イタリアン・テック・ウィーク開催、過去最高の来場者数
(イタリア、EU)
ミラノ発
2025年10月17日
2025年10月1~3日に、イタリアン・テック・ウィーク2025(Italian Tech Week 2025)がトリノで開催された。エクソール(Exor、注)が全額出資するイタリアの非政府系ファンドVento(本社:トリノ)が主催し、2018年の第1回開催から今回で5回目を迎えた。今回は、過去最多となる1万5,000人を超える起業家や投資家、イノベーション関係者が来場し、人工知能(AI)、ロボット、欧州の技術エコシステムなどについて議論がされた。エクソールの最高経営責任者(CEO)で自動車大手ステランティスや高級車フェラーリの会長を務めるジョン・エルカン氏と、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏による対談など、180人以上のグローバルのベンチャーリーダーが講演した。
10月3日には、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が登壇。2007年にミラノで起業後、2010年に米国サンフランシスコに本社を移し、現在、企業評価額20億ドルに達するクラウドAPI技術の開発を行うコング(Kong)を例に、有望な起業家がイタリア・欧州で成功するための環境整備が急務だと指摘した。欧州市場における資金不足、単一市場の分断、新技術の普及遅延などの課題を挙げ、戦略分野への直接株式投資を行う「スケールアップ欧州基金」の創設(2025年6月13日記事参照)、欧州域内の法規制を単一・簡素化し域内での事業拡大を容易にする「28番目の企業規制枠組み(28th regime)」(2025年6月6日記事参照)、戦略産業分野や中小企業へのAI導入を加速させる「AI活用戦略」などの取り組みを推進するとし(2025年4月14日記事参照)、「欧州をAIの大陸とするため、あらゆる努力を惜しまない」と力強く締めくくった。
また、スタートアップ関連の調査会社ディールルームの創業者が、イタリアのスタートアップとベンチャーキャピタル(VC)投資動向をデータに基づいて紹介。2025年の調達額は2021~2024年に続き10億ドルを超える見込みで、特にAIや気候変動関連技術分野への投資が上位に挙がった。ユニコーンでの経験を積んだ新しい起業家が増加し、また過去35年間に設立されたスタートアップのうち、ここ10年間に設立されたスタートアップの企業価値はすでに全体(約600億ドル)の3分の1以上を占めていると評価した。一方、イタリアの経済規模に対して、いまだスタートアップの成長が伸び悩む要因として、ほかのEU諸国に比べ、国内市場志向が高く、資金調達の国内資本への依存度が高い、イタリア人以外の国際人材がチームに少ない、もしくは初めから国外で起業してしまうといった点を指摘。成長を加速するには、初期段階から国際的な市場と資金調達を目指して展開する、リスク回避の短期的な投資ではなく長期的な資金投入などが重要とした。EUの「28番目の企業規制枠組み」が実現すれば、イタリアは率先して活用し、起業家にとってより有利なビジネス環境を目指すべきと指摘した。
「イタリアの起業家はどのように障壁を打破しているか」と題したパネルでは、2022年12月に起業し2025年6月に米国テックファンドのベース10(Base10)の主導により2,500万ユーロを資金調達して、総調達額4,170万ユーロに達したイタリアのテクノロジー企業JET HRの創業者兼CEOが登壇。同社はイタリアビジネスにおける官僚的で複雑な手続きの簡素化を目的に、独自のプラットフォームを通じて給与計算プロセスの自動化、採用・給与管理・労務管理などの一括サービスを提供する。「イタリアは欧州で最も官僚的な手続きが多いが、私たちはただ嘆いて政府が変えるのを待つのではない。官僚主義の解決という最大の商機がある国ともいえる」と、今後のさらなるビジネス拡大に熱意を見せた。
イタリアン・テック・ウィーク2025の様子(主催者提供)
(注)オランダが本社の、フィアット創業家アニェッリ家による投資持ち株会社
(山本千菜美)
(イタリア、EU)
ビジネス短信 670e69de66f014f7