通関手続きコストが著しく増大、「販売価格に転嫁は困難」と日系担当者

(米国、日本)

ニューヨーク発

2025年09月03日

相互関税や鉄鋼・アルミニウムなどにかかる1962年通商拡大法232条関税など、次々に発動される追加関税により、通関業者や輸入業者が負わなければならない手続きコストが著しく増大している。

とりわけ、(1)相互関税は、輸入製品の価値の20%以上が米国原産の場合、非米国原産部分に対して課される仕組みであること(2025年8月6日記事参照)、(2)鉄鋼・アルミ製品の派生品に対する232条関税(50%)は原則、含有する鉄鋼・アルミ材の輸入申告価格に対してのみ課される仕組みになっていること(2025年8月19日記事参照)が通関手続きを極めて複雑化させている。

これらの仕組みにより、単一の製品を輸入する際にも、複数の米国関税分類番号(HTSコード)で輸入通関手続きを行う事態が生じる。例えば、鉄の派生品に該当する建設機械を輸入する在米日系メーカーは「232条に基づく50%の追加関税は輸入価格の鉄含有量部分に課されるが、鉄の定義まで細かく定められていないため、自社で合理的に決定して申告する必要がある。購入した鉄の重量をベースに、輸入品の重量全体に占める鉄の重量分に相当する価格を算出し、申告しているが、正確な申告は極めて難しい」と話す(8月28日時点、ジェトロ聴取)。

また、米国で自動車部品などを輸入する日系商社の担当者は「部品や機械を輸入する場合は、その中に使用されている部素材によってそれぞれ適用される関税率や根拠が異なり、その構成比に応じた正確な計算と、顧客への明確な説明が求められる。これらの作業を適切に行う時間が不足している」と話す。しかし、追加関税対応にかかる業務が著しく増大し、膨大なコストが発生している中でも、「これらの行政手続きコストの増加分は、根拠が明確な関税額とは異なり、顧客向けの販売価格に転嫁するのは困難」という(8月22日時点、ジェトロ聴取)。

通関業者の立場では、関税の立て替え負担が10倍超に膨らんでいる実態もある。全米で通関業務を展開する日系通関事業者によると、「関税については通常、通関業者が一時的に立て替え、約1カ月後に顧客からの支払いを受ける運用となっている。しかし、現在は関税額が追加関税発動前の10~15倍に増大し、キャッシュフローの圧迫が深刻化している。加えて、顧客からの回収リスクも高まっている状況にある」という(8月28日時点、ジェトロ聴取)。

追加関税を巡る状況が刻々と変化する中、関税以外に発生する膨大な付随コストに関し、取引関係者間でその負担をいかに協議・調整していくかが今後の課題となる。

(伊藤博敏)

(米国、日本)

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