米最高裁、IEEPA関税の口頭弁論実施、政権に厳しい質問も
(米国)
ニューヨーク発
2025年11月07日
米国連邦最高裁判所は11月5日、トランプ政権による国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく追加関税措置に対し、その合憲性を問う口頭弁論を行った。判事は、おおむねIEEPAに基づく関税措置に厳しい態度を示した(2025年9月17日記事参照)。
米国の政治専門紙「ポリティコ」や通商専門誌「インサイドUSトレード」などによると、判事は保守派やリベラル派を問わず(注1)、IEEPAに基づく関税措置に厳しい態度を示した。例えば、ジョン・ロバーツ最高裁長官は、大統領に与えられている外交権限が議会の課税権限に優先するのであれば、「行政権と立法権という2つの権力のバランスを無効にするようなものだ」と指摘した。これに対し、ジョン・サウアー訟務長官は、IEEPA関税は「規制が目的」と述べ、課税による歳入増加が最大の目的ではないと抗弁した。他方、ソニア・ソトマイヨール判事は「関税は税金ではないと主張したいのだろうが、税金そのものだ」と指摘した。
仮にIEEPAに基づく関税が無効と判断された場合、企業にとっては、既に支払った関税の還付が焦点の1つとなる。特に相互関税は原則として全ての国・地域からの全ての輸入品を対象としていることから(注2)、還付額は莫大(ばくだい)で、還付先も多いとみられる。口頭弁論で還付手続きについて質問された原告側の弁護士は「最高裁に提訴された事件に直接関わる企業のみ、関税が撤廃された際に自動的に還付を受ける権利を有する」と述べ、「その他の企業は異議申し立てをしなければならない可能性が高い」と指摘した。
こうした還付手続きに関し、通商代表部(USTR)のジェミソン・グリア代表は口頭弁論翌日の11月6日に、Foxビジネスニュースのインタビューで、最高裁がIEEPA関税を無効と判断した場合、少なくとも一部を還付する「準備がある」と述べた。その上で、特定の原告に還付される一方、それ以外は、財務省が裁判所と協力して、スケジュールなどを検討しなければならないだろうと述べた。
ただし、グリア氏は、判事が原告に対しても厳しい態度を示していたとして(注3)、「政権の敗訴は予想していない」と強調した。この点に関し、例えば、クラレンス・トーマス判事は、IEEPAに基づく関税を違憲とするように大統領の権限を狭義に解釈すると、将来の緊急事態に大統領が適切に対応できる能力が制限されるのではないかとの懸念を表明していた。
最高裁による判決は早ければ2025年内に出る可能性がある。
(注1)最高裁の判事は、リベラル派3人、保守派6人と言われている。このうち、保守派のエイミー・コニー・バレット判事、ブレット・カバノー判事、ニール・ゴーサッチ判事はいずれも、トランプ氏が政権1期目で任命している。
(注2)相互関税は国・地域によって異なる関税率を設定している。なお、相互関税の適用対象外となる品目があるほか(2025年9月8日記事参照)、1962年通商拡大法232条に基づく追加関税の対象品目の場合も、相互関税の対象ではなくなる(2025年11月5日記事参照)。
(注3)口頭弁論には、グリア氏のほか、スコット・ベッセント財務長官、ハワード・ラトニック商務長官も傍聴した。トランプ大統領は当所、口頭弁論に出席する可能性を示唆していたが、最終的には見送った。
(赤平大寿)
(米国)
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