欧州委、ロシア産エネルギーからの完全脱却計画を発表、2027年末までにガス輸入禁止へ
(EU)
ブリュッセル発
2025年05月09日
欧州委員会は5月6日、EU域内のエネルギー供給で、ロシア依存からの完全脱却に向けた「リパワーEU」行程表を発表した(プレスリリース)。柱となるのは、ロシア産ガスの段階的な輸入禁止で、2027年末までに輸入の完全禁止を目指す。
EUは2022年のロシアによるウクライナ侵攻開始以降、「リパワーEU」計画(2022年9月1日付地域・分析レポート参照)や、対ロシア制裁(2022年4月11日記事参照、2022年6月6日記事参照)の下で、ロシア産エネルギー依存からの脱却を進めている。欧州委によると、EUのガス輸入に占めるロシア産の割合は2021年の45%から2025年には13%まで低下すると予測されている。ロシア産石油の割合も2022年初頭の27%から現在3%まで低下している。一方で、EUのロシア産ガスの輸入は2024年に増加に転じたほか、ハンガリーとスロバキアでは石油輸入の8割以上をロシア産が占める。また、原子力分野でも依然としてロシア産核燃料への依存が続いている。
欧州委は、ロシア産エネルギーへの過剰依存は安全保障上の脅威として、同国産エネルギーからの完全脱却が必要だと強調し、6月にも完全脱却に向けた複数の新たな法案を発表する方針だ。今後予定される法案や規制措置の内容は次のとおり。
ロシア産ガスについては、新規契約やスポット取引に基づく輸入を2025年末までに、パイプライン経由・液化天然ガス(LNG)を含む既存の長期契約に基づく輸入を2027年末までに禁止する。輸入禁止の実効性を担保すべく、輸入企業に対し、輸入量や期間などの契約内容の報告を求めるほか、実際の輸入状況を加盟国当局と欧州委間で共有する。
ロシア産濃縮ウランについては、採算性を低下させる貿易措置を講じる。また、EUの核燃料供給機関(ESA)による新規契約や既存契約の延長の承認については取りやめる意向だ。ただし、既存契約に基づく核燃料の供給は継続される。
また、加盟国に対し、ガス、石油、核燃料を含むロシア産エネルギーの脱却計画の策定を2025年末までに求める。同計画には、既存契約での輸入量、脱却までのスケジュール、供給元の多角化、代替燃料への置き換えなどに関する情報を明記する見込みだ。なお、ロシア産石油については、今後の輸入継続が見込まれるのはハンガリーとスロバキアのみで、いずれも禁輸措置に反対することが予想されることから(2022年5月17日記事参照)、拘束力を持った規制は提案せず、同計画を通じた脱却支援の提供にとどめる。
(吉沼啓介)
(EU)
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