グリーン水素の定義の見直しを巡り、ハイレベル政策会議で議論

(EU)

ブリュッセル発

2025年10月09日

ハイドロジェン・ヨーロッパ(Hydrogen Europe)は、「European Hydrogen Week」(9月30日~10月3日)のハイレベル政策会議で、EUの2030年目標(2025年10月9日記事参照)を達成するためには、リスクを取り投資を行っている先行者を保護するメカニズムを立ち上げた上で、グリーン水素の「追加性」などの要件を緩和し、水素の利活用を推進する必要性を強調した。

「追加性」を巡っては、異なる意見が交わされた。欧州の電解装置産業を代表し、ノルウェーのネル・ハイドロジェンやドイツのシーメンス・エネジーなど8社は、今後発表が予定されている水素分野の簡素化案について、現実的でグリーン水素の成長や投資を後押しする案を要望書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますとして欧州委員会に9月29日に提出した。グリーン水素の定義に関する委任規則(2023年6月30日記事参照)の「追加性」要件に関し、現在は補助金の二重受給を避けるため対象外となっている補助金を受けた新設施設で発電された再生可能エネルギー(再エネ)電力も対象とすることや、「追加性」の適用免除期間を現行の2027年末までから2035年までとすることなどを要望したことが紹介された。

一方、本年度のパートナー国であるオマーンのエネルギー・鉱物大臣は、EUの厳格なグリーン水素の要件に基づき、風力、太陽光発電の土地を確保し、2030年までに150万トンの生産を目指し、現在3ドル/キログラムでの生産めどが立っていると説明。要件の緩和は、オマーンの競争力の低下を意味するとし、自国に限らずプロジェクトの最終投資決定(FID)、稼働には、定めた規制を維持する必要性を指摘した。

インド再エネ大手ACMEグループや日本企業も参加するe-メタンの国際的アライアンス「e-NG Coalition」など15社・機関も9月30日、欧州委に対し、グリーン水素の要件を維持するよう求めた。定義の見直しではなく、高い設備投資、需要・インフラ・グリッド不足、再エネ設備の設置加速、化石燃料との価格差などの課題への対応策を要請した。

「欧州水素銀行」の第2回入札結果から見る生産平均コストはキログラム当たり7.1ユーロで、第1回の8.4ユーロからは下がった。しかし、選定された海運分野を除く12事業のうち、最大規模だったドイツ、オランダの事業(2025年5月29日記事参照)を含む7事業は辞退し、10事業が繰り上げられた現状が紹介された。また、これまでに第4弾、合計122件が承認されている水素分野の「欧州共通利益に適合する重要プロジェクト(IPCEI)」(2024年5月29日記事参照)のうち、FIDに至ったのは27件で、13件のプロジェクトは中断された旨も発表された。EUが規制によるクリーン技術の主導を目指す中、域内産業の競争力強化との両立が引き続き注視される。

(薮中愛子)

(EU)

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