シカゴ量子サミット2025、米国量子政策の最前線を発信

(米国)

シカゴ発

2025年11月07日

米国シカゴ市で11月3~4日、米国量子産業の主要イベントの第8回「シカゴ・クオンタム・サミット2025」が開催された。主催はシカゴ大学を中心とするコンソーシアムのシカゴ・クオンタム・エクスチェンジ(CQE)で、政府機関や大学、企業などから約500人が参加した(2025年11月7日記事参照)。量子通信やコンピューティング、センシングの最新動向を共有し、研究から社会実装までを見据えた政策と産業連携の方向性を議論した。サミットの狙いは、量子技術を国家戦略の柱として位置付け、研究・教育・産業を横断する当地エコシステムを国際的に発信することにある。

開会セッションでは、イリノイ州のJ.B.プリツカー知事(民主党)が登壇し、「シカゴは基礎研究からスタートアップ育成、製造までを包含する『量子バレー』を形成しつつある」と述べ、州として量子関連産業への投資を一層強化する方針を表明した。特に、USスチール工場跡地に建設中のイリノイ量子マイクロエレクトロニクスパーク(IQMP)を量子コンピュータ産業の中核拠点として位置付けた。IQMPは、主要入居企業のサイクオンタム(PsiQuantum、本社:カリフォルニア州)がイリノイ州、クック郡、シカゴ市と連携し、同施設内に米国初の産業規模の量子コンピュータを設置する計画を発表したことでも注目された(2024年8月1日記事2025年6月30日記事2025年10月6日記事参照)。

米国商務省のポール・ダバー副長官は、2018年制定の国家量子イニシアチブ(NQI)の進展を報告し、同省傘下の米国標準技術研究所(NIST)や国際貿易局(ITA)が量子技術の標準化、輸出管理、サプライチェーン強化を進めていると説明した。また、CHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)の研究開発枠(約100億ドル)に量子技術が明記されたことを「商業化支援の転換点」とし、量子、人工知能(AI)、半導体を統合した国家技術戦略の推進を強調した。また、エネルギー省(DOE)のダリオ・ジル科学担当次官は、DOEが主導する量子情報科学研究センター(QIS)への6億2,500万ドルの投資を説明し、シカゴ地域のアルゴンヌ国立研究所主導の「Q-NEXT」と、フェルミ国立加速器研究所主導の「SQMS」の2拠点を中核に、量子とAI、マイクロエレクトロニクスを統合した研究体制を強化する方針を示した。ジル次官は「量子科学は基礎研究から応用実装の段階に入りつつあり、DOEはその橋渡し役を担う」と述べ、連邦レベルでの産学官連携による研究支援を強調した。

クオンタム・エコノミック・デベロップメント・コンソーシアム(QED-C)の講演では、量子経済の成長と国際化の加速が報告された。QED-Cの会員は250社・団体を超え、その約3分の1が国外企業で、量子センシングなど商業化が最も進む領域で成果が拡大しているという。また、CQEとバーンズ&ソーンバーグ法律事務所が共同開発した「クオンタム・ロー・ナビゲーター」が発表され、量子技術の商業化に伴う知的財産や、安全保障、契約上の課題を整理し、産業界や研究者を支援する法的インフラとして注目を集めた。

サミットを通じて、米国政府とイリノイ州は、量子技術をAI、半導体と並ぶ「国家競争力の中核」として、政策と予算、法制度を一体的に整備する姿勢を示した。

写真 シカゴ量子サミットで講演するイリノイ州のプリツカー知事(ジェトロ撮影)

シカゴ量子サミットで講演するイリノイ州のプリツカー知事(ジェトロ撮影)

(エミリー・カー、井上元太)

(米国)

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