トランプ米政権、国際海事機関のネットゼロ条約改正に反対表明、入港料金の対抗措置も示唆

(米国、世界)

ニューヨーク発

2025年10月15日

米国務省は10月10日、国連専門機関の国際海事機関(IMO)が検討している国際海運からの温室効果ガス(GHG)排出削減を目的とする国際条約改正案、いわゆる「ネットゼロ・フレームワーク(NZF)」に対し、反対の声明を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。改正案が採択された場合に米国が実施を検討する具体的な対抗措置も示し、IMO加盟国を強く牽制した。

NZFは、総トン数5,000トン以上の外航船舶を対象に、(1)GHG排出削減に向けて使用燃料のGHG強度を段階的に規制する、(2)ゼロエミッション燃料船の導入促進に向けてインセンティブを設けることを柱とする条約改正案だ。欧州や日本が導入を主導し、各国政府は2025年4月のIMO海洋環境保護委員会(MEPC)の会合で草案に合意した。MEPCは10月14~17日に英国ロンドンで臨時会合を開催し、採択を審議する。仮に採択されれば、最短で16カ月後の2027年3月に発効する見通しだ。

米国務省は今回の声明でNZFについて「懲罰的で退行的な罰金を課す、承認されていないグローバル課税制度だ」と批判し、「米国政府はIMOの提案を断固として拒否し、米国市民やエネルギー供給業者、海運会社と顧客、観光客の負担を増加させるような措置を一切容認しない」と主張した。さらに、「NZFを支持する国々に代償を支払わせることで、米国の経済的利益を断固として守る」「IMO加盟国は留意すべきだ」と続け、採択の審議を前にIMO加盟国を牽制した。米国が示唆する対抗措置の内容は次のとおり。

  • 特定国の船籍の船舶に対する米国港湾への入港拒否
  • 乗組員ビザ(C-1/D)の発給制限
  • NZF支持国の船籍の船舶に対する米国政府との契約制限
  • NZF支持国の所有・運航・船籍の船舶に対する入港料金の賦課
  • 「気候活動家型」の政策を推進する政府高官への制裁の検討

なお、トランプ米政権は10月14日から1974年通商法301条に基づき、(1)中国企業が所有・運航する船舶、(2)中国で建造された船舶、(3)自動車運搬船に関しては中国で建造された船舶に限らず米国外で建造された船舶に対して、入港料金の徴収を開始している(2025年10月14日記事参照)。こうした措置からは、トランプ政権が対抗措置を実行する先例と手段を持つことを示しており、対抗措置の実行が現実的な選択肢になり得るとみられる。

(葛西泰介)

(米国、世界)

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