連邦経済競争法の改正を公布、反競争行為抑止につながる内容も国営企業には適用せず

(メキシコ)

調査部米州課

2025年07月29日

メキシコ政府は7月18日、連邦経済競争法(LFCE)の改正を官報で公布し、翌19日に施行した。この改正は、2024年末に行われた行政組織簡素化を目的に独立自治規制機関の連邦経済競争委員会(COFECE)と連邦通信院(IFT)を廃止する内容の憲法改正に起因するものだ。COFECEに代わって、国家独占禁止委員会(CNA)を創設し、事業者間の反競争的行為の取り締まりを強化する内容となっている。改正の重要な内容は次のとおり。

  1. 規制当局を独立自治機関のCOFECEから経済省傘下のCNAに変更
  2. 反競争的行為への罰則強化
  3. 企業結合の監視強化
  4. 審査プロセスの迅速化
  5. リニエンシー制度の利用条件整備
  6. コンプライアンスプログラム認定制度の導入
  7. 通信・放送市場の規制権限を連邦通信院(IFT)からCNAに移行
  8. 国営企業の活動への規制不適用
  9. 法案などへの意見書提出の制限

1.については、独立自治規制機関のCOFECEを廃止し、経済省傘下の独立行政機関として、CNAを創設する。連邦政府機関は通常、連邦政府機関法で規制されるが、CNAはその役割や機能に鑑み、LFCEの独自規定により規制される。改正後のLFCE第10条は、CNAの運営自治権と経営、審査で独立を定めており、最高意思決定機関の理事会のメンバー任命プロセス(注1)でも、独立性と専門性が配慮されている。

2.については、罰則を強化し、反競争的行為の抑止効果が高まると期待される。具体的な罰金の額については、添付資料表を参照。

3.については、企業結合(注2)の届け出義務対象となる買収・合併行為の基準額(注3)を引き下げた。また、届け出対象ではなかった企業結合について、当局が職権に基づく調査を行えるのは、従来は実行時点から1年間だったが、3年間に拡大する。

4.については、調査当局による調査期間延長を3回までに制限し、最長でも120営業日とする。また、企業結合についての事業者の届け出に関する当局の審査期間を従来の60営業日から30営業日に短縮する。複雑な案件についての特別延長期間も40営業日から20営業日に半減し、最長でも50営業日以内に決定する。

5.については、リニエンシー制度(課徴金減免制度、注4)の利用条件を整備し、調査開始前の申請かどうかや、申請の順番などによって罰金の軽減率などを規定した。

6.については、CNAが反競争行為防止や早期発見に向けた企業の自主的なコンプライアンスプログラムの認定を行い(認定期間は3年)、認定企業には罰則軽減などを行う。

7.については、従来はIFTが担っていた通信・放送市場の規制権限をCNAに移す。

エネルギー分野の国営企業の反競争的行為が懸念

今回の改正により、反競争的行為の抑制や当局の監視体制強化による効果的な取り締まりが期待される。ただし、8.に関連し、LGCEの規制は国営企業の石油公社(PEMEX)や電力庁(CFE)には適用しないため、電力や石油製品市場の自由競争が阻害されると懸念する声もある。また、9.に関連し、経済省から求められない限り、CNAは法案や規則案に関して、専門的な意見書を職権で出すことができなくなる。これにより、政府や国会の政策に対し、中立的立場から見解を出して再考を促すことがなくなると懸念される。

(注1)改正後のLGCE第13条は、調査を行う部署と決定を出す理事会との分離を定めている。第13-BIS条に基づき、理事会を構成する5人の理事(任期は7年で再選不可)は、行政府が推薦し、上院の過半数の承認を得て任命される。理事の要件としては、最低8年間の経済競争関連の職歴または研究歴、過去3年間は連邦政府省庁の大臣、検察庁長官、国会議員、州知事(メキシコ市長を含む)、政党の役員を務めていないことが求められるなど、専門性と独立性がある程度担保されている。

(注2)企業結合(Concentración)とは、競合企業、供給者、顧客などの事業者間で行われる株式・持ち分、信託、その他の資産の集中を招くような合併・支配権取得などの行為を意味し、買収や合併の対象となる企業の資産や売り上げが基準額を超える場合、当局に届け出て承認を得る必要がある。

(注3)買収・合併行為が次の要件を満たす場合、届け出義務が生じ、当局の承認を得る必要がある。

  1. 契約地とは無関係に、直接または間接的にメキシコで効果を生じ、かつ規模が法定価額算出係数(UMA、2025年は113.14ペソ、約894円、1ペソ=約7.9円)の1,600万倍(改正前は1,800万倍)相当額を超過する場合。
  2. メキシコでの年間資産、または年間売り上げがUMAの1,600万倍(改正前は1,800万倍)相当額を超過する規模の事業者の資産、または株式の35%以上の集中を引き起こす場合。
  3. 複数の事業者による企業結合で、UMAの740万倍(改正前は840万倍)相当額を超過する規模の資産、または会社資本金の集中をメキシコ国内で引き起すもの。ただし、当該事業者の資産または年間売り上げの合計額がUMAの4,000万倍(改正前は4,800万倍)相当額を超過する場合に限る。

(注4)事業者自らが関与したカルテルや談合などについて、調査当局に自主的に申告した場合に、違反行為に対する課徴金が免除、または減額される制度。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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