米シンクタンク、日米合意の大統領令・共同声明・覚書を解説、合意内容の明確化を肯定的に評価

(米国、日本)

ニューヨーク発

2025年09月11日

日米両政府は7月に、米国の関税措置に関する協議で合意に達した(2025年7月24日記事参照)。その後、米国のドナルド・トランプ大統領は9月4日に日米合意に基づき対日関税を引き下げる大統領令を発令した(2025年9月5日記事参照)。また、日米両政府は同日、日本による米国産品の購入拡大や、日本製の医薬品や半導体などに対する米国関税措置の方針に関する共同声明(2025年9月9日記事参照)および日本の対米投資の対象分野や選定方法に関する了解覚書(2025年9月11日記事参照)を作成した。これら3文書に関する、米国シンクタンクの日米関係有識者の見方を紹介する。

戦略国際問題研究所(CSIS)のクリスティ・ゴベラ日本部長は9月10日、3文書の要点を解説する論考外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。同氏が指摘した3文書の要点は次のとおり。

  1. 大統領令:相互関税と一般関税の「積み重ね(スタッキング)」がないこと(注1)、日本製の自動車・同部品に対する関税の引き下げ(注2)を明記した。
  2. 共同声明:日本による米国産品の購入に関して金額や分野を明確化した。また、日本製の医薬品や半導体に対する将来の関税を他国と同等以下にするなどの方針を示した。
  3. 了解覚書:投資の期限や分野を明確化した。また、米国の「投資委員会」や日米の「協議委員会」を通じた投資対象の選定プロセスを明らかにした。さらに、投資から生じるキャッシュフローが「みなし配分額」に達するまで米国に50%/日本に50%分配し、その後米国に90%/日本に10%分配することが記載され、これはトランプ政権が7月に発表したファクトシート(米国が90%の利益を得るとの内容)と比べて日本に有益な条件となる。

ゴベラ氏は、これら合意内容の明確化を肯定的に評価したほか、米国の日本に対する関税率が他国より相対的に低水準になることで、日本製品の競争力が高まると指摘した。一方で、大統領令と覚書に日本が合意を履行しない場合に米国が関税を引き上げ得るとの記載が盛り込まれたことや、米国政府が3文書で言及されていない関税措置を導入する可能性などを指摘し、「潜在的な落とし穴も残る」と指摘した。

ハドソン研究所のウィリアム・チョウ日本部副部長は9月5日、覚書を分析する報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。報告書では、対米投資の日米の利益分配に関して、仮想事例を示して説明した。また、投資プロジェクトの有力候補として、米国のアラスカ州における液化天然ガス(LNG)の開発プロジェクトを挙げた。融資保証などが日本企業のプロジェクトの採算性に関する懸念解消に寄与するなどと解説し、「日本企業の対米投資促進に寄与する」「米日両国の深く重層的なパートナーシップをさらに確固たるものにする」とおおむね肯定的に結論付けた。

(注1)8月7日以降は既存の一般関税率(MFN税率)に15%の相互関税率が上乗せされているが、大統領令では、MFN税率が15%未満の品目に対する関税率はMFN税率と相互関税を合わせて15%を上限とし、MFN税率が15%以上の品目に対する関税率はMFN税率のみで相互関税は課されないよう米国の関税措置を修正することが規定された。なお、修正の日時は商務省が連邦官報に公示する。

(注2)1962年通商拡大法232条に基づく自動車・同部品に対する追加関税(25%)も、相互関税と同様、MFN税率が15%未満の場合にはMFN税率と232条関税を合わせて15%を上限とし、MFN税率が15%以上の場合には232条関税は課されない。なお、修正の日時は商務省が同大統領令の連邦官報外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの公示日(9月9日)から7日以内に連邦官報に公示する。

(葛西泰介)

(米国、日本)

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