米国際貿易裁判所がIEEPA関税を無効と判断も、連邦控訴裁は判断の一時停止命じる、追加関税は当面継続へ

(米国、メキシコ、カナダ、中国)

ニューヨーク発

2025年05月30日

米国の国際貿易裁判所(CIT)は5月28日、トランプ政権が課した国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく追加関税は違法との判断PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を下した。その後、政権は直ちに連邦巡回区控訴裁判所に上訴PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。これを受け、控訴裁は翌29日、同控訴裁が検討する間、CITが下した判断を一時的に停止することを命じたPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。従って当面は、現在の追加関税措置が継続される。

今回の一連の裁判で対象となっている追加関税措置は、全ての国に10%の関税を課すベースライン関税、米国の貿易赤字額が大きい相手国・地域に設定した相互関税(2025年4月3日記事参照、注1)、フェンタニルや不法移民の流入阻止を目的としたメキシコ、カナダ、中国に対する10~25%の追加関税だ(2025年3月4日記事2025年3月7日記事参照)。米国の通商政策に詳しい法律事務所によると、中国に対する非課税基準額(デミニミス)ルールの適用停止も(2025年5月14日記事参照)含まれるもようだ。1962年通商拡大法232条に基づいて鉄鋼・アルミニウム、自動車・同部品などに課している追加関税や、1974年通商法301条に基づく対中追加関税などは対象外となっている。

CITは今回、米国では憲法上、連邦議会が「税金、関税、輸入税、および消費税を課し、徴収する」権限および「外国との通商を規制する」権限を有していることから、IEEPAが全ての国・地域からの輸入品に対して無制限に関税を課す権限を大統領に委任しているかどうかを判断した。CITは、1974年通商法122条は巨額かつ重大な国際収支赤字に、同301条は不合理または差別的な外国の通商措置や政策、慣行に対処する場合に限ってのみ大統領に関税を課す権限を与えていると他の通商法を例示し、IEEPAについても、議会は大統領に輸入を規制する無制限の権限を与えることを意図していないと判断した。また、IEEPAに基づく権限は、「米国の国家安全保障、外交政策、経済に対する、その原因の全部または大部分が米国国外にある異常かつ特別な脅威に対処」する場合にのみ行使できるとし、トランプ政権が主張していた関税によって生じる「圧力」または「影響力」は、緊急事態に対処するための直接的な手段にはならないとの見方を示した。これらの見解により、IEEPAに基づき課された関税を無効とし、永久に差し止めるために必要な行政命令を10日以内に発令するよう命じたPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)

しかし、連邦控訴裁は翌29日に、CITが下した判断を一時的に停止し、原告に対して、政権の申し立てに反対する意見書を6月5日まで、政権はそれへの反論を6月9日までに提出するよう命じた。これにより、少なくとも6月9日までは、現在の関税措置が継続することとなる。

IEEPAは大統領に対して経済取引を管理する広範な権限を与えていることや、司法は安全保障の定義について大統領に大きな権限を認めていることなどから、政権が敗訴する可能性は低いとみられていた。トランプ政権2期目では、IEEPAを軸に追加関税が発動されていたことから、仮にIEEPAに基づく大統領権限が無効となれば政権は大きな方針転換を迫られることになり、現在進められている関税措置を巡る貿易相手国・地域との交渉にも影響が生じる。ただし、裁判は最終的に連邦最高裁までもつれ込む可能性がある。国家経済会議(NEC)のケビン・ハセット委員長は5月29日、「米国におけるフェンタニル危機が緊急事態ではないという考えは、私にとって非常に衝撃的であり、控訴審でこの判決が覆されることは確実だ」と述べたほか、IEEPA以外にも追加関税を課すために「他に3つから4つの方法がある」(注2)とも述べている(政治専門紙「ポリティコ」5月29日)。今後の先行きは現時点では不透明なままとなっている。

(注1)相互関税は大多数の国・地域に対して4月10日から90日間(2025年4月11日記事参照)、中国に対しては5月14日から90日間(2025年5月13日記事参照)、適用が停止され、現在はベースライン関税10%のみが課されている。

(注2)IEEPAや他の通商法に基づく関税措置の詳細は、2024年12月10日付地域・分析レポート参照

(赤平大寿)

(米国、メキシコ、カナダ、中国)

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