米業界団体、追加関税措置の影響をまとめた調査結果を発表

(米国)

ニューヨーク発

2025年08月05日

全米外国貿易評議会(NFTC)は8月4日、「2025年サプライチェーン調査」の結果を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。複数の関税措置によって、原材料の調達に影響が出ていることや事業縮小が検討されているといった、在米国企業の反応がまとめられている。

NFTCは、米国に拠点を置く、貿易に関係する企業から構成される業界団体で、1914年に設立された。開かれた、ルールに基づくグローバルな経済を促進するため、国際税務、貿易、サプライチェーン、安全保障に関する政策提言などを行っている。

NFTCの調査結果によると、米国の通商政策がもたらす不確実性により、業種を問わず、企業は成長の停滞、事業縮小、投資の見直しを余儀なくされているという。さらに、米国内製造業の活性化を目的とした関税措置は、サプライチェーン上のボトルネックの発生、コストの上昇、米国の競争力低下を引き起こすなど、逆効果を招いているとした。

具体的には、今回の関税措置によってサプライチェーン上で最も影響を受けたこととして「原材料の調達」と回答した企業の割合は94%だった。重要な部品の多くが米国内で、容易に入手できないことが要因だった。また、「製品やサービスを縮小した、または導入を延期する」と回答した割合は56%、「米国拠点の事業を既に縮小した、または縮小する予定」は47%、「関税措置に起因する不確実性が米国事業への投資能力と将来計画を制限している」は75%だった。

米国の関税措置に対する外国の報復措置については、「自社の製品・サービスのグローバル競争力を弱めている」と回答した割合は60%だった。一部の企業は、米国市場への長期投資の見直しを開始しているという。また、回答企業の過半は、複数の追加関税措置の混在が、コンプライアンス順守のための負担を大幅に増加させていると回答した(注1)。NFTCは、これら影響は、調達先の多様化や契約交渉などに割けるリソースが限られている中小企業に、より深刻な影響が出る可能性があると指摘した。

これらの結果を踏まえて、NFTCは、企業がサプライチェーンを多様化する上で国際連携は不可欠で、米国政策立案者は戦略的なアプローチを採用すべきだと提言した。具体的には、(1)貿易相手国への明確な目標提示と測定可能な成果の定義、(2)米国内で商業的に入手できない製品に対する関税の適用除外、または段階的な措置、(3)関税を見直す「レビューと調整」プロセスの確立を提案した。そのほか、重要産業に対しては、税制優遇などのインセンティブが不可欠だと提言した。バイデン前政権下では、クリーンエネルギーや半導体など、安全保障上、重要と位置付けた産業に対して、インフラ投資雇用法(IIJA)やインフレ削減法(IRA)、CHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)などを基に補助金を拠出し、投資誘致を図っていた。だが、トランプ現政権は補助金を基にした投資誘致は行わず、代わりに関税措置を多用している(注2)。

(注1)米国に輸入する製品が、複数の追加関税措置の対象となる場合、特段の規定がない限り、原則として関税率は累積する。一方で、ドナルド・トランプ大統領は4月に、1962年通商拡大法232条に基づく自動車・同部品に対する追加関税、232条に基づく鉄鋼・アルミニウム製品に対する追加関税、不法移民やフェンタニルの流入阻止を目的とした国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づくメキシコとカナダの原産品に対する追加関税は累積しないといったルールを設けており(2025年4月30日記事2025年6月4日記事参照)、制度が複雑化している。

(注2)スコット・ベッセント財務長官は、関税、減税、規制緩和の3本柱によって米国内への製造業回帰を行うとする声明を発表している(2025年5月1日記事参照)。

(赤平大寿)

(米国)

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