米政府閉鎖中も輸出入手続き、各国との通商交渉、232条調査は継続
(米国)
ニューヨーク発
2025年10月02日
米国では、連邦議会が2026会計年度(2025年10月1日~2026年9月30日)予算案を成立させられなかったため、10月1日東部時間午前0時1分から政府機関が閉鎖した。これにより、「非必須」とみなされる政府機能は全て停止する。各機関が「必須」と定義する内容は異なり、通商面では、ほぼ全ての輸出入手続きと通商交渉は継続されるが、アンチダンピング関税(AD)や補助金相殺関税(CVD)など貿易救済措置に関する調査などは予算が成立するまで停止する。
政府閉鎖期間中の、通商に関係する各機関の活動概要は次のとおり。
〇米国税関・国境警備局(CBP)
国土安全保障省が9月27日に発表した予算失効中の計画によると、CBP職員のほぼ全てが政府機関閉鎖中も勤務し、通常の輸出入手続きを中断なく実施する。米国の通商政策に詳しい弁護士事務所によると、CBPは10月1日朝の輸入業者向け電話会議で、職員は完全に稼働状態にあると強調した。さらに、CBP職員は木材・製材とその派生品に対する1962年通商拡大法232条に基づく追加関税措置は予定どおり発動する予定と述べたという。ドナルド・トランプ大統領は9月29日に、木材などに対する232条関税を10月14日から賦課すると発表していた(2025年10月1日記事参照)。こうした新たな追加関税措置の発動が決まった後は、発動日までにCBPから実務上のガイダンスが発表されることが通例となっている。
〇商務省
商務省が9月29日に発表した計画によると、政府機関閉鎖中、職員の大半は一時帰休となる。経済分析局(BEA)、国勢調査(センサス)局、国際貿易局(ITA)は直ちにほぼ全ての業務を停止する。ITAはADやCVDを発動するに当たり、ダンピングや補助金の有無の判定や税率を決定する役割を担っている(注1)。前出の法律事務所は、2018年12月~2019年1月にかけて発生した前回の政府閉鎖時と同様に、貿易救済手続きの期限を延長する可能性が高いと指摘している。なお、ADなどの発動に当たっては、ITAの決定の前に、米国国際貿易委員会(USITC)による米国内産業の損害の認定が必要となるが、USTICの損害認定調査なども停止され、公聴会などは政府閉鎖解除後に延期される。
商務省の必須職員の大半は、国立海洋大気庁(NOAA)や国立標準技術研究所(NIST)などで、産業安全保障局(BIS)もほぼ通常どおり業務を継続する。BISの情報通信技術・サービス局(ICTS)は、ICTS規則関連業務を継続する(注2)。輸出管理局は、緊急輸出許可申請、規制案作成(2025年9月29日記事参照)、国防生産法プログラム、緊急輸出許可申請の審査、産業基盤調査を継続する。232条に基づく調査なども継続する(注3)。輸出執行局の法執行機能も継続する。
〇米国通商代表部(USTR)
USTRが9月に発表した計画では、USTR の全職員は、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税措置や、各国・地域と行っている交渉を継続する。ジェミソン・グリア代表は、USTRは、ほとんどの職員を必須職員として扱い、閉鎖期間中も完全に機能し続けると述べている。
(注1)AD・CVD調査から賦課の手続きは、(1)USITCによる国内産業の被った損害有無の仮決定、(2)ITAのダンピングや補助金の有無と税率の仮決定、(3)ITAの最終決定、(4)USITCの最終決定の4段階で進められる。
(注2)ICTS保護規則は、商務長官が「外国の敵対者に所有、支配されている、またはその管轄・指示に従属する主体によって設計、開発、製造もしくは供給されたICTSの買収、輸入、移転、導入、売買または利用を含む取引で、過度もしくは容認できないリスクをもたらすもの」に対し、調査などを経て、取引の中止かリスク軽減措置を指示する(2024年12月6日記事参照)。
(注3)BISは直近では9月に、ロボット・産業機械、個人用防護具(PPE)・医療機器の232条調査を開始している(2025年9月26日記事参照)。現在調査が進んでいる案件の一覧は、BISのウェブサイト参照。
(赤平大寿)
(米国)
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