のタイレノールは中国依存度が高いという。だが、レアアースとは異なり、医薬品は人の生命に直結するので、国民からのネガティブな反応が強くなる可能性があり、中国が医薬品を米国に対するレバレッジとして使うことには慎重になるだろうとの見方が多かった。
そのほか、トランプ氏の中国に対する強硬にみえる姿勢は、中国と「ディール」をしたいためで、J.D.バンス副大統領やマルコ・ルビオ国務長官などのような対中タカ派ではないとの評価も聞かれた。むしろ、トランプ氏は台湾に対する関心が高くないとし(注3)、政権内から安全保障上の問題を指摘されてもエヌビディアの半導体の対中輸出を許可し、中国の人権問題を指摘せず、民主主義の価値を啓発しないことなどから、「中国にとって史上最もよい大統領」との指摘もあった。
今回の合意を経て、米中関係はいったん小康状態にあるものの、こうした状況を鑑みれば、今後も緊張と緩和を繰り返すと予測されている。
(注1)米国のファクトシートでは、発表当初、「中国の一般(包括)輸出許可の発行は、中国が2025年4月と2022年10月に課した規制の事実上の撤廃を意味する」と記載していたが、その後修正された。2022年10月に中国が課した輸出管理措置はないとされており、米国政府が誤った認識の下で交渉していた、あるいは実務に詳しい専門的知識を有する閣僚などの関与が不十分な状態でファクトシートを作成した可能性が指摘されている。
(注2)米国は合意にのっとり、既にフェンタニルIEEPA関税率を20%から10%に引き下げている(2025年11月6日記事参照)。
(注3)今回の米中会談では、台湾については議題に上がらなかったと言われている。
(赤平大寿)
(米国、中国)
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