欧州委、スタートアップ支援に関する戦略を発表、域内エコシステムの構築に注力

(EU)

ブリュッセル発

2025年06月13日

欧州委員会は5月28日、EU域内のスタートアップとスケールアップを支援する戦略(Choose Europe to start and scale)を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。EUは研究開発に力を入れており、イノベーション力はあるものの、商用化および資金調達の難しさからスケールアップの課題を抱えている。EU域内から起業家や重要技術の喪失を防ぐべく、またEUの経済安全保障、技術主権の強化を目指し、策定されたものだ。

本戦略は、スタートアップが起業から成長まで各段階で必要となる支援に合わせ、(1)イノベーションを促進する規制、(2)資金調達の改善、(3)迅速な市場形成と拡大、(4)優秀な人材の確保、(5)インフラ、ネットワーク、サービスへのアクセス、の5つの柱で構成されている。EUを世界的な人工知能(AI)、量子、先進半導体、医療、バイオ、クリーンテック、原子力を含むエネルギー、水・海洋技術、安全・防衛、宇宙、ロボティクス、二重用途の応用を含む先端材料などが生まれる場所とすることを目指している。欧州委が発表した「単一市場戦略」(2025年6月6日記事参照)に基づき、EU域内での成長を促す。

特に(2)資金調達に関しては、EUの金融システムは依然銀行中心で、資本参加の欠如、リスク回避、各国で異なる規制により、資本市場が統一されておらず、ベンチャーキャピタル(VC)市場が小さい。また、スケールアップには合弁・買収が重要となるが、現状60%のスタートアップはEU域外の企業に買収されている。このため、貯蓄・投資同盟(2025年3月28日記事参照)の実現を通じてVCを強化し、資金調達と投資機会の拡大を推進していく。このほか、ディープテック企業のスケールアップ支援に特化した欧州イノベーション会議(EIC、2024年10月23日記事参照)の手続きの簡素化と迅速化、「スケールアップ欧州基金」(注)の創設などがあげられている。EICが2020年の設立から4年間で支援した企業のうち、70社以上が1億ユーロの企業価値を生み出し、うち6社は5億ユーロを超えている。

また、(3)迅速な市場形成と拡大の施策としては、大学の重要性に言及。欧州特許庁に出願された特許の10%以上は大学によるものだが、商用化されたのはそのうち3分の1にとどまっている。「研究所発、ユニコーン創出イニシアティブ」の創設を通じた研究成果の商用化支援などが含まれている。

(注)クリーン産業ディール(2025年3月4日記事参照)で発表のあった「TechEU投資プログラム」と同じもの。

(薮中愛子)

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