EU理事会、対ロシア制裁第19弾を採択、ロシア産LNGの長期契約では2027年1月から輸入禁止

(EU、ロシア)

ブリュッセル発

2025年10月29日

EU理事会(閣僚理事会)は10月23日、第19弾となる対ロシア制裁パッケージを採択した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。今回の制裁パッケージも前回同様、ロシアのエネルギーや金融、軍事産業を狙ったものだ。

目玉となるのは、ロシア産液化天然ガス(LNG)の輸入禁止だ。短期契約に基づく輸入ついては2026年4月25日から、長期契約(2025年6月17日以前に締結されたもので、契約期間が1年以上のもの)の場合は2027年1月1日から禁止する。EUは現在、ロシア産エネルギーからの完全脱却に向け(2025年5月9日記事参照)、2028年1月からLNGや、パイプライン経由でのロシア産ガスの輸入を禁止する法案(2025年6月20日記事参照)を審議している。今回の禁輸措置は、こうした脱ロシア産エネルギーの早期実現に向けた政策の一環として、対象をLNGに絞り、開始時期を1年前倒しするものだ。

また、ロシアの石油大手ロスネフチとガス最大手ガスプロムの石油子会社ガスプロム・ネフチとの取引も禁止する。これにより、例外的に認められていた両社による域内への石油やガスの輸入を完全に禁止する。同時に、ロシア産原油の主要な買い手である中国の2つの製油所と1つの取引事業者を制裁対象とする。制裁回避策の「影の船団」への対策(2025年5月22日記事参照)については、117隻を新たに追加した。これにより、制裁対象は557隻となった。さらに、影の船団関連のバリューチェーンに対する制裁も強化する。

金融分野については、クリプト(暗号資産)使用による制裁回避の動きがみられることから、ロシア政府の支援を受けたステーブルコイン(注)「A7A5」の域内取引を禁止するほか、関係事業者を制裁対象に追加する。また、域内事業者に対し、ロシア発のクレジットカード「ミール」(2019年4月23日記事参照)と即時決済システム「SBP」の利用などを禁止するほか、ロシアの銀行5行と制裁回避に利用されているタジキスタンやキルギス、アラブ首長国連邦(UAE)、香港の銀行や石油取引事業者を取引禁止の対象に加える。

このほか、一部の二重用途物品、先端技術、塩類、鉱石、建設資材、ゴム製品のほか、非環式炭化水素を輸出制限、あるいは禁止措置の対象に追加する。人工知能(AI)サービス、高性能コンピューティングサービス、商業用宇宙関連サービスについては、ロシアの組織への提供を制限し、ロシア政府に対して提供するサービスについては、全て事前認可を義務づける。

(注)ステーブルコインとは、特定の裏付け資産の値動きと連動させるなどして、価格変動リスクを低減させた暗号資産。

(吉沼啓介)

(EU、ロシア)

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