欧州議会各会派、一般教書演説に対し、実行のための域内産業への投資強調
(EU)
ブリュッセル発
2025年09月12日
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は9月10日、欧州議会本会議で一般教書演説を行い(2025年9月11日記事参照)、同議会の各会派に配慮して、競争力強化とクリーン産業ディールを柱とした気候中立の両立に加え、手頃なエネルギー、住宅、自動車、食料へのアクセスの実現に向け結束を強調した。
欧州議会各会派の党首の主な評価は次のとおり。最大会派で中道右派の欧州人民党(EPP)は、米国との関税交渉(2025年8月25日記事参照)について「関税率に満足はできないが、貿易戦争の回避は最善策」とし、批判は容易だが、重要なのは信頼関係を構築することと強調した。特に、連立合意を組む中道左派の社会・民主主義進歩連盟(S&D)に対し、米国との関税合意に対する立場を示さないことは連立合意を弱体化させると指摘した。同時に、選挙の公約どおり、オムニバス法案による企業の負担軽減や、防衛産業強化に向けた融資制度(2025年8月13日記事参照)など、成果が出始めている点に言及した。気候中立目標は野心的で、技術中立の原則に基づいて投資を呼び込み、デジタル化、単一市場の深化を推進する必要性を強調した。
S&Dは、米国との関税合意について、EU原産品は15%に対し米国製工業製品は関税撤廃と、公平ではない点を指摘した。また、米国からの天然ガスなどの購入費は域内のクリーン・デジタルへの移行に活用されるべきと呼応した。同じく連立合意を組む中道派の欧州刷新(Renew)は、欧州に技術はあるものの、クリーン・デジタルへの移行に必要な投資、政治的意思がないと指摘した。
環境政党の欧州緑の党・欧州自由同盟(Greens/EFA)は、欧州は「市場」から「強いリーダー」として、域内の再生可能エネルギー、産業に投資し、競争力強化を両立すべきで、実行に向けEPPを支持する考えを述べた。
右派の欧州保守改革(ECR)は、米国との関税合意は貿易戦争回避の観点から正しいタイミングでの正しい選択と評価した一方、グリーン・ディールは策定時と状況が異なり、現在は競争力強化の障害になっていると指摘した。
このほか、極右の欧州の愛国者(PfE)は、米国との関税合意はフランスをはじめEU域内の輸出産業への打撃となり、エネルギー産業では原子力の競争力を削ぐ内容だと指摘した。同じく極右の主権国家の欧州(ESN)は、欧州の結束には意見の自由が必要で、「温室効果ガス(GHG)を排出しても域内産業の雇用が重要」と発言できる自由が大事とした。他方、左派の欧州統一左派・北欧緑左派連盟(The Left)は、自由貿易協定(FTA)交渉の推進は世界の過剰生産問題を解決しないと指摘し、EU域内産業、インフラへの投資の必要性を強調した。
(薮中愛子)
(EU)
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