シェインバウム大統領が就任後初の年次教書を発表
(メキシコ)
調査部米州課
2025年09月10日
メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領は9月8日、就任後初となる年次教書演説を行った。貧困人口の減少や格差縮小に重点を置いたアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)前政権を引き継ぎながら、経済安定性と富の再分配の両立を目指す方向性を示した。2024年10月の大統領就任以降、AMLO前政権末期も含めた過去1年間で19の憲法改正と40の新法成立を進めたとし、次の点を主要な成果として挙げた。
- 2025年6月に行われた司法選挙(2025年6月6日記事参照)などの司法改革
- 国家警備隊の国防省(SEDENA)への統合
- 先住民族およびアフリカ系メキシコ人の公的権利保障
- 石油公社(PEMEX)と電力庁(CFE)を再度「国営企業」とする(注1)
- 公共インターネットサービスを国が直接提供するための法整備
- 女性の実質的な平等、暴力を受けない権利、賃金格差解消などを含めた憲法改正
- 鉄道事業の公営企業による運営を可能とする
- 社会福祉プログラムを憲法上で保障
- 全ての労働者に「住居の権利」を保障
- 動物の保護と福祉に関する法的枠組みを強化
- 既存の独立自治規制機関(注2)を廃止し、通信監督機関を新設
- 治安対策として、情報機関や捜査機関の体制を強化
- 「恐喝」を重大犯罪として憲法に明記
- 電子たばこの生産・流通・販売を禁止
- 在来トウモロコシの保護と遺伝子組み換えトウモロコシの栽培禁止
- 外国の干渉(選挙介入、領土侵犯、クーデターなど)を明確に拒否する文言を憲法に追加
- 公職の即時再選や親族による継承を防止する選挙制度改革
- 行政手続き簡素化による汚職防止と発展の促進
経済面では、底堅い経済成長(注3)や、2025年上半期(1~6月)の対内直接投資額が過去最高を記録したこと(2025年9月4日記事参照)など、マクロ経済指標に言及し、好調をアピールした。また、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が維持されており、米国の追加関税の影響は他国に比べて低いとして、外交成果を強調した。
好調な指標の裏には不安要素も、支持率は高水準
非営利組織のメキシコ競争力研究所(IMCO)のバレリア・モイ・ディレクターは、今後のメキシコ経済は楽観視できないとの見方を示した。2025年のGDP成長率も、メキシコ中央銀行の予測では0.6%と決して高くなく、「年次教書演説で挙げられた成果を正確に評価するには、通商環境の混乱が収まるまでもう少し待つ必要があるだろう」と評した。(「エル・ウニベルサル」紙9月2日付)。
現地「エル・パイス」紙が8月26~27日に1,223人を対象に行ったアンケート調査では、「シェインバウム大統領を評価するか」との質問に対し、「高く評価する」と「少し評価する」の合計が79%となった。「国の最も重要な課題は何か」という設問では、「治安の悪さ、犯罪率」が48%と最も多く、「汚職」が11%で2番目だった。こうした国民の要求に対応する姿勢が支持を集めているとみられる(「エル・パイス」紙9月1日付)。
(注1)CFEとPEMEXは「独立採算型国営企業(Empresa Productiva del Estado)」というステータスで、国営企業でありながら、民間企業と対等に競合する立場だった。この憲法改正では、再び純然たる「国営企業」のステータスに戻し、民間企業よりも優先できるようにした。
(注2)例えば、2025年7月には連邦経済競争委員会(COFECE)と連邦通信院(IFT)を廃止する法令が公布・施行された(2025年7月29日記事参照)。
(注3)シェインバウム大統領は、演説の中で2025年の実質GDP成長率予測が1.2%との発言をしたが、文中に記載のとおり、最新の中央銀行の発表では0.6%となっている。
(加藤遥平)
(メキシコ)
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