米イリノイ州で量子分野の日米企業交流、ジェトロが「量子ミッション」派遣
(米国、日本)
調査部米州課
2025年06月30日
ジェトロは6月8~10日、量子技術分野の日米間の新規ビジネス創出や、関係技術者間の連携を深めることを目的に、同分野で存在感を高める米国イリノイ州に日本企業・機関から成る視察団(ミッション)を派遣した。今回のミッションには、量子関連のビジネス拡大を図る大手企業やスタートアップ、量子技術に関わる研究・学術機関など28社・団体36人が参加し、現地の研究機関やスタートアップ、支援機関と交流した。
ミッションの初日、イリノイ州の経済開発機関インターセクト・イリノイのクリスティ・ジョージ最高経営責任者(CEO)と、シカゴ市の経済開発機関ワールド・ビジネス・シカゴのフィリップ・クレメントCEOが歓迎のあいさつを行い、ミッションを通じた日米パートナーシップの深化に期待を示した。同州の量子エコシステムについて説明したインターセクト・イリノイのプリーティ・チャルサニ最高量子責任者は、同州には量子科学・工学の博士課程を米国で最初に開設したシカゴ大学などの研究機関がそろっており、同州の量子分野の発展を支えていると強調した(注1)。商業化の基盤も整っているとして、大学や企業が参加するコンソーシアムである「シカゴ量子取引所(CQE)」や、シカゴ南部で開発が進む「イリノイ量子マイクロエレクトロニクスパーク(IQMP)」(2024年8月1日記事参照)などを紹介した。
イリノイ州の量子エコシステムについて説明するチャルサニ氏(ジェトロ撮影)
ミッションは、現地のスタートアップやインキュベーターを訪問した(注2)。IQMPに産業規模の「誤り耐性量子コンピュータ」の建設を目指すサイクオンタム(PsiQuantum、本社:カリフォルニア州パロアルト)は量子コンピュータの開発場所にシカゴを選んだ理由として、電力の安定供給を受けられる広大な工業用地を有するIQMPの環境や、州知事をはじめとする地元政府の手厚い支援、シカゴ大学などから輩出される有能な人材を挙げた。
連邦エネルギー省傘下で量子を含む最先端の科学技術研究を行うアルゴンヌ国立研究所も訪問した。同研究所に設置されているアルゴンヌ量子研究所のマイケル・ノーマン所長は、新素材、量子コンピュータ・シミュレーション、量子センシング、量子通信・ネットワークの4分野に焦点を当てて研究を行っていると紹介した。
アルゴンヌ量子研究所の活動について説明するノーマン氏(ジェトロ撮影)
ミッション最終日には、ジェトロのJ-Bridge事業(注3)の一環として、日米スタートアップなどによるピッチ・マッチングイベントを開催した。ミッション参加者からは、「イリノイ州の量子分野への注力度を理解できた」「各プレーヤーの視点から量子の社会実装に向けた熱意と課題感を聞き、量子の重要性・可能性について理解する機会となった」「ユースケースの蓄積や量子コンピュータの周辺デバイスといった面で日本企業との協業可能性があると感じた」「イリノイ州が日系企業誘致に積極的なことが印象的だった」といった声が聞かれた。
(注1)イリノイ州のJ.B.プリツカー知事(民主党)は2024年10月に訪日した際、州経済に関して、先進的な研究機関が集まり、量子技術や人工知能(AI)の研究者を引きつけていることが強みだと紹介していた(2024年10月8日記事参照)。
(注2)訪問したスタートアップは、複数の量子ハードウエアに対応したクラウドベースの開発環境を提供するキューブレイド(qBraid)、量子コンピュータ開発のインフレクション(Infleqtion)
、イーロキュー(EeroQ)
。支援機関は、シカゴ大学発の起業家らを支援するポルスキーセンター(Polsky Center)
、シカゴ大学と連携して設立された研究施設ハイドパークラボ(Hyde Park Labs)
、ハードテック(製造技術)分野のスタートアップ支援機関エムハブ(mHUB)
。
(注3)日本企業とスタートアップなどの海外企業の国際的なオープンイノベーション創出を目的としたビジネスプラットフォーム。詳細はジェトロのウェブサイトを参照。
(甲斐野裕之)
(米国、日本)
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